三重県内に植栽した早生樹センダンの初期成長と植栽適地
林業研究所 島田博匡
早生樹として注目されるセンダンは三重県でも育てることができるでしょうか?林業研究所ではセンダンの育成試験を実施しています。本稿では植栽2年後までの成長や植栽適地について説明します。
◆はじめに
センダンは早ければ20年程度で収穫が可能であり、内装材、家具材、突板などの需要があることから、熊本県を中心に植栽地が増加しています。三重県でも試験的に植栽された林分はありますが、長期間の育成事例はみられません。そのため、林業研究所では、三重県の気候条件下でのセンダンの成長特性、早生樹としての可能性を明らかにするために、センダンの育成試験地を津市内と熊野市内に設けました(以下、津試験地、熊野試験地)。本稿では、植栽後2年間の追跡調査の結果をもとに初期成長、植栽適地、植栽地選定の留意点について説明します。
◆育成試験地の設定と初期保育
津試験地では、成長に対する地形の影響や植栽適地を明らかにするために、谷から下部斜面、上部斜面、尾根までを連続的に含む伐採地斜面(0.32ha)において、樹高1m程度のセンダン4年生裸苗(図-1)を平成30年2月に141本植栽しました。熊野試験地は急崖下の崖錘状の斜面(0.19ha)に位置し、谷部から急崖直下までの伐採地斜面に津試験地と同様の苗木を平成30年3月に80本植栽しました。
図-1.植栽したセンダン裸苗
通常、センダンの植栽では施肥を行いますが、施肥効果を明らかにするために、各試験地の半数の植栽木には植栽時250g/本、2年目500g/本の施肥(IB化成N:P:K=10:10:10)を行いました。また、センダンでは幹の通直性を確保するために、芽かきを行う必要がありますが、全植栽木を対象に植栽当年から適宜実施しました。獣害対策は、津試験地では植栽前に植栽地の周囲を高さ1.8mの獣害防護柵で囲みました。熊野試験地では獣害防護柵は設置せず、植栽時に高さ1.7m、直径28cmの単木防護ネットを各植栽木にかぶせました。下刈りは津試験地では植栽当年から年1回行いましたが、熊野試験地では一度も実施していません。
植栽時、植栽後1成長期経過後の平成30年12月~平成31年1月(以下、植栽1年後)、2成長期経過後の令和元年12月(以下、植栽2年後)に全植栽木の樹高、地際径、胸高直径などの測定を行いました。
◆植栽木の活着
両試験地の植栽木ともに、植栽直後に地上部が根元付近から枯死する個体が多数みられましたが、その後は速やかに再生し、順調に成長しました。植栽2年後までの生存率は、過湿な場所、極端に乾燥した場所を除いて良好であり、80%以上が活着しました(図-2)。過湿地では根腐れが発生しやすく、乾燥地では成長が著しく低下するので、そのような場所への植栽は避ける必要があります。
図-2.植栽2年後までの生存率
◆植栽木の初期成長
植栽2年後の樹高、胸高直径について、両試験地ともに施肥有の植栽木では施肥無よりも大きく成長し、施肥有の平均値は施肥無の最大値よりも大きくなっていました(図-3)。施肥個体の樹高平均値は津試験地で288cm、熊野試験地で278cmであり、胸高直径はそれぞれ27mm、21mmでやや津試験地の方が大きくなっていました。なお、これらの平均値は熊本県での育成事例の数値よりもやや小さめでしたが、植栽木間でサイズのバラツキが大きく、樹高の最大値では、津試験地で453cm、熊野試験地で416cm、胸高直径はそれぞれ54mm、38mmまで成長したことから、適切な植栽場所を選び、適切な施業(施肥、適期の芽かき、獣害対策、強風害対策など)を行うことで、早生樹として期待できる成長を得られる可能性があります。
図-3.施肥有無別の植栽2年後の樹高と胸高直径
◆植栽地の地形が成長に及ぼす影響
センダンは養水分要求度が非常に高いことから、谷筋など下部斜面や平地で成長が良いとされています。
津試験地においても、谷、下部斜面、上部斜面、尾根の地形区分毎の植栽2年後の樹高は、施肥無において、谷や下部斜面で大きく、谷の過湿地、上部斜面、尾根で小さい傾向がみられました(図-4)。また、いずれの地形区分でも、施肥有では施肥無に比べて大きくなっており、施肥による成長改善効果がみられましたが(図-4)、施肥有においても上部斜面、尾根では他の地形区分よりも樹高が小さくなっていました。施肥無で成長が不良な場所は本来、センダンの植栽適地ではないと考えられ、このような場所への植栽は避けるべきです。良好な成長を得るためには、過湿にならない谷筋や下部斜面、平地などの植栽適地に植栽することが重要となります。
また、センダンは冬期の凍害に弱いことから、熊本県では標高500m以下の地域に植栽することが望ましいとされています。三重県でも標高の低い場所に植栽する方が良いと考えられます。
図-4.地形区分毎の植栽2年後の樹高(津試験地)
◆植栽地選定の留意点
植栽後2年の間に、ニホンジカによる採食害や剥皮害、台風時の強風による幹曲がりや幹折れなど成長阻害が頻繁に発生し、そのたびに対策を行う必要がありました。センダン材の用途は内装材、家具材、突板などであるため、化粧性の高い高品質材を生産する必要があることから、剥皮害による変色や幹曲がりによる形質劣化は避ける必要があります。そのためには定期的な巡視と被害対策を行うことが必須です。また、通直材を得るために実施する芽かきは実施のタイミングが遅れると樹形異常が生じることがあるため、実施時期には芽の観察を頻繁に行い、適期に実施する必要があります。このようにセンダンの用材生産を行うためには、集約的な管理が不可欠となり、多くの労力を要します。この観点から考えると、山奥の林地よりも、人手をかけやすい人里近い林地や休耕地において、植栽に適した土壌条件の場所を選んで植栽することが望ましいと考えられます。
育成試験地では、今後も定期的に追跡調査を行い、三重県におけるセンダンの成長特性を明らかにする予定です。なお、本試験地での調査結果をもとに、初期成長特性と保育上の留意点を解説したリーフレット「センダンを三重県で育てる -植栽後初期の成長と保育のポイント」を作成しました。また、シカ食害と強風害については、林業研究所だより第25号内の「センダン植栽後初期のシカ食害と風害に対する対策」でも解説しています。いずれも林業研究所Webページ<https://www.pref.mie.lg.jp/ringi/hp/>で閲覧できますのでご覧ください。
<参考文献>
熊本県林業研究指導所(2015)センダンの育成方法 H27改訂版、 https://www.pref.kumamoto.jp/kiji_20150.html