スギ・ヒノキ人工林の長伐期施業に対応した林分収穫表の作成
三重県林業研究所 島 田 博 匡
はじめに
近年、木材価格の低迷や労働力不足などの受動的な動機、あるいは材質や収益性の向上、保育作業の軽減といった積極的な動機により、全国的にスギ・ヒノキ人工林は短伐期施業から長伐期施業へと移行する傾向がみられます。三重県の民有林においてもスギ・ヒノキ人工林のうち、従来の伐期齢を越えた林齢50年生以上の面積が約45%を占めており、今後も増加することが予想されます。
このような人工林の管理技術が必要となりますが、これまでの林業技術は柱材生産を主眼とした短伐期施業のためのものであり、長伐期施業に適用することはできません。そのため長伐期施業に対応した森林管理技術の確立が求められ、特に成長予測、資源量把握に不可欠な林分収穫表の作成は急務といえます。そこで、林業研究所では三重県独自の長伐期施業に対応した林分収穫表を作成しました。
林分収穫表とは?
林分収穫表(以下、収穫表とする)とは、成長条件が似た地方で、ある樹種の同齢林が標準的な方法で管理された場合の、平均樹高、平均直径、本数、材積など林分因子の基準的数値を林齢ごとに示した表です。通常は地位(土地の善し悪し)別に整備されており、将来の成長量、収穫量の予想、現存資源量の広域的把握、標準的な施業や密度管理の指針、経営成果の判定などに用いられます。なお、三重県における最新の収穫表は、1983年に作成された「三重県民有林スギ、ヒノキ人工林林分材積表及び収穫予想表(以下、既存収穫表とする)」でした。
なぜ新たな収穫表を作成する必要があるのか?
既存収穫表は林齢80年生までしか対応していません。また、林齢60年生程度までの林分データから作成していることや作成方法の特性から、従来の伐期齢を越える予測での適合性には懸念があります。
近年、他県では長伐期対応版の収穫表が作成されるようになっていますが、林木の成長には地域性があることから、他地域の結果をそのまま三重県に流用することはできません。
そのため、三重県においても高齢林におけるデータを蓄積し、高齢林の成長特性を解明するとともに、三重県独自の長伐期施業に対応した林齢150年生程度までの収穫表を作成する必要があります。
収穫表の作成
収穫表の作成にあたり、三重県全域の高齢人工林からスギ45林分、ヒノキ48林分を選定し、毎木調査を行いました。このデータに既存収穫表作成に用いた若~壮齢林データを加え、スギ194林分、ヒノキ198林分のデータを使用して、作成を行いました。
収穫表は地位ごとに作成されるため、まずは地位の区分と地位ごとの成長基準を作成する必要があります。そこで、管理方法の影響を受けにくい樹高を地位の指標として採用しました。林分データの林齢と樹高の関係から地位指数曲線を作成し、これを成長基準としました(図-1;スギの例)。
次に、林分データの樹高、直径、材積など林分因子の相互関係を求め、図-2に示すフローに従って、地位指数別に収穫表の構成数値を決定しました。この作業により林齢10年から150年生までの収穫表を作成しました。その一例を表-1に示します。
作成された収穫表の特徴
作成した収穫表から、スギの直径と幹材積の数値を図-3に示します。従来は高齢級において成長が頭打ちになると考えられていましたが、高齢級になっても成長傾向を示すことが明らかになりました。
また、作成された収穫表の樹高(スギ)、直径、幹材積は林齢約40年生以上で既存林分収穫表よりも大きくなる傾向がみられました。
図-3.作成された林分収穫表の直径と幹材積(スギ)
おわりに
今回作成した収穫表は長伐期化傾向にある三重県内のスギ・ヒノキ人工林の管理や収穫予測、資源量の把握などを行う上で有益なツールになると考えられます。今後、より柔軟な収穫予測が可能となるようにシステム収穫表の開発に取り組む予定です。
作成した収穫表と作成方法の詳細は、三重県林業研究所ホームページにおいて公開する予定です。
なお、高齢林調査にあたり県内の多くの山林所有者様にご協力いただきました。ここに記して謝意を表します。