作業日報の活用に向けた現状と課題
三重県林業研究所 石川 智代
作業日報は、日々の作業履歴を蓄積する大事な記録です。作業日報を素材生産作業などの工程管理に利用する取組が広がっています。三重県内の認定林業事業体を対象に、現状の作業日報の取扱や今後の利活用に向けた課題についてアンケートを実施しましたので、集計結果の概要を紹介します。
◆はじめに
林業における素材生産作業は、伐倒や集材、山土場での椪積みなど複数の作業工程で構成されます。その生産性を向上させるためには、工程管理によって生産性の低い作業工程(ボトルネック)を把握し、人員や機械設備の配置などを改善して現場全体を最適化することが有効です。この工程管理に作業日報を活用する取組は、2018年1月に林野庁が「生産性向上ガイドブック」を公表するなど注目されており、三重県でも平成30年度から林業普及指導事業の一環として作業日報を活用した工程管理の普及に取り組んでいます。
そこで、三重県内の林業事業体が、どのような日報の様式に何を記入しているのか、また、作業日報を工程管理に利用するための課題は何か、など、作業日報に関する現状把握を目的にアンケート調査を実施した結果を取りまとめました。
◆調査方法
アンケート調査の概要を表1に示します。調査は、2021年3月31日時点の三重県認定林業事業体(以下、事業体)48社を対象としました。同じ親会社で複数の事業所が認定されている場合は、1社としました。
アンケートの構成は、藤野ら(2019)が全国の林業事業体を対象に実施した作業日報に関するアンケートを参考に作成しました。
表1. アンケート調査の概要
対象者 | 三重県認定林業事業体 48社 内訳:10森林組合(県森連含む)38民間事業体 |
期 間 | 2021年5月25日 ~ 7月2日 |
回答者数 (回収率) |
33社 ( 33/48 = 68.8% ) |
回答回収方法 | インターネットアンケートシステム |
アンケート調査は、フリーのインターネットアンケートシステムを利用して行いました。対象事業体あてにアンケートフォームのURLを記載した電子メールを送り、事業体がURLからアンケートフォームにアクセスして回答を入力送信すると、回答者ごとに回答が記録される流れとしました。回答の回収率は69%(33/48社)でした。
◆作業日報の作成状況
作業日報について、直営の作業班で作業日報を作成している事業体は88%(29/33社)でした。作業の外注先に対しては、作業日報作成を指示する事業体が33%(8/24社 ※外注なしや無回答、不明とした事業体を除く)、指示しなくても外注先が自主的に作成すると回答した事業体が46%(11/24社)でした。
作業日報の様式は、組織として1種類が68%(21/31社)、作業種や支所ごとに様式が異なる事業体は数社でした。作業日報の記録方法は、手書きが69%(22/32社)にのぼり、パソコン入力が28%(9/32社)でした。
作業日報の記録者は、作業者本人が64%(21/33社)、班長が30%(10/33社)、そのほかの意見として日替わりや週替わりで記録者が変わる、事務職員が作業者から聞き取って記録するという事業体がありました。
これらのことから、三重県では多くの事業体が作業日報を作成しており、事業体ごとに定めた1種類の様式に、作業者本人が自身の作業実績を手書きしていることが確認できました。
◆作業日報の記録内容
作業日報に記録する内容について、1枚あたり1日分(39%、11/28社)、1か月分(46%、13/28社)が主流でした。作業時間の記録単位は、半日が38%(11/29社)、1日が21%(6/29社)、1時間と30分が各14%(4/29社)でした。作業時間の記録方法は、「作業別に1日の割合」が42%(11/26社)、「作業別に集計した作業時間」が31%(8/26社)、時系列が19%(5/26社)でした。作業時間以外の記録内容について複数回答で尋ねたところ、作業種が25社、使用機械が17社、燃料が7社、作業量が5社のほか、ヒヤリハット、詳細な機械の状況やトラブルなどの回答がありました。
図1.作業日報の集計の有無
作業日数や作業時間の単位、記録事項など、作業日報1枚に記録する内容は、事業体ごとに様々であることが確認できました。一方で、多くの事業体が作業量を記録していなかったことから、今後、作業日報を活用した工程管理を行うためには、作業種(工程)ごとの作業量を記録項目に追加することが必要です。
◆作業日報の集計と分析
作業日報の集計と分析について、作業日報を整備している事業体のうち89%(24/29社)が集計し、そのうちの約半数(13/24社)は分析も行っていました。集計分析の頻度は、1か月ごと(61%、17/28社)と事業終了後(32%、9/28社)に二分されたのに対して、集計分析結果を作業者と共有する頻度は、事業終了後が10社、毎月が7社、毎日が1社、「半年から1年に一度」が1社、必要なときが3社とばらつきがみられ、「共有しない」が4社ありました。
また、作業日報の用途について、半数以上の事業体が出勤簿の代用、進捗管理、補助金検査用資料、現場ごとの生産性計算、現場ごとの費用計算と回答したことから、作業日報は給与計算や労務管理、現場別損益の把握など事業体の経理業務の一環として集計分析している事業体が多いと考えられました(図2)。
図2.作業日報の用途
◆作業日報データの活用に向けて
作業日報を活用するうえでの課題について、主な回答は「パソコン入力が面倒」と「他業務が忙しくて手が回らない」(各6社)、「記入漏れ」(5社)「作業日報をつけてくれない」(4社)でした(図3)。
図3.作業日報の活用に向けた課題
他方、前述の用途の設問では、現状の利用方法(出勤簿の代用など)よりも詳細な分析が必要な機械ごとの生産性や生産性に影響する作業条件、現場作業改善の基礎資料などに対して「行ってみたい」という前向きな姿勢が確認できた(図2)ことから、作業日報にかかる入力や集計分析などの作業手間を全般的に軽減することが作業日報の活用を促進させると考えられました。具体的には、記入項目の厳選や記入欄の選択式化といった記入・集計しやすい様式への見直しや、あるいは、市販の日報ソフトウェアやアプリケーション導入による作業日報の電子化が有効な省力化策と考えられます。
◆おわりに
作業日報は、作業員の作業履歴や機械の使い方などが蓄積された事業体オリジナルのデータベースです。作業日報データの分析結果は、事業ごとの振り返りにとどめず、工程管理による作業期間中の業務改善や事業体全体の経営改善へと活用範囲が広がることが望まれます。
<引用文献>
藤野正也・栗山浩一(2019)作業日報の記録様式および利用方法に関する現状分析. 森利誌34:17~24.