品質の良い苗木を作る
~分離型コンテナを活用したスギコンテナ苗の育成方法~
林業研究所 山中 豪
林業にとって苗木は欠かすことのできないものですが、その苗木にも良し悪しがあります。良い苗木とはどのような特徴を持っているのか、そのような苗木をどうやって作ればよいのか、さらには、良い苗木をどうやって選べばよいのか、研究成果を踏まえて説明します。
◆苗木に求められる品質
国産コンテナの供給は2007年から始まり、その後、国産コンテナ苗の特性を確かめるために数々の植栽試験が行われてきました。しかし、コンテナ苗の植栽後の活着や成長速度は試験によって様々であり、裸苗と比較して、必ずしも優れているとは言えない状況です。この原因として、コンテナ苗の品質はまちまちであり、その結果、活着や成長速度もまちまちとなっていることが考えられます。
苗木に求められる品質のうち、目に見えるものとしては、スギを例にとると、①鈍円錐型でズングリとしていること、②根張りが四方によく発達していること、③梢頭部が徒長していないこと、④温度の低下に伴って固有の色沢を呈すること、⑤病虫害や損傷がないこと、等々が挙げられます。このうち、①と③は地上部の形状に関するもので、定量的な評価においては、高さと太さの比であるH/D比(場合によって、形状比や比較苗高などと呼ばれます。)を用いるのが一般的です。H/D比の値が低いほどズングリとした苗木であることを、高いほど細長い苗木であること意味しており、スギ苗の場合は50以下が良いとも言われています。なお、本稿では、Hは苗長、Dは根元径と定義します。苗のH/D比は、活着後の成長に大きな影響を与えると言われていますが、コンテナ苗のH/D比は裸苗と比較して高い場合が多く、H/D比の低いコンテナ苗を安定的に作る技術が求められています。
◆分離型コンテナを用いた育苗試験
日本で一般的なコンテナは、40孔または24孔が一体となった形状であり、少ない面積で多くの苗を作ることができますが、育苗途中の密度調整や選苗を想定したものではありません。一方で、裸苗の生産においては、育苗中に1~3回程度の床替えを行い、その際に密度調整や選苗を行うのが一般的です。
2019年に当研究所で行った育苗試験においては、各孔が分離し、自由に差し替えることができるタイプのコンテナ(写真-1)を使用しました。このコンテナを活用し、裸苗で行われているような密度調整や選苗(以下、これらをあわせてソートと呼ぶ)を再現しました。
写真-1. 試験に使用したコンテナ(BCC社製FlexiFrame77 with side slit cell)
試験では、4月に各孔に1粒ずつスギ種子を播種しました。これを、8月にソートを行う試験区(1回ソート区)、8月と9月にソートを行う試験区(2回ソート区)、ソートを行わない試験区(ソート無し区)に分けて育苗しました。これらを11月に計測した結果を図-1に示します。ソート無し区では、大きさのばらつきが大きく(写真-2)、H/D比が100以上の個体の割合が多い(図1-a)のに対し、2回ソート区では、大きさのバラツキが小さく、H/D比が100以下の個体の割合が高くなりました(図-1c)。
図-1. 各試験区の11月時点における大きさ
破線はコンテナ苗の標準規格5号の閾値を、斜線はH/D比100を示す。
写真-2. ソート無し区の1列を抜き出して撮影した写真
この結果から、分離型コンテナを活用し、育苗期間中に複数回のソートを行うことで、H/D比が低くズングリとした苗を作ることができること(写真-3)、得苗率(本稿では、コンテナ苗の標準規格5号を満たす苗の割合とする)が高くなることが解りました。また、通常、スギのコンテナ苗や裸苗の育苗には2成長期を要するところ、今回の試験では1成長期で高い得苗率が得られていることから、育苗期間短縮による生産コストの低減も可能と考えられます。
なお、この試験の内容や、スギ1年生実生苗の生産手法に関する情報を記載したリーフレットを次のWebページからダウンロードできますので、是非ご覧ください。<https://www.pref.mie.lg.jp/ringi/hp/index.htm>
写真-3. 播種翌年3月時点の写真
a)ソート無し区、b)2回ソート区
◆良い品質の苗木を選ぶ
多くの林業従事者は、苗木を購入し、使う側です。その場合、良い品質の苗木を選ぶことが重要となります。先に、目に見ることができる品質について述べましたが、最も重要な苗木の品質は、優良かつ地域に適合する品種系統であるかどうかであり、これは目に見ることができないものです。近年は、少花粉品種、エリートツリー、特定母樹などが開発され、選択肢が増えていますが、これらに関する知識を十分に持ち、適当な選択を行うとともに、林業種苗法に適合して流通された苗木を使用する必要があります。これを満たしたうえで、前述のH/D比などにより、苗木を吟味しなければなりません。
ただし、苗木に求められる品質は、植栽地の土壌条件や植栽時期によって異なることにも留意が必要です。特に、④に挙げた苗木の色について、スギの苗木は、秋~冬季にかけて、低温条件下で直射日光を受けると、葉が褐色を呈します。褐色を呈した葉においては、低温条件下における光ストレスが緩和されると言われており、晩秋や初春など、植栽した苗木が低温に晒される時期の植栽において重要です。
なお、前項で述べた育苗試験において、ソート無し区の苗木は、育苗密度が高かったことから、優勢な個体の先端部や、コンテナ端部の個体の側面みが褐色を呈したのに対し、2回ソート区の苗木は、ほぼすべての個体の全体が褐色を呈しました。ソートを行うことで、寒い時期のストレスに強い苗木を育成できたと考えられます。
◆おわりに
育苗に用いる容器や手法によって、育成される苗の品質が異なることや、植栽の条件によって、必要となる苗木の品質が異なることを知ったうえで、育苗や植栽を行うことが重要です。
また、今回は触れませんでしたが、②のような根に関する品質も重要です。コンテナ苗の根鉢の状態にも様々あるため、これが苗木の活着や成長に与える影響についても明らかにしていきたいと考えています。