オオイチョウタケの人工栽培について
三重県林業研究所 西井 孝文
1.はじめに
オオイチョイウタケは、県内山間部のスギ林に9月下旬から10月上旬に発生する大型の白いきのこで、風味、歯ごたえともに良く、商品性が高いことから、地元では「スギタケ」と呼ばれて重宝がられています。
林業研究所では、1995年にオオイチョウタケの人工栽培に関する研究を始め、2000年秋に宮川村(現大台町)地内のスギ林で、県内で初めての人工栽培に成功しました(2001年日本林学会中部支部大会、2003年日本木材学会において発表)。スギ林での栽培試験はすでに全国各地で実施されていますが、林業研究所ではスギ林だけでなく、竹林や、林地外でも栽培試験を実施していますので、その結果を紹介します。
2.林地利用による栽培試験
1菌床当たりバーク堆肥1.2kg、米ぬか50g、ビール粕100gの割合で混合し、含水率を63%に調整した培地を、ポリプロピレン製のシイタケ菌床栽培用袋に1個当たり1.0㎏詰めました。温度118℃で90分間殺菌した後、あらかじめ同様の培地組成で培養しておいたオオイチョウタケ種菌を接種し、温度23℃、湿度70%の条件下で培養し菌糸の蔓延を促しました。2001年春に、培養の完了した菌床60個を、バーク堆肥を用いてスギ林および竹林に埋め込みました。
いずれの試験地も菌床埋め込みより約1年半後の2002年10月に子実体が発生し、その後も発生場所が毎年1m程度移動しながら継続して発生が認められました。なお、スギ林の試験地では、初回の発生は多かったもののその後発生量が減少し、最後は谷で寸断され発生が終了しました(表-1、図-1)。
表-1. スギ林における発生量
発生年度 |
発生本数(本) |
発生量(kg) |
発生日 |
2002 |
58 |
3.0 |
10月 1日 |
2003 |
40 |
1.2 |
10月10日 |
2004 |
51 |
1,5 |
10月12日 |
2005 |
50 |
0.5 |
10月 5日 |
2006 |
23 |
0.5 |
10月 2日 |
2007 |
1 |
- |
10月15日 |
図-1.スギ林における発生状況
竹林では、最初の発生は少なかったものの、その後発生量が増加し、現在も移動しながら発生が続いています(表-2、図-2)。
表-2. 竹林における発生量
発生年度 |
発生本数(本) |
発生量(kg) |
発生日 |
2002 |
18 |
0.3 |
10月 3日 |
2003 |
7 |
0.3 |
10月 7日 |
2004 |
19 |
0.6 |
10月15日 |
2005 |
29 |
1.5 |
10月 9日 |
2006 |
153 |
7.8 |
10月 4日 |
2007 |
73 |
1.9 |
10月 9日 |
2008 |
39 |
1.3 |
10月 6日 |
図-2.竹林における発生状況
その後も同様の方法でスギ林にオオイチョウタケ菌床を埋め込みましたが、いずれも初回の発生が多く、その後減少するという傾向が見られました。
3.シイタケ人工ほだ場を用いた栽培試験
2002年春に、先の試験と同様の方法で作製した1㎏菌床4個を、バーク堆肥を用いて市販のプランタに埋め込み、菌糸を蔓延させたもの5個を、シイタケ人工ほだ場にハタケシメジ廃菌床を用いて埋め込みました。
林地栽培と同様、埋め込みより約1年半後の10月に子実体の発生が認められ、その後ハタケシメジ廃菌床を追加することにより毎年継続して発生が認められましたが(表-3、図-3)、林地栽培同様、一度発生した場所からは発生が認められませんでした。
表-3. シイタケ人工ほだ場における発生量
発生年度 |
発生本数(本) |
発生量(kg) |
2003 |
40 |
1.2 |
2004 |
160 |
3.6 |
2005 |
77 |
3.3 |
2006 |
16 |
1.3 |
2007 |
14 |
0.7 |
2008 |
8 |
0.3 |
図-3.シイタケ人工ほだ場における発生状況
その後も新しいシイタケ人工ほだ場に菌床を埋め込んだところ、同様に子実体の発生が認められましたが(図-4)、発生面積が限られるため、林地栽培のように継続して発生させることが困難であることが示唆されました。
図-4.シイタケ新ほだ場における発生状況
4.栽培上の問題点と今後の課題
今までの試験から、オオイチョウタケの野外栽培を行う場合には、培養の完了した菌床を3月上旬から4月下旬にかけて、肥沃なスギ林や竹林に埋め込むのが良好なことが分かりました。秋埋め後1年で発生することもありますが、春埋めで発生まで1年半かけた方が発生は確実です。埋め込む菌床は、作業性、コストを考えて、一カ所当たり2.5㎏菌床を10個から20個程度が適当です。菌床を埋め込んだ後、菌糸が伸長しやすいようにバーク堆肥で埋め戻し、落葉落枝で上部を覆います。林地以外でも菌床埋め込みによる人工栽培は可能ですが、毎年収穫するためには広い面積が必要なこと、林地栽培に比べてきのこの風味が劣る等の問題が残されています。
また、オオイチョウタケの野外栽培では、菌床埋め込みから発生までに1年以上の期間を要すること、発生が地形、気候等によって左右されること、発生場所が毎年1m程度移動し、一度発生した場所からは発生しないことなどから、同一場所における安定生産技術の開発と栽培期間の短縮が必要です。
さらに、オオイチョウタケは種菌の維持が難しい上、系統により下痢等軽い中毒症状を起こすものがあることから、実用化に当たっては、十分安全性の確認された種菌を用いる必要があります。
オオイチョウタケの発生場所に、形状のよく似た白いきのこが発生することがあります(図-5)。このきのこは、カヤタケ属のきのこで正式には分類されていませんが、地元ではオオイチョウタケ同様スギタケと呼ばれ、昔から食用として利用されてきました。しかし、他県では中毒例もありますので、食べない方が賢明です。
図-5.スギタケと呼ばれている小型のきのこ