過密人工林における間伐後の状況
三重県林業研究所 野々田 稔郎
◆はじめに
人工林の間伐は、健全な森林を育成するために必要不可欠な森林作業です。藤森(2010)は、間伐の意味を次の4つに整理しています。
①不健全な森林になるのを防ぐ間引き作業
②良い木を育て森林の価値を高める作業
③生育段階に応じて適宜、材を収穫する作業
④途中段階と最終の目標林型へ導くための作業
このうち④の途中段階の目標林型とは、最終の目標林型へ至る中間目標のような林型を意味します。途中段階の目標林型を経なければ、最終の目標林型へ誘導することは難しく、したがって、①~④の作業は、相互の関連性と最終の目標林型を念頭に置いた継続性が重要であると言えます。近年、労働生産性の悪化等から、適期に間伐が実施されず、過密となった人工林は、この継続性が途絶えがちとなった結果であり、その対策として実施される間伐・森林整備は、本来の「途中段階の目標林型」に修正することが目的であろうと考えられます。
◆過密人工林の間伐において指摘される問題点
過密人工林の間伐は、過密状態の解消を目的に、通常より強度の間伐が実施される傾向にあり、いくつかの問題点が指摘されています。
①過密人工林における強度の間伐は、急激に林冠を開放し、大きな環境変化を林分に与えるため、間伐後の成長を阻害し、良好な成長が得られない。
②また、急激な林冠開放にともない、風害等を誘発しないか危惧される。
③過密状態の林分では、下枝が枯れ上がって、樹冠長が小さくなる。このような林分に間伐を実施しても樹冠が回復せず、間伐後にあまり成長しない。
◆三重県内における間伐林分の調査
前述のことから、間伐実施林分の状況把握を目的として、県内の54林分(ヒノキ32林分:林齢37~60年生、スギ22林分:林齢34~68年生)を調査しました。図1は、林齢と林分密度の関係を示しています。図中の―▲―は、三重県林分収穫表(島田、2010)の林分密度であり、5年ごとに下層間伐が実施された場合の標準的な(≒理想的な)林分密度を示しています。同図に示すように、間伐前の林分密度(□)は、標準的な収穫表密度に比べて全体的に高く、3~4倍の密度の林分も見られます。これに対し、間伐後の密度(●)は、林分収穫表密度(-▲-)の周辺に示され、1回の間伐で、ほぼ標準的な密度となっています。図2に示すように、これらの林分の本数間伐率は、ヒノキ林分が平均41%(17~60%)、スギ林分が平均44%(21~73%)であり、林分収穫表の40~50年生林分の5年ごとの本数間伐率が10%程度であることから考えると、現実林分の本数間伐率は全体的に高く、一度に多くの本数を間伐していると言えそうです。
図-1 林齢と林分密度の関係 図-2 調査林分の本数間伐率
◆本数間伐率50%は強度間伐か?
ところで、図1、2に示した現実林分の間伐は強度な間伐と言えるのでしょうか。例えば本数間伐率50%の林分は、かなり強度の間伐が行われたと判断される方が多いと思います。しかし、無間伐の過密林分では、さほど強度な間伐と言えない場合が多いのです。図3は、ヒノキ45年生の無間伐林分(立木密度2450本/ha、上層木平均樹高17m、平均直径18cm)と10年前に間伐が行われた同齢のヒノキ林分(立木密度1600本/ha、上層木平均樹高18m、平均直径23cm)の直径分布を示しています。無間伐林分には、45年生であっても直径10cm前後の劣勢木が存在し、直径15cm未満の本数が全体の40%を占めています。これに対し10年前に間伐が行われた林分は、現状密度はやや高めですが、間伐時に劣勢木が除去され、全て直径16cm以上となっています。また、直径のバラツキも小さく、間伐の効果が現れています。
図4は、この両林分において下層間伐を実施した場合の本数間伐率と材積間伐率の関係を示しています。間伐実施林分と無間伐林分は、同じ本数間伐率でも、材積間伐率はかなり異なっています。また、本数間伐率より材積間伐率は低く、特に無間伐林分では、本数間伐率50%でも、材積間伐率は27%と、かなり小さい値です。無間伐林分では劣勢木等の小径木が多いため、間伐本数が多くなっても、実際の間伐材積は、さほど大きくありません。森林の健全性の向上や良好な肥大成長等の間伐効果を得るためには、材積間伐率で30%程度は必要である(藤森、2010)ことを考えると、図3、4に示した無間伐林分の本数間伐率50%や、間伐実施林分の本数間伐率40%程度の間伐は、さほど強度な間伐ではないと考えられます。また、本数間伐率は、林分の状況によって材積間伐率が異なるので、本数間伐率によって、密度管理を行う場合には注意が必要です。
図-3 無間伐林分と間伐実施林分の直径分布 図-4 本数間伐率と材積間伐率
◆間伐林分の胸高直径、樹冠長の状況
図5は調査林分の間伐後経過年数別の胸高直径(図5上)および間伐後経過年数別の樹冠長比(図5下)を平均値でそれぞれ示しています。なお、胸高直径は、実測値を標準的な密度(収穫表密度)に対応する胸高直径との比Dpで表しています。したがって、Dp=1で、収穫表の胸高直径と同程度の肥大成長を示し、Dp>1で収穫表より良好な肥大成長をしていることを意味します。図に示すように、間伐後1年以内の林分では過密林分の影響からDp<1となっていますが、間伐後2年以上では1前後の値を示し、徐々に間伐の効果が現れているものと推察できます。また、樹冠長比も間伐直後0.3前後であったものが、徐々に増加する傾向が認められました。先に、過密人工林の間伐上で危惧される問題点を述べましたが、今回の調査林分では、特にそのような問題となる事例は見られず、同程度の過密人工林に対する密度管理の参考事例と考えられました。
図-5 間伐経過年数と林分平均直径・樹冠長比
引用文献
藤森隆郎(2010)間伐と目標林型を考える,林業改良普及双書No163,(財)全国林業普及協会,191pp.
島田博匡(2010) 三重県のスギ・ヒノキ人工林における長伐期施業に対応した林分収穫表の作成,三重県林業研究所研究報告No.2,1-29.