ヒノキ心持ち無背割り正角材の人工乾燥における
材面割れと内部割れの少ない乾燥スケジュール
三重県林業研究所 小 林 秀 充
◆はじめに
近年、高温セット法などの高温乾燥技術の普及により、心持ち無背割り材について、材面割れを少なく乾燥することが出来るようになってきました。
しかし、これまで様々な乾燥スケジュールが提案されてきましたが、樹種や乾燥条件によっては材面割れだけでなく内部割れが多く発生することがあります。このような割れは、顧客に対し「強度的に大丈夫なのか?」といった不安を与える材料となっています。
そこで林業研究所では、県内産のヒノキ心持ち無背割り正角材を用い、内部割れや材面割れが少ない乾燥スケジュールの開発に取り組んでいます。今回は高温セット法と中温乾燥または天然乾燥を組み合わせた方法で、温度条件と乾燥時間の異なる5種類の乾燥スケジュールを試行したので、その結果を報告します。
◆高温セット法と材面及び内部割れについて
高温セット法とは、乾燥の初期に蒸煮を行い、その後、高温で乾燥しドライングセットを形成させることで、材面割れを少なくする乾燥方法です。
ドライングセットとは、曲げ木を作る時にも発生している現象です。木材は水分と熱により柔らかくなった状態で外力を受けたまま乾燥すると比較的容易に細胞が変形しそのままの形で固定されます。この時に引っ張りの力がかかっていると通常乾燥するときの収縮率よりも小さくなり、圧縮の力がかかっていると収縮率が大きくなる現象をドライングセットいいます。
通常の場合、木材は表面部分から乾燥が始まります。木材は乾燥すると縮みますが材の中心部は乾燥していないので縮まず、表面部分は縮みたくても縮めない状態になります。このため、表面部分に引っ張りの力が発生し材面割れが発生することになります。しかし、ここでドライングセットにより表面部分の収縮率を小さくすることで、無理に縮まなくてもよくなることから、材面の割れが少なくなります。
しかしながら、高温セット後、高温乾燥を続けると多くの内部割れが発生することがいわれています。これはドライングセットにより表面と内部の乾燥の収縮率に差が生じたためです。表面部分は収縮率をドライングセットにより小さくしたことで、通常の乾燥により収縮したであろう寸法よりもやや大きい寸法で乾燥固定されています。それに対し内部は通常の乾燥の収縮率であるうえ、高温で乾燥させることで急激な収縮が発生するためと考えられています。
◆乾燥試験スケジュール
内部割れや材面割れの発生状況を調べるため、乾球温度(以下DBT)95℃、湿球温度(以下WBT)95℃の蒸煮を8時間、DBT120℃WBT90℃の高温低湿乾燥を18時間行った高温セットを実施し、その後の乾燥温度を90℃と70℃に下げ、それぞれ120時間(5日間)と168時間(7日間)、168時間(7日間)と216時間(9日間)で乾燥を行い、それに加え天然乾燥を実施しました(表-1)。
なお、仕上げ後の平均含水率は11~16%となりました。
表-1 乾燥試験のスケジュール
◆材面割れについて
乾燥スケジュールと材面割れ長さについて、図-1に示しました。これは、試験材の4面に発生した材面割れ長さを合計したもの(試験材:長さ1.8m幅135mm角)の最大・最小値と中央値を示したものです。細い線が最大・最小値を示し黒い四角は中央値を示しています。
この結果、DBT を70℃、WBTを 50℃で168時間乾燥させたスケジュールCの最大値に大きな値がみられますが、今回試行したいずれの乾燥条件においても、中央値は500㎜よりも小さく、材面割れは少ないと考えられます。
図-1 各乾燥スケジュールにおける材面割れ長さの
最大・最小値、中央値、
◆内部割れについて
乾燥スケジュールと内部割れ長さについて、図-2に示しました。これは試験材中央部で切断し、断面に現れた割れの長さを合計したものの最大・最小値と中央値を示しました。また、図-3に内部割れの状況を示しました。
内部割れについては、DBT を90℃、WBTを 60℃で168時間乾燥させたスケジュールBやDBT を70℃、WBTを 50℃で168時間乾燥させたスケジュールC、天然乾燥を行ったスケジュールEの最大値に大きな値がみられましたが、今回試行したいずれのスケジュールにおいても、中央値は70㎜以下と小さく、内部割れは少ないと考えられます。
図-2 各乾燥スケジュールにおける断面に現れた
内部割れ長さの最大・最小値、中央値
90℃-60℃
120hr
90℃-60℃
168hr
70℃-50℃
168hr
70℃-50℃
216hr
天然乾燥
◆木口から距離と内部割れについて
図-4に木口からの距離とその断面に現れた内部割れ長さの変化について示しました。内部割れについては、いずれのスケジュールにおいても木口付近(0~10㎝)では多くの割れが発生していますが、木口から20㎝ぐらいの位置から収束し、少なくなっていることが明らかとなりました。
図-4 木口からの距離と各断面に現れた
内部割れ長さの関係(平均値)
◆まとめ
以上のように、県内産ヒノキ心持ち正角材(135㎜角)で材面割れ及び内部割れを少なく出来る乾燥スケジュールを示すことが出来ました。
今回の結果は研究所の木材乾燥機の試験に基づくものです。このため、木材乾燥機の規模や性能などにより異なる結果となることがあるので、各々の木材乾燥機で行う際は、今回の結果を参考として、乾燥スケジュールを検討してください。