特定外来生物クビアカツヤカミキリとは?
~その特徴・被害状況・被害対策について~
林業研究所 川島直通
クビアカツヤカミキリ(図-1)は主にバラ科樹木(ウメ、モモ、サクラ等)を加害・枯死させてしまう特定外来生物です。数年前に日本で被害が確認され、その後被害地は拡大していますが、令和元年度、ついに三重県でも被害が確認されました。今回はその特徴や被害状況、被害対策をご紹介します。
図-1.クビアカツヤカミキリ成虫. オス(左)の触覚は長く、メス(右)の触覚は短い.
◆日本における被害の状況
クビアカツヤカミキリ(Aromia bungii )は、主にサクラ・ウメ・モモ等のバラ科樹木を加害する特定外来生物であり、中国、ベトナム等アジア大陸に自然分布しています。本種の幼虫は形成層と内樹皮を食害し、宿主樹種を加害・枯死させることがわかっています。日本では既に公園樹や街路樹として植栽されるサクラ類や、果樹として利用されるウメ・モモで被害が発生しています。また、バラ科樹木の多くが加害対象樹種であることがわかっているため、山林に侵入する危険性もあります。現在、自然生態系での被害は報告されていないことから、山林に侵入した場合、その被害モニタリングや被害対策への対応が後手に回ってしまうことが考えられます。
日本では2012年に愛知県内で被害が確認されて以降、各地で被害が報告されています(図-2)。被害地拡大の経路は明確には分かっていませんが、日本では本種が宿主とするサクラ類が、公園樹や街路樹として多数存在するため、被害が拡大しやすい環境にあるといえます。実際、既存の被害地から年単位で同心円状に被害が拡大している地域もあり、被害の拡大防止のためには適切な対策が欠かせません。
三重県では令和元年6月25日に三重県北部において、街路樹であるサクラの樹幹上でクビアカツヤカミキリ成虫が発見されました。被害地ではすでに被害対策が実施されていますが、他県における被害状況から推察すると、今後も当被害地において継続して被害が発生する可能性があります。また、周辺地域へと被害が拡大することも懸念されます。そのため、被害地における被害対策に加え、周辺地域においても同種の被害が発生していないかを確認し、被害発生の際には迅速に対応する必要があります。
図-2.クビアカツヤカミキリ被害報告のある都府県.
環境省がHP上で公開しているチラシ(2019年11月更新)を参考に作図.
◆生態と生活史
宿主樹木に被害を及ぼすのは本種の幼虫です。成虫は6~8月頃に羽化し、樹皮の割れ目に多数の卵を産み付けます。孵化した幼虫は樹皮下へ侵入し、内樹皮や辺材部を食害します。成長した幼虫は食べた木くずや虫糞の混合物を樹幹外部へと排出します。これはフラスと呼ばれ、本種による被害の有無を判断する材料となります(図-3)。このフラス排出は4月から10月頃まで続きます。また、老齢幼虫は木部深くに侵入し、蛹室を形成します。さらに蛹室入り口に石灰質の蓋を形成して越冬し、その後蛹化します。
また、本種が幼虫の状態でいる期間は、日本ではほとんどが2年といわれています。つまり、ある年の夏に孵化した幼虫は、その2年後の夏ごろに羽化し成虫となります。そのため、被害木の樹幹内には1年目の幼虫と2年目の幼虫が混在していることがあります。
図-3 樹幹から排出されたクビアカツヤカミキリのフラス.
◆被害対策
本種の被害対策は、大きく物理的防除、化学的防除、生物的防除に分類されます。物理的防除については被害木の伐倒処理や樹幹内幼虫の刺殺等が挙げられますが、最も確実な防除方法は、被害木の伐倒処理です。伐倒処理では伐倒木からの拡散を防止するために、伐倒後すぐに焼却処理もしくはチップ化処理を行う必要があります。また、伐倒後の根株にも幼虫が存在する可能性があるため、抜根したり成虫拡散防止の被覆処理をしたりする必要があります。
化学的防除と生物的防除は農薬を用いた方法です。現在、クビアカツヤカミキリに適用可能な登録農薬は急速に増えつつあります。そのうち化学的防除については化学薬剤を用いた方法です。樹皮下の幼虫を対象とした薬剤については、①フラス排出孔から千枚通しや針金等でフラスを除去し、薬剤を注入して幼虫に直接薬剤を接触させる方法と、②樹幹の周囲に複数の穴を環状に空けて薬剤を注入し、樹液流により上方向に分散させる方法があります。どちらの方法も樹皮下の幼虫を100%駆除できるわけではないため、薬剤注入後にフラス排出が止まったかどうか1週間程度を目安に確認する必要があり、排出が止まらない場合は再度処理を行います。成虫を対象とした薬剤については、成虫脱出期に薬剤を対象木に散布し、幹を歩行する成虫を駆除するものがあります。
生物的防除とは、農薬のうちクビアカツヤカミキリに感染する微生物を用いた方法です。樹皮下幼虫を対象としたものには、生きた天敵線虫を含んだ薬液を、前述した化学薬剤を用いた方法と同様に、フラス排出孔に注入して幼虫に感染・死亡させる方法があります。成虫を対象としたものには、天敵糸状菌を固定した不織布を樹幹に巻き付け、歩行した成虫が接触することで感染・死亡させる方法があります。
その他の被害対策として、成虫の拡散防止のため、被害木の樹幹にネットを巻き付けることも行われています(図-4)。ただし、脱出した成虫がネットを噛み切ったり、ネット内で産卵したりする場合もあるため、定期的な見回りが必要となります。
図-4.被害木の樹幹に成虫拡散防止のネットを巻き付けた状況.
◆最後に
クビアカツヤカミキリ被害対策については、国や被害発生県の研究機関を中心に、調査研究が現在進行形で取り組まれているところです。しかし、まだ防除方法が確立されている段階ではないため、常に最新の情報を収集しながら適切な対策方法を選定していく必要があります。また、被害の可能性のある樹種が街路樹、公園樹、果樹など多岐にわたるため、組織間の連携も必要となります。三重県林業研究所においても、最新の技術情報をもとに被害対策やモニタリング調査を実施し、他の機関と連携しながら三重県における被害拡大防止のために取り組んでいきたいと考えています。