ハタケシメジ菌床上面栽培における培養条件・発生処理時期について
三重県林業研究所 南 昌 明
1.はじめに
三重県では、ハタケシメジの菌床埋め込みによる栽培法を開発し、きのこの大型化による差別化を図るとともに、センター方式による菌床供給体制を整備し、生産拡大を図ってきました。しかしながら、菌床埋め込み栽培では、埋め込みにかかる作業性、埋め込みに用いるバーク堆肥の付着による商品性の低下等の問題が残され、菌床の上面から形状の良い子実体を安定的に発生させる技術と、集中発生を防ぎ発生を分散させる技術の開発が望まれてきました。
そこで、ハタケシメジ菌床上面栽培において、菌床の培養条件と発生処理時期が子実体の発生量と収穫日、きのこの商品性に及ぼす影響について検討したので、その概要を紹介します。
2.培養期間と培養温度別発生量
バーク堆肥3kg、米ぬか125 g、ビール粕250 gの割合で混合し、含水率を63%に調整した後、シイタケ菌床栽培用のポリプロピレン製の袋に2.5 ㎏詰め、118 ℃で90分間高圧殺菌しました。25℃以下になるまで一晩放冷した後、ハタケシメジ種菌(亀山1号菌)を接種し、温度20 ℃および22 ℃、いずれも湿度80%の条件下で培養しました。接種45日目より65日目まで10日毎に、12菌床ずつ、温度18 ℃、湿度100%の発生室に移動して子実体の発生を促しました。収穫はきのこの傘が開ききる前に行い、発生量、商品としての形状、接種より発生までに要した日数を調査しました。
表-1 培養期間別の子実体発生量
培養日数 平均発生量 培養温度 形 状 |
45日 610.0±120.9g 20℃ ○ 45 645.0±83.3 22 ○ 55 638.3±50.6 20 ○ 55 641.7±92.2 22 ○ 65 583.3±103.2 20 △ 65 568.3±86.2 22 △ |
いずれの培養温度の菌床も、接種後49日で菌床全体に菌糸が蔓延し、培養温度の違いによる菌糸蔓延日数に有意差は認められませんでした。
培養期間別の発生量は表-1のとおりで、65日培養のみ発生量が600gを下回りましたが、他の培養期間との間に有意差は認められませんでした。しかし65日培養では、団子状の子実体や不揃いが見られ、きのこの商品としての形状が低下しました(図-2)。
図-1 45日培養菌床による発生状況
表-2 接種より発生までに要した日数
培養日数 所要日数 培養温度 |
45日 70.8±1.4 20℃ 45 73.3±0.8 22 55 77.3±1.3 20 55 79.3±1.0 22 65 84.3±3.6 20 65 86.8±2.1 22 |
接種より発生までに要した日数は表-2のとおりで、45日培養に対し10日間延長することにより、収穫日を1週間程度遅らせることが可能でした。しかし、どの培養期間においても、22 ℃培養より20 ℃培養の方が発生までに要した日数が短くなりました。
図-2 65日培養菌床における発生状況
3.菌床の培地重量別発生量
先の試験と同様の培地組成で培地重量が1.5 ㎏、2.0 ㎏、2.5 ㎏の菌床を作製し、温度22 ℃、湿度80%の条件下で50日間および60日間培養した後、温度18 ℃、湿度100%の発生室に8菌床ずつ移動して発生処理を行いました。
結果は表-3のとおりで、培地重量が増加するにつれて発生量も増加しましたが、菌床1 ㎏換算における発生量はいずれも270g前後でした。また、いずれの培地重量においても、50日培養と60日培養の発生量には有意差は認められませんでした。
表-3 培地重量別の発生量
培地重量 平均発生量 培養日数 |
1.5㎏ 378.5±43.3 50日 1.5 395.0±38.1 60 2.0 561.4±72.4 50 2.0 565.7±48.3 60 2.5 705.0±64.1 50 2.5 653.8±76.7 60 |
4.林業研究所の育種した系統における発生量
先と同様の方法で培地を作製し、林業研究所において育種、選抜したハタケシメジLD96-4⑦株を接種しました。温度22℃、湿度80%の条件下で培養し、接種60日目より10日毎に80日目まで、8菌床ずつ、温度18℃、湿度100%の発生室に移動し発生処理を行いました。
結果は、表-4のとおりで、いずれの培養期間においても1菌床当たり550g程度の子実体が発生し、三処理間に有意差は認められませんでした。また、LD96-4⑦株では培養期間を延長してもきのこの形状が低下することはありませんでした。
表-4 LD96-4⑦株の培養期間別発生量
培養日数 平均発生量 形 状 |
60日 540.0±55.8 ○ 70 558.8±34.0 ○ 80 568.8±96.7 ○ |
5.栽培上の問題点と今後の課題
以上の結果から、ハタケシメジの菌床上面発生を行う場合には、22 ℃前後で培養し、培地全体に菌糸が蔓延していなくとも、培養後期に菌床を発生室に移動することにより正常な発生が可能なことが明らかになりました。また、同時期に作製した菌床でも、発生室に移動する時期を分散させることにより、収穫時期の調整が可能なことが分かりました。
図-3 LD96-4⑦株の発生状況
ただし、系統によっても異なりますが、亀山1号については培養期間が60日を超えると、きのこの商品性が低下する恐れがあるので注意が必要です。菌床の重量は作業の効率性、1菌床当たりに使用する種菌の量や栽培袋等のコストを考慮すると、2.5 ㎏培地を使用することが有効であると考えられました。
亀山1号については、45~55日間培養した後、発生処理を行う栽培方法を活用することにより、空調施設が整備された生産現場で、上面栽培においても、より安定的に形状の良いハタケシメジが収穫できることが明らかになりました。さらに、菌床生産現場で一度に大量の菌床を作製し、発生処理時期を調整することにより、出荷に見合った生産調整が可能になると考えられます。
現在、ハタケシメジ生産現場にこの栽培方法を技術移転し、安定出荷を目指しています。
図-4 生産現場における菌床上面栽培