原木市売市場における原木需給情報のマッチング
林業研究所 石川智代
三重県における木材流通の円滑化・効率化を目的として、原木市売市場を介した原木流通の現状を調査しています。
尾鷲木材市場を利用する山主および買主にアンケートを行いました。
◆はじめに
三重県産の原木は、およそ半数が原木市売市場を介して流通しており、木材流通における原木市売市場の役割は大きなものがあります。ところが、近年のこれらの市場では、原木の供給過多による値崩れや、競り売りにおける不落原木の発生などの問題が発生しています。この問題は、木材需要量の減少を背景として、「原木が欲しい買主」と「原木を売りたい山主」の間の需給ミスマッチに起因していると思われます。
このことから、原木市売市場が、山主と買主の双方の原木需給情報を集約し、発信することで、原木取引を円滑化することの実現可能性を検討するため、まず、山主と買主の双方にアンケート調査を実施したので、その概要をご紹介します。
◆アンケート調査の概要
調査は、尾鷲木材市場協同組合のご協力のもと、尾鷲木材市場を利用する山主および買主を対象とし、令和2年7月~8月にアンケート用紙を直接配布または郵送し、回答用紙は封書で回収しました(表1)。
質問の主な内容は以下の3つです。
①山主は出荷予定を、買主は仕入れ予定を、原木市売市場に情報提供しているか
②原木取引の円滑化ために、山主は需要情報(買主の仕入れ予定)を知りたいか、買主は情報提供できるか
③原木取引の円滑化ために、買主は供給報(山主の出荷予定)を知りたいか、山主は情報提供できるか
表1. アンケート調査の回答者の概要 | |
写真1. 原木市売市場の様子 |
◆現状の原木需給情報のやりとり
現状の原木需給情報のやりとりについて、山主は7社のうち6社が、買主は16社のうち9社が時々または市ごとに原木市売市場へ自らの出荷予定または仕入れ予定について情報提供すると回答しました。そのうち、市ごとに情報提供する山主と買主は、それぞれ2社に限られましたが、普段から出入荷情報がやりとりされていることがわかりました。情報提供の手段は、山主と買主どちらも来場または電話が用いられ、FAXやメールは使われていませんでした。
原木市売市場へ提供される情報について、山主は伐採地域(3件)、径級(2件)、本数(1件)の3項目であったのに対して、買主は樹種・材長・径級(各8件)、調達時期・ワレ等の規格(各4件)、取引単価(2件)、本数(1件)の7項目でした(図1)。買主と比較して山主の項目が少なくなった理由は、伐出時期が天候に左右されやすいことや、規格(ワレ等)は市場の仕分けで決定されること、立木の形状により採材方法が一律ではないことなど、伐採前には不確定な要素が多いためと考えられます。また、原木市売市場に情報提供する理由として、山主からは市場からの問合せ(2件)、特殊な規格の原木がある(1件)、市場が売りやすいように(1件)という回答がありました。これに対して、買主からは、まとまった量が欲しい(6件)が最多で、特殊な規格の原木が欲しい(2件)、量が不安定だから(1件)という回答がありました。これらの意見から、山主と買主の間には需給情報のやりとりに対する積極性に温度差があると推察されました。
図1. 原木市売市場に提供する情報
◆山主が望む需要情報
山主7社のうち4社が、買主の需要情報を知りたいと回答しました。欲しい情報は、短材・長材の需要(各4件)、大径木・小径木の需要(各2件)であり、市場全体の集荷量や買主ごとの仕入れ予定量は、要望がありませんでした。これに対して、買主16社のうち13社は樹種・径級(各10件)、本数・材長(各9件)、規格(7件)、材積(6件)、伐採地域(4件)の需要情報(仕入れ予定)を提供できると回答しました。
これらの結果から、原木市売市場は、買主が提供する情報からおおむね山主が求める情報を得られることがわかりました。しかし、情報のやりとりの期限は、山主が1週間前(3件)を希望するのに対して、買主は前日まで(4件)、1週間以上前・1か月以上前(各2件)とバラツキがみられ、需要情報の受発信時期の調整が必要になると考えられます。
◆買主が望む供給情報
買主16社のうち13社が山主の径級(7件)、本数・材長・伐採地域(各6件)、材積(4件)、木口や材長のわかる画像・規格(各1件)の出荷情報を知りたいと回答しました。これに対して、山主6社のうち4社が樹種(4件)、材積・径級・伐採地域(各3件)のほか本数・材長・市日(各1件)の情報を提供できると回答しましたが、従前どおり天候や採材に左右されにくい内容が多くなりました。
これらの結果から、山主から得られる出荷情報に、原木市売市場が、市場入荷後の原木の仕分け結果およびその画像を加えれば、おおむね買主が求める情報を提供できると考えられます。この情報のやりとりの期限は、買主が2~3日前(8件)、前日(3件)であるのに対して、山主は1週間前(2件)、前日・1か月以上前(各1件)であり、時間的にも対応できる可能性が高いと考えられました。
◆おわりに
今回のアンケート結果から、山主と買主双方が原木市場における原木需給情報のやりとりに前向きな意思があるとわかりました(図3)。今後、買主や山主とより詳細な需給情報を遅滞なくやりとりするためには、従来の電話・来場による個別対応に加えて、小数意見であったスマホアプリ(SNS)のほかメールやFAX等を活用するとともに、受発信する情報の規格化や情報伝達の電子化(ICT化)が有効と考えられます。
図3. アンケート調査の回答結果と原木市売市場を介した原木需給情報のやりとりのイメージ