スギ厚板を用いた高耐力床構面の開発
林業研究所 中山伸吾
◆はじめに
1950年に建築基準法が制定されて以来、宮城県沖地震や阪神淡路大震災など大きな地震の発生をきっかけに、木造住宅における耐震基準が見直されてきました。
現在の建築基準法の耐震基準は、震度5強程度の中地震に対して、大規模な工事が伴う修復を要するほどの著しい損傷が生じないこと、震度6強から7程度の大地震に対して、損傷は受けても人命が損なわれるような壊れ方をしないこととされています。
それに対して、2000年に施行された住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)における住宅性能表示制度では、建築基準法と同程度の耐震性能を耐震等級1とし、耐震等級1の1.25倍の耐震性能を耐震等級2、1.5倍の耐震性能を耐震等級3としています。
これらの耐震基準では、後述するように壁倍率や床倍率として耐震性が評価されていますが、構造用合板を使った壁や床の場合に比べ、板材を使った場合の評価は低く、その活用が進んでいない状況にあります。
そこで、林業研究所では大径化の進むスギ丸太の有効利用法のひとつとして、無垢のスギ厚板をあらわしで床材に利用できるよう、水平床構面の工法と性能評価による部材開発を行っているので、その研究の概要を報告します。
◆壁倍率と床倍率
建築基準法では階数2以下、延床面積500m2以下等の木造は、構造計算の必要がない代わりに、地震力や風圧力による水平方向の力に対抗することができるよう、床面積に応じて必要な壁量を計算し、筋かいまたは構造用合板などを張った耐力壁を、それぞれの階と方向において存在壁量が必要壁量以上となるようバランスよく配置することで構造の安全性を確保しています。
耐力壁は建築基準法施行令で仕様と壁倍率が規定されており、倍率が高い壁を用いれば壁を少なくすることができます。また、規定されている以外の壁については、指定の評価機関で性能評価試験を行い、国土交通大臣の認定を取得することで耐力壁として使用することができます。
一方、住宅性能表示制度では、壁量計算の他に床(水平構面)についても強度を評価することになっています。これは、地震や風圧の水平力を耐力壁にしっかり伝えるためには、床にもそれに見合う剛性が必要となるためです。
しかし、品確法に基づく評価方法基準では、板材を用いた床は耐震性能の指標の一つである床倍率が、構造用合板を用いた場合が0.7~3であるのに対し、0.2~0.39とかなり小さく評価されています(表-1)。
また、根太を省略し、1階の天井と2階の床を兼ねるような使い方をした場合には、その標準的な床倍率が定められていません。そのため、耐震等級の高い住宅には無垢の板を張った床は採用されにくい状況となっています。
表-1. 品確法に基づく評価方法基準による床区画の存在床倍率
◆床試験体の作製
床試験体の作製には三重県産スギ材を用いました。外寸は幅1820 mm×高さ2730 mmとし、外枠となる大梁と桁は120 mm×150 mm角の材を用いました。
大梁間には120 mm正角の小梁を910 mm間隔で渡しました。また、各梁桁同士の仕口部は大入れ蟻掛けによって接合し、大梁と桁はホールダウン金物で緊結しました。
梁桁上面に張る板面材は、初めに幅165 mm×厚さ30 mm×長さ2700 mmで、片側に雌実(凹型)加工したスギ厚板を桁と大梁に釘とビスで固定し、続いて本実加工を施した幅210 mmの厚板7枚を順次はぎ合わせながら桁と小梁に固定、最後に幅165 mmの雄実(凸型)加工した厚板を残りの桁と大梁に固定する方法で、接着剤を使用せず、釘とビスのみでスギ厚板を縦張りしました(図-1)。
スギ厚板の固定には、N90釘を大梁に5寸(約150 mm)間隔で計34本、小梁には厚板の材縁部に30 mm間隔で材長と平行方向に各3本ずつ計96本使用し、脳天打ちで留め付けました。また、桁への留め付けには長さ90 mmのパネル用ビスを厚板の両端部で各2本ずつ計36本用いました。
また、面内加力により生じる厚板間の滑り対策として、試験体に幅90 mm、厚さ40 mm、長さ1800 mmの横桟木を、スギ厚板の表面に303 mm間隔で計8本取り付けた床試験体も作成しました。横桟木の取り付けにはN65釘を用い、両端部で各2本およびスギ厚板の材縁部は千鳥打ちとし、桟木1本あたり釘20本を用いて留め付けました。ただし、小梁上への横桟木取り付けについてはN90釘を用い、厚板を貫通させて小梁に留め付けました。
◆面内せん断試験と存在床倍率
床試験体の面内せん断試験は、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計2008年度版(日本住宅・木材技術センター)」に示される面材張り床水平構面の試験方法に基づき、柱脚固定式で行いました。
図-1. スギ厚板張り床構面
これは、床試験体を立てた状態で、加力の際に浮き上がらないよう下端の桁を装置の土台にボルトなどでしっかりと固定し、加力装置で上端の桁を押し引き繰り返すことで、地震の際におこる揺れへの強さを評価するものです。
加力は見かけのせん断変形角が1/450,1/300,1/200,1/150,1/100,1/75,1/50,1/30 rad.の順に押し引きを繰り返し、最終は引張側の変形角が1/10 rad.以上に達するまで行いました(写真-1)。
写真-1. 面内せん断試験の様子(最終加力後)
同じ仕様で作製した試験体を3体評価し、短期基準せん断耐力を求めた後、試験結果のばらつきなどを考慮して床倍率を求めますが、今回作製したスギ厚板張りの床構面は、試験終了後も大きな損傷は見られず、床倍率は1.7となりました。
また、横桟木を取り付けて板ずれを抑制した場合、床倍率は2.7となりました。安全性や使用環境、耐久性などを考慮して低減係数がかかるため、実際の評価はもっと下がりますが、仮に低減係数を0.7とした場合、横桟木がなくても今回作成したスギ厚板張り床構面は、24 mm構造用合板を根太なしで川の字釘打ちした水平構面(床倍率1.2)とほぼ同じ性能を有していることがわかりました。
◆おわりに
今回の試験により、スギ厚板を釘とビスのみで留め付けただけでも、床としての耐力が得られることがわかりました。建築基準法の改正により、木造の建築物が設計しやすくなり、無垢の木材をあらわしで使用する機会も増えてくることが予想されます。これを機会に、スギ厚板の床材への利用が進むことを期待しています。