スラッシュマツ、テーダマツの早生樹としての可能性
林業研究所 島田博匡
◆はじめに
スラッシュマツ(以下、スラッシュ)は米国南東部、カリブ諸島、テーダマツ(以下、テーダ)は米国南東部原産の樹種で、米国等では広く植栽されており、建築材、器具材、土木用材、船舶材、パルプ・製紙チップ、バイオマス燃料など幅広い用途に使用されています。我が国においても1950~60年代にかけて両樹種が広く植栽された実績があります。
一方、国内において、近年、更新、保育にかかる経費が安く、短伐期でバイオマス原料を多量に生産できる、あるいは高価格の用材を生産できるような収益性の高い早生樹林業に注目が集まっています。スラッシュ、テーダについても成長が早く、マツノザイセンチュウに対して抵抗性を示すことから早生樹として期待することができます。しかし、過去に植栽された両樹種の生育状況の報告は多くが若齢段階までのものであり、その後の成長はほとんど報告されていません。そのため、過去に植栽された林分の調査を行い、生育状況を明らかにしたうえで、早生樹としての可能性を評価する必要があります。
そこで、本報告では、三重県津市内の面積約1haの山林に植栽された52~54年生のスラッシュ、テーダについて植栽地内に残存している全立木を対象として樹高、胸高直径(以下、DBH)の調査を行った結果から、早生樹としての可能性について検討しました。
◆52~54年生時の地位区分毎の個体サイズ
植栽地内にスラッシュ189本、テーダ126本が残存し(図1)、立木密度はスラッシュで340本/ha、テーダで310本/haでした。谷付近から尾根まで様々な立地条件下に広く植栽され、立地条件に応じて樹高が異なる傾向がみられました。そこで立地条件毎の個体サイズを明らかにするため、樹高を立地条件の指標とし、樹高の平均偏差率をもとに全立木を3つのサイズクラスに区分して、これを地位上、中、下としました。
図1.調査地でのスラッシュマツとテーダマツの分布
スラッシュの平均樹高は地位上30.5m、中26.9m、下22.5mでした。平均DBHは地位上54.7cm、中49.9cm、下46.8cmとなり、地位間の差が小さく、地位下でも大径化する個体が多くみられました(図2)。
テーダでは平均樹高が地位上29.9m、中25.3m、下21.6mでした。平均DBHは地位上54.4cm、中46.7cm、下39.2cmであり(図3)、地位が下がるほど小さくなりましたが、地位下においても立木密度の低い箇所では大径化する傾向がみられました。これらのことから、両樹種ともに、いずれの地位でも適切な密度管理により大径木を育成できる可能性が示唆されました。
図2.地位区分毎のスラッシュマツの樹高、DBH. 箱の上端は75パーセンタイル、下端は25パー センタイル、箱中の横線は中央値を示す.箱 から上に伸ばしたひげは最大値、下に伸ばし たひげは最小値、+は平均値を示す. |
図3.地位区分毎のテーダマツの樹高、DBH.図の 読み方は図2と同じ |
◆スラッシュ、テーダと他樹種のサイズ比較
図4にスラッシュ、テーダの今回の調査結果とスギ、アカマツの林分収穫表における53年生時のサイズを比較した結果を示します。スラッシュ、テーダの樹高はいずれの地位においてもスギ、アカマツよりも4~5mほど大きい傾向がみられました。
図4.スラッシュマツ、テーダマツ、スギ、アカマツのサイズ比較.スギは三重県スギ人工林林分収穫表(島田2010)、アカマツは近畿地方あかまつ林分収穫表(林野庁・林業試験場1956)の53年生時の数値.
DBHについても、いずれの地位でもスギ、アカマツよりも20cm程度も大きく、早期に大径化することがわかりました。なお、今回調査したスラッシュ、テーダの立木密度310~340本/haは同林齢のスギ、アカマツ林分収穫表における立木密度よりも低いので単純比較できませんが、早期に用材を生産できる可能性を示す結果であると考えられます。
林分材積について、スラッシュ、テーダの林分材積はそれぞれの地位の平均樹高、平均DBHから単木材積を求め、これにスラッシュの現地の立木密度340本/haを乗じて試算しました。その結果、地位上では、スギ、アカマツより大きいものの、地位中、小ではスギと同程度となっていました。この結果は立木密度が低いことに起因するものです。そのため、林分材積を増やしたい場合は、立木密度を高める必要があります。なお、立木密度を高めるとDBHが小さくなると考えられることから、林分材積を最大化できる適正立木密度を明らかにする必要があります。
◆まとめ
両樹種ともに同林齢のスギ、アカマツよりも非常に大きな個体サイズを示していました。また、地位が不良でも、立木密度の低い箇所では大径化しやすく、どのような場所でも適切な密度管理により大径木を育成できる可能性が示唆されました。そのため用材生産を目指す場合には早期に収穫できる可能性があり、早生樹として利用できそうです。バイオマス原料生産を目指す場合には、林分材積を増やすために立木密度を高める必要があることから、林分材積を最大化できる密度管理方法、収穫時期を検討する必要があります。
いずれの生産目標においても、早期に最適な収穫を行うためには、生産目標に応じた適切な密度管理方法が求められます。そのため、今後は密度管理方法や立地条件毎の最適伐期の検討を行う予定です。また、更新費用に大きく関係する苗木に対するシカの嗜好性についても明らかにする予定です。