三重県におけるカシナガ被害の実態とその対策方法について
三重県林業研究所 福 本 浩 士
1.はじめに
近年、全国的にナラ・カシ・シイ類の集団枯死(以下、ナラ枯れ)が広がっています。このナラ枯れは、カシノナガキクイムシ(写真-1)(以下、カシナガ)という甲虫が、ラファエレア・クエルキボーラ(以下、ナラ菌)という病原菌を媒介することで引き起こされます。
写真-1 カシノナガキクイムシの成虫(左:メス、右:オス)
ナラ枯れは古くから発生しており、カシ・シイ類では1934年に宮崎県及び鹿児島県で、ナラ類では1952年に兵庫県で発生の記録があります。1980年以降、徐々に被害発生地域が拡大し、1999年には16府県、2009年には27府県において被害が確認されています。
ナラ菌の媒介者であるカシナガは、形態的・遺伝的に大きく二つのグループ(おもに日本海側に分布するAグループと太平洋側に分布するBグループ)に分けられ、全国的にみるとAグループによる被害が拡大しています。
2.ナラ枯れの発生メカニズムについて
ナラ枯れについては、これまでにも多くの研究者がその発生メカニズムの解明に取り組んできました。現在では、以下のような過程で枯死に至ると考えられています。
①ナラ菌はカシナガによって枯死木から持ち出され、健全な樹木の組織の中に持ち込まれる。
②媒介されたナラ菌は、坑道内で繁殖して樹幹内部に拡大してく。
③ナラ菌が侵入した細胞は死ぬが、その周囲の生きている細胞は防御反応を起こし、道管内に二次代謝物質を蓄積させる。
④道管が目詰まりを起こすと通導機能が阻害され、やがて萎凋が進み枯死する。
ナラ枯れは、多くのブナ科植物(ブナ属を除く)で確認されていますが、枯死に至る割合は樹種により異なります(すなわち、穿孔を受けても枯れない個体も存在します。ここでは、穿孔被害と枯死木の発生をカシナガ被害とします)。ミズナラやコナラは枯れやすく、カシ・シイ類は枯れにくいと言われてきましたが、最近では同じ樹種でも枯れやすさは地域によって異なると考えられています。
また、樹種間での枯れやすさの違いは、道管分布の特徴(環孔材・放射孔材・散孔材)、葉の特性(常緑性・落葉性)等と深く関わっていると考えられています。
3.三重県におけるカシナガ被害の実態について
三重県では、1999年に県南部の熊野市、御浜町、紀和町において、コナラとコジイの枯死が初めて確認され、その後、穿孔及び枯死木の発生が徐々に拡大しています(図-1)。2009年には大台町大杉においてコナラへの穿孔が確認され、翌年にはコナラの枯死木も発生しました(写真-2)。
写真-2 大台町で発生したコナラの枯死被害
一方、県の北部地域でもナラ類の枯死が確認され、年々穿孔及び枯死の地域が南下しています。2009年には伊賀市坂之下においてコナラの枯死木が確認されています。
県内では北部・伊賀地域に分布するAグループと中部・南部地域に分布するBグループの両方が存在しています。
図-1 三重県におけるカシナガ被害発生地域の推移
4.被害木の駆除と予防について
カシナガ被害の対策は、駆除と予防の二つに分けることができます。
被害木の駆除は、おもに枯死木、異常木、幹からフラス(虫糞と木屑が混ざったもの)が大量に出ている生存木を対象とし、以下に記す方法があります。
①枯死立木等へのNCS樹幹注入処理によるカシナガの駆除
②伐倒丸太等を集積してビニルシートで被覆した後にNCSくん蒸処理によるカシナガの駆除
③伐倒丸太の粉砕・焼却処理及び製炭処理によるカシナガの駆除
④枯死立木等への粘着剤の樹幹散布によるカシナガの駆除
⑤立木及び伐倒丸太への菌類の接種によるカシナガの駆除
健全木をカシナガの穿入およびナラ菌の感染から守り、枯死被害を最小限に留める方法として以下の手法が開発されています。
①健全な立木の樹幹にビニルシートを巻き付け、カシナガの穿入を防止する方法
②健全な立木の樹幹へ殺菌剤を注入し、樹幹内でのナラ菌の生長を抑制する方法
③健全な立木の樹幹表面に粘着剤等を散布し、カシナガの穿入を防止する方法
④被害にあう前にナラ類を伐採して利用する方法
⑤化学合成されたカシナガの集合フェロモンを利用した大量捕獲方法(おとり木法・おとり丸太法)
いずれの方法にも、それぞれ長所と短所があります。被害地域の実態に応じて様々な方法を組み合わせて被害を最小限に抑えることが大切です。
5.おわりに
現在、林業研究所では、各地域の農林(水産)商工環境事務所森林・林業室と連携しながら、カシナガ被害地域の分布を調査しています。カシナガが穿入した木には丸い穿入口が有り、そこから大量のフラスが排出されて根元に堆積しています(写真-3)。このような被害木を見かけましたら、林業研究所またはお近くの農林(水産)商工環境事務所森林・林業室までご連絡ください。
写真-3 大量のフラスが根元に堆積したコナラ被害木
参考文献
黒田慶子(2008)ナラ枯れと里山の健康.(社)全国林業改良普及協会,東京.