県産スギ横架材スパン表について
三重県林業研究所 宮 本 正 行
はじめに
県内で建築される木造軸組工法の住宅では、梁・桁材にベイマツや欧州産材ラミナによる集成材など外材が多く使われています。一方、県内のスギ人工林資源は、伐期の長期化に伴い中大径材の有効活用が課題となっています。県産スギ材が梁・桁など横架材としての利用が増えることを目的に、スギ横架材スパン表を作成し3月に公表しました。当所サイトからダウンロード可能です。
http://www.mpstpc.pref.mie.lg.jp/RIN
このスパン表についてQ&A形式で紹介します。
図1 表 紙
Q1 スパン表のねらいは。
A1 梁桁材には古くからマツが使われており、県産スギ材を使いたいが強度的に心配だ、スパン表があれば安心だという建築士さんの声を聞きます。
このスパン表でスギでも断面サイズを大きくすれば十分使えるということをわかっていただき、県産材をより多く使ってほしいと思います。
Q2 スパン表は全国で作成しているの。
A2 全国版としては(財)日本住宅・木材技術センターが発行していますが、強度との関係が弱い目視等級区分によっており、また床梁、胴差、小屋梁、軒桁等の主要部材がベイマツで作成されています。
このため、10数県で県産スギ材の需要拡大を図るため、機械等級区分に基づいたスパン表を作成しています。
Q3 各県で作成する必要があるの。
A3 スギの強度性能等は品種、生育環境等により違っており、全国的にも東海・近畿地区は強度が高いという地域特性もあります。安全安心な部材を供給し、機械等級区分に応じて有効活用するためには、強度性能を把握する必要があります。
また、建築様式が地方によって異なるため、各県に応じたスパン表が必要です。
Q4 三重県産スギ材の強度特性は。
A4 スパン表の作成のために実施した県産スギ平角材(中温乾燥又は天然乾燥材165本)の曲げ強度試験結果は、E90以上が69%を占めており、全国的にも高いヤング係数であるといえます。
また、基準強度については、建設省告示の数値と同程度でした。
図 2 機械等級区分材の度数分布
Q5 スパン表の適用範囲は。
A5 主な適用範囲は次のとおりです。
① 2階建て以下及び延べ床面積500m
② 矩形で無垢の県産スギ材
③ 継ぎ手のない下端に切り欠きのない単純梁
④ 床小梁、床大梁、胴差、小屋梁、軒桁
⑤ モジュールは910mm
⑥ 材幅は120mm、135mm(小梁は105mm、120mm)
⑦ 屋根勾配は瓦ぶき5寸以下、スレートぶき3寸以下
⑧ 積雪条件は一般地
Q6 三重県のスパン表の特徴は。
A6 スパン表における断面寸法は、代表的な条件を設定し、建築基準法で定められた許容応力度計算により算出していますが、部材の使用条件が当スパン表の設定条件より安全側でなければ使用することができません。
このため、誰でも間違いなく使えるように、最初に使い方のフローチャートを掲載しています。接合強度についての注意喚起のため梁材端の反力も表示しています。
また、実際にスパン表を使っていただく設計士や工務店の方々に協力していただき、県内で多く使われているスパンや荷重パターンを採用しています。
図 3 フローチャート
Q7 機械等級区分された材は流通しているの。
A7 全国的にも機械等級区分のJAS認定工場が増えてきていますが、県内では梁桁材を機械等級区分できるグレーディングマシンの導入が少ない状況です。
しかし、機械等級区分された材でなくても無等級区分(E70G)を設けてあるので、当スパン表が使用できます。
Q8 未乾燥材も適用できるの。
A8 当スパン表では、クリープたわみや変形などの問題を考慮して含水率20%以下に乾燥された材としています。
しかし、やむを得ず乾燥が不十分な場合、含水率が25%程度であれば無等級区分(E70G)を適用してください。
Q9 高温乾燥材も適用できるの。
A9 当スパン表の基礎となる県産スギの強度データは、中温乾燥又は天然乾燥した平角材によるものです。
乾燥の初期から終了時まで連続して100℃以上の高温で乾燥された場合やドライングセット時間が長い場合等の高温乾燥材は、ヤング係数の低下はないものの曲げ強度が低下しますので、当スパン表は適用できません。
Q10 利用に当たって留意することは。
A10 高い等級材があればそれを求めたくなるものですが、低い等級材でも強度は確保できるので広く適材適所に使っていただきたいと思います。
また、断面は最小寸法であり、たわみ制限や断面欠損なども最小値で計算していますので、現実的にはワンサイズ大きなサイズを採用するなど考慮してください。
図 4 スパン表の例(床大梁)