野外簡易施設でできるきのこ栽培について
~ ウスヒラタケの子実体(きのこ)発生量の季節変化 ~
林業研究所 井上 伸
1.はじめに
近年、大手企業等により大規模施設を用いた効率的なきのこ生産が行われており、安価な大量生産品が市場に流通しています。一方、県内のきのこ生産者の多くは、中小規模の栽培施設で生産を行っており、大量生産品との競合により、厳しい経営状況にあります。生産コストの削減を行うには、栽培施設の増設を行い、効率的に栽培する方法が挙げられますが、空調栽培を導入するためには多額の費用が必要となります。そのため、少ない投資で生産規模の拡大を図ることが可能な栽培技術の開発が望まれています。
そこで、林業研究所では、農業用ハウスの骨組みと寒冷紗で作製した野外簡易施設(図-1)を用い、他のきのことの差別化が容易で商品性が高く、さらに比較的高温条件下でも発生が可能なウスヒラタケの安定生産技術の開発を行ってきましたので、その概要をご紹介します。
図-1.農業用ハウスの骨組と寒冷紗で作製した野外簡易施設
2.ウスヒラタケの野外簡易施設栽培
ウスヒラタケは、ヒラタケ科ヒラタケ属のきのこで、春から秋にかけて広葉樹の枯木等に発生する風味の良いきのこです。
三重県内の広葉樹林にも広く分布しており、試験には、三重県内で収集し、林業研究所で保存しているウスヒラタケ野生株1系統を用いました。
培地組成は、広葉樹オガ粉と米ぬかを容積比で4:1の割合で混合したものを、含水率約60%に調整した後、ポリプロピレン製のシイタケ菌床栽培用袋に2.5 ㎏詰め、118℃で90分間殺菌しました。1晩放冷後、あらかじめ培養したウスヒラタケ種菌を接種し、温度24℃、湿度70%の条件下で培養しました。40日前後培養した後、袋の側面に切れ目を入れ、発生試験を行いました。
発生試験は、三重県林業研究所構内にある野外簡易施設で行いました。野外簡易施設では、施設上部にスプリンクラーを設置し、ホームセンター等で購入可能な散水タイマーを用い、朝夕2回10分間の散水を行いました。平成28年5月から平成30年3月まで、毎月15日を目途に4菌床発生処理を行い、約1年間栽培し、子実体発生量を調査しました。栽培日数を計算する際には、1ヶ月を30日とし、期待収穫量は菌床購入方式で栽培を行っているきのこ生産者への聞き取りから600gとしました。
図-2.野外簡易施設におけるウスヒラタケ発生状況
6月及び7月に発生処理を行ったウスヒラタケ菌床の月平均子実体発生量の推移を図-3に示します。夏の高温期(7月から8月)と冬の低温期(12月から2月)の子実体発生量は、初回発生を除き、他の時期と比較して著しく低下しました。発生適期は、夏の高温期が終わり、気温が下がり始めた時期であると考えられました。
期待収穫量に達するまでに要する日数の推移を図-4に示します。平均日数は、発生処理から期待収穫量までに要した日数の平均値、最短日数は最も早く期待収穫量に達した菌床の日数を表しています。期待収穫量に達するまでに要する日数は、子実体発生量に季節変動があるため、発生処理月により大きく異なりました。今回の試験では、6月または7月に発生処理を行った菌床が、他の月と比較して早期に期待収穫量に達しました。反対に10月に発生処理を行った菌床は、冬季に子実体発生量が著しく低下すること、また、子実体発生適期である夏の高温期から気温が下がり始めた時期までに長期間を要することから、期待収穫量に達するまでに最も時間がかかりました。
平成29年10月から平成29年12月に発生処理を行った菌床は、期待収穫量に達しませんでした。平成30年7月、8月の平均気温は、過去10年で最も高かった(構内気象データ)ことから、長期間の栽培によりウスヒラタケ菌糸の活性が低下し、加えて、夏季の高温の影響で、平成29年10月から平成29年12月に発生処理を行った菌床の子実体発生量が減少した可能性が示唆されました。
図-3.6月及び7月に発生処理を行った菌床の月平均子実体発生量の推移
気象データについては、構内気象観測データを用いた。ただし、欠損値が生じた場合は、津地方気象台白山気象観測所のデータを用いた |
図-4.期待収穫量に達するまでに要する日数の推移
括弧内の数字は、期待収穫量に達しなかった菌床数を表す。各供試体数n=4,ただしH28.10月発生処理、H29.12月発生処理はn=3 |
3.おわりに
ウスヒラタケは、野外簡易施設を用いた栽培が可能であることが分かりました。ウスヒラタケの子実体発生適期は、夏の高温期が終わり、気温が下がり始めた時期でした。反対に夏季と冬季は著しく発生量が低下しました。
栽培が長期化すると病虫害リスクの増加や菌床の劣化が考えられることから、効率的に生産を行うことが望ましいと考えられます。このため、ウスヒラタケを野外簡易施設において栽培する際には、6月または7月に発生処理を行うことが最適であると考えられました。ウスヒラタケは夏季や冬季に子実体が発生しないことから、夏季に収穫可能なアラゲキクラゲ、冬季に収穫可能なヒラタケ等の栽培と組み合わせることにより、野外簡易施設において効率的にきのこを通年栽培することが可能になると考えられます。