コンテナ苗の植栽適期
林業研究所 山中 豪
植栽適期というと、秋に植えるとか春に植えるとかいった話になりがちですが、植えられる側の苗木の状態についても考慮されて然るべきです。苗木は生きていますから、そのコンディションは刻々と変化しています。果して、苗木には賞味期限のようなものは存在するのでしょうか。スギコンテナ苗を使用した試験を元に議論します。
◆残苗の問題
コンテナ苗は裸苗と比較して価格が高いことから、生産コストを低減する手法の開発が求められています。本誌においても、生産コストを低減させることを目的とした、1成長期で出荷可能なコンテナ苗を作る技術などを紹介してきました(本誌No.419)。しかし、どれだけ低コストに苗を作ることができたとしても、出荷されない残苗は少なからず生じます。残苗は最終的には廃棄するしかありません。残苗をいかに少なくするかが、何よりのコスト対策と考えられます。
◆スギコンテナ苗の保存試験
本誌No.419で紹介したように、スギコンテナ苗においては、春播種してその年の秋に植えられる大きさに育てることができます。これが翌春までに全て売れれば、生産コスト的にもベストなのですが、大抵、幾分売れ残ると予想されます。また近年では、一貫作業システムの普及が推進されており、その中で、季節を選ばずコンテナ苗を植栽していこうという動きがあります。そのため、どんな季節であっても、植栽に耐える良いコンディションのコンテナ苗を保有しておくことが、苗木業者に求められることになります。
これらのことから、令和元年4月に播種し、その後1成長期の育苗で植栽に十分な大きさとなった苗木を、次の成長期に異なる環境で保存することで、保存環境と苗木の変化の関係を調査しました。保存を経ても苗木はコンディションを保てるのでしょうか。あるいは残苗として処分するしかないのでしょうか。
試験は令和2年3月から開始しました。苗木を、冷房を18℃で効かせ、光を遮断した恒温室内(以下、冷房室区)、遮光シート下(以下、遮光シート区)、育苗に使用していているハウス内(以下、育苗ハウス区)それぞれに移動し、令和2年11月まで保存しました。苗木の変化については、地上部の大きさ(苗高、根元径)とT/R比(地上部乾重/地下部乾重)に注目しました。試験開始前の令和2年2月時点では、苗木の苗高は30~60cm程度(図-1)、根元径は4~6mm程度(図-1)、T/R比は平均5程度(図-2)でした。なお、苗木のT/R比は2~3程度が好ましいとされているので、試験前のT/R比は若干高いといえます。形状(特に苗高)はあまり変わらず、T/R比だけ低くなってくれたら嬉しいのですが、結果は次の通りとなりました。
【冷房室区】地上部の形状はあまり変化せず、形を維持することができた一方で(図-1左)、T/R比は高くなりました(図-2)。しかしながら、試験終了後に屋外の日陰に出したところ、およそ半数の苗木が枯死してしまいました。暗い場所で長期間保存した結果、栄養状態が著しく悪くなってしまった可能性が考えられました。
【遮光シート区】T/R比は若干低くなりましたが(図-2)、地上部は大きく育ってしまいました(図-1中央)。遮光シート程度では、成長を抑えることは難しいと考えられました。
【育苗ハウス区】地上部は大きく育ち(図-1右)、T/R比は2~3程度とかなり低い値となりました(図-2)。
○試験前(令和2年2月時点) ●試験後(令和2年11月時点)
図-1.各処理区の試験前後の苗高および根元径
図-2.各処理区の試験後のT/R比
菱形のシンボルは平均値
◆保存しておいた苗は使えるのか
遮光シート区と育苗ハウス区の苗木は、苗高が50~80cm程度と大きくなってしまいましたが、T /R比はそれなりに好ましい値となっており、数値だけみると良い苗であるように見えます。しかし、これらの苗木は根に問題を抱えています。コンテナで長期間栽培された苗木の根は、激しく絡み、根詰まりの状態になります(写真-1)。根詰まりした苗は、植栽後の根の再生能力が低下し、植栽後の生存率の低下などの悪影響を与えることが知られています。育苗ハウス区の苗木の根鉢は特にギチギチに詰まっており、良い状態の苗木とは言えません。
写真-1.育苗ハウス区の根鉢(令和2年3月撮影)
とはいえ、使えるかどうかは植えてみなければ解りません。令和2年12月、各処理区の苗木と、令和2年4月播種の1年生苗を混植し、その経過を調査しているところです。その結果はまだ出ていませんが、別途行っている植栽試験から、極端な例を紹介します。令和元年4月に播種し、1成長期育苗した1年生苗と、平成30年4月に播種し、2成長期育苗した2年生苗を、令和2年3月、平坦な林地に植栽しました。植栽時、2年生苗は、育苗ハウス区の苗と同様に、ギチギチに根が詰まっていました。またそれだけでなく、この2年生苗は育苗密度が高い環境で育苗していたことから、地上部が細長い形となっていました(写真-2左上)。細長い苗は好ましいとはいえません。植栽から2成長期が経過した現在、1年生苗は旺盛に成長している一方、2年生苗の多くはあまり成長していません(写真-2)。このように、状態の悪い苗木を使うことで、植栽後の成長を期待できなくなってしまう危険があります。
写真-2.植栽時と植栽後2成長期後の比較
左)2年生苗、右)1年生苗、それぞれ同じ個体を撮影。背景の格子は10 cm間隔。
◆苗木に賞味期限はあるのか
ここまでコンテナ苗の話をしてきましたが、裸苗やポット苗では、また事情が異なります。裸苗においては、施肥の調整や根切り、または床替えにより、年数をかけて強く太い苗を作るノウハウがあります。ポット苗では、根が詰まってきたら一回り大きなポットに植え替え、大きな苗木として仕立てていくことができます。問題はコンテナ苗です。育ちすぎて根が詰まったら、賞味期限内とはいえないかもしれません。実は良い対策があります。海外では、十分な大きさとなった苗木から-2℃の冷凍室に入れて保存しているのです。そこまでできれば良いのですが、冷凍室のコストを考えると本末転倒になりかねません。
◆おわりに
造林事業者の皆様には、本稿により苗木を余らせるリスクを知っていただけたかと思います。良い苗木の入手と、育苗コストの低減を実現させるため、まずは残苗が少なくなるよう、綿密な植栽計画の作成と、密な需給調整にご尽力いただければ幸いです。