森林作業道と地域の地質
林業研究所 石川智代
◆はじめに
持続的な森林経営を行うためには、一時的施設として開設されてきた森林作業道も含め、経済的で使いやすい路網を整備することが必要です。そのため、長期にわたって使用することを前提とし、丈夫で簡易な、かつ安価な森林作業道の作設が求められています。森林作業道は土構造を基本としているため、施工地の地形・地質、気象条件に十分注意して施工しなければ、もろく崩れやすい道となり、施業後の維持補修費用が嵩むだけでなく、山腹崩壊を誘発し下流集落に甚大な被害を及ぼしかねません。
特に地質の性質は、森林作業道の路体盛土や切土法面の安定性に大きく影響します。そこで、三重県でみられる主な5種類の表層地質の特徴とともに、その地質の地域において作設された森林作業道の路体調査の概要をご紹介します。
図1. 三重県内の表層地質の分布(国土交通省 土地分類調査 表層地質図)
◆三重県内の代表的な地質
①花崗岩質岩(領家帯)
領家帯の花崗岩質岩類は、松阪を横切る大きな断層・中央構造線の北側に分布し、津・伊賀地域など三重県中部地域にみられます。火山活動により貫入したマグマとその熱が作用してできた岩石であり、風化するとマサ土となります。マサ土は浸食に弱く、表層崩壊が発生しやすい性質です。切土のり面の風化により堆積したマサ土は、路面の軟弱化につながるため早期の除去が必要です。
図2. 花崗岩質岩地域の森林作業道
切土法面の風化が進み、法尻に堆積したマサ土
②黒色片岩(三波川帯)
三波川帯は中央構造線の南側に帯状に分布し、鳥羽地域、宮川流域-国見山地域にみられます。大陸プレートと海洋プレートが沈み込む際の高い圧力が作用してできた岩石で、一定の方向に薄くはがれる性質があります。
③珪質岩(秩父帯)
秩父帯は三波川帯の南側に平行して分布しており、度会町・南島町―大台ケ原山地でみられます。海洋プレートが沈み込む際に堆積物がはぎとられて大陸プレートに付加された地質です。固くて緻密な珪質岩(チャート)と砂岩や泥岩を含みます。切土面に露出した石礫は抜け落ちに注意が必要です(図3)。
図3. 切土法面に露出したチャート
④砂岩泥岩互層(四万十帯)
秩父帯の南側に帯状に分布する四万十帯は、志摩半島から熊野地域に見られます。主に砂岩・泥岩からなり、チャートなども含みます。秩父帯と同様に海洋堆積物の付加体の特徴をもち、多様な岩石が混在しています。
⑤熊野酸性岩類
熊野市北部・紀宝町にみられる熊野酸性岩類は、マグマが冷えて固まった岩石であり、ほとんどが花崗斑岩です。玉ネギ状構造が発達していて、風化が進んで残された中心部分(コアストーン)がみられます。
◆既設作業道の路体の締固め度
作業道の路体を構成する土質の違いが、どのように路体強度に表れるかを確認するため、前述の5種類の地質地域の既設森林作業道において、路体盛土の締固め度の目安となるNd値を調査しました。Nd値は、5kgの重りを50cmの高さから落とし、貫入ロッドが10cm貫入するのに要する回数です。1測点につき、貫入深が1mに達するか、40回で貫入深10cm未満の場合に計測終了としました。
比較的よく締固められた盛土では、Nd値10以上の締まった層が主体(平成27年版森林作業道作設ガイドライン(林野庁))とされています。調査路線においては、Nd値10以上の土層が78%~93%を占めていました(図4)。調査点の平均Nd値は34~72であり、相対的に花崗岩質岩地域と黒色片岩地域で締固め度が低くなる傾向がみられました。
図4. 路体盛土の締固め度(Nd値10以上の土層率、平均Nd値)
これらのことから、調査路線の締固め度にある程度の差はあるものの、おおむねよく締め固められていることが確認できました。
各調査地点の貫入深について、10cm未満の測点割合が最も高かったのは砂岩泥岩互層地域でした(図5)。砂岩泥岩を多く含む盛土は、路面がち密で堅固に締め固まる傾向があります。一方で、路面の透水性が低下し、降雨などの表面流により路面が浸食されやすくなるため、路面水の処理に注意が必要です。
図5. 貫入深10cm以下の割合
◆丸太組工法の注意点
丸太組工法は、作設費用を抑えるための主要な工法として採用されることが多く、今回の調査路線でも随所に施工されていました。施工された丸太は、隣同士であっても木材腐朽菌や空気・水分の条件が微妙に違えば腐朽の進行具合は変わってきます。丸太の腐朽に伴う部材強度の低下は路体強度の低下につながるため、森林作業道を使用しながら随時土砂で路体の補修を行っていくことが必要です。また、前回使用から年数が経過した路線は、必ず丸太の腐朽・劣化状況を確認して、通行の安全確認を行ってください。
◆おわりに
高性能林業機械が普及し、車両の大型化が進んでいることから、路体強度の確保はより重要な課題になっています。森林作業道の長寿命化や安全性の向上に資する新技術があれば、随時ご紹介していきます。