スギ人工乾燥における表面割れと内部割れの少ない乾燥スケジュール
-様々な乾燥方法を組み合わせる-
三重県林業研究所 福 本 浩 士
はじめに
三重県内のスギ・ヒノキ人工林では、これまでの柱材生産を中心とした施業(伐期50年生程度)から、省力化や付加価値向上等を目指した林齢100年生以上の長伐期施業へと転換する傾向にあります。とくに肥大成長の良いスギでは、長伐期化によって中・大径丸太生産に移行しつつあります。このため、これらの中・大径丸太を梁桁材に利用することが期待されています。
近年、住宅の建築工法が真壁工法から大壁工法へと変わりつつあり、寸法精度の高い材、すなわち乾燥材への需要が高まっています。また、表面割れの発生は施主と工務店の間でトラブルになることが多く、内部割れの発生は強度面での不安が残るなど様々な問題が残されています。
そこで林業研究所では、県内産スギの梁桁材への利用拡大を図ることを目的とし、含水率が20%以下で、表面割れと内部割れが少ない乾燥スケジュールの開発に取り組んでいます。今回は高温低湿処理と中温乾燥や天然乾燥と組み合わせた乾燥スケジュールを紹介します。
高温低湿処理と中温乾燥を組み合わせる
乾燥の初期に蒸煮を行い、その後に高温低湿処理を施すことによってドライングセットを形成させ、木材の表面割れを抑制する技術が開発されました。しかしながら、そのまま高温乾燥を続けると、内部割れが発生してしまうという問題が新たに生じてきました。そこで、高温低湿処理後に乾燥温度を100℃以下に下げることで、内部割れの発生を抑制できるようになりました。
このような乾燥スケジュールは、おもにスギの柱材を対象として開発されてきました。しかしながら、スギの材質は地域によって異なり、また断面の大きな梁桁材では柱材とは異なった乾燥スケジュールが必要になってきます。そこで、県内産のスギ梁桁材に最適な乾燥スケジュールを検討しました。今回の試験ではできるだけ高温低湿処理の時間を短くすることを目的として処理時間を3種類(12時間、18時間、24時間)設定しました(表-1)。
表-1 乾燥試験のスケジュール
その結果、試験材の平均含水率は高温低湿処理12時間で15.3%、18時間処理で17.7%、24時間処理で19.9%でした。しかしながら、仕上がり含水率には試験材間でばらつきが大きく(図-1)、生材含水率が100%以上の高含水率材は今回の乾燥スケジュールでは20%以下にすることができませんでした。また、仕上がり材の含水率が15.7%の場合でも中心付近の含水率が20%以上であり、含水率傾斜が認められました(図-2)。
図-1 生材含水率と仕上がり材含水率の関係
図-2 高温低湿処理18時間+中温乾燥における含水率分布の
一例(仕上がり材含水率15.7%)
表面割れの長さ(4面の合計値)は、処理条件による違いはありませんでした。内部割れについては、高温低湿処理の時間による違いはなく、150mm
図―3 仕上がり材含水率と内部割れ面積の関係
(115mm×235mmの断面における内部割れ面積)
高温低湿処理と天然乾燥を組み合わせる
高温低湿処理後に天然乾燥をすることで、乾燥時間はかかりますが、乾燥コストを下げることができます。また、天然乾燥することで人工乾燥よりも材色を良く仕上げることができます。そこで、6時間の蒸煮後に2種類の高温低湿処理(24時間、48時間)を行い、その後天然乾燥を約1年間(屋内での養生期間を含む)実施しました。また対照区として、天然乾燥のみの条件も実施しました。
図-4 生材含水率と仕上がり材含水率の関係
その結果、いずれの条件においても仕上がり材含水率は15~20%でした(図-4)。とくに、生材時の含水率が100%以上である高含水率材においても20%以下に仕上げることができました。また、表層から中心部分まで均一に乾燥させることができました(図-5)。
図-5 高温低湿処理24時間+天然乾燥における含水率分布の
一例(仕上がり材含水率16.0%)
図-6 天然乾燥のみにおける含水率分布の
一例(仕上がり材含水率15.9%)
表面割れの長さ(4面の合計値)については、高温低湿処理を行った後に天然乾燥を実施した場合の方が、天然乾燥のみを実施した場合よりも短かくなりました(図-7)。
図-7 各乾燥条件における表面割れの長さ
(3.5mあたりの4面の合計値)
内部割れについては、いずれの処理条件においても、100mm