ササクレヒトヨタケ安定生産技術の開発
林業研究所 西井孝文
1.はじめに
ササクレヒトヨタケは、春から秋にかけて肥沃な畑地や草原などに発生する白色のきのこで、成熟すると短時間で傘の周縁部から黒インク状に液化するのが特徴です。風味、歯ごたえが良く、コプリーヌとも呼ばれ流通していますが、生産量が限られていることから、他の栽培きのこと比べて高値で取り引きされています。全国各地で人工栽培に取り組まれてきましたが、オガ粉での栽培が難しく、また、商品の日持ちが短いことから流通量が極めて少ないきのこです。そこで、県内のきのこ生産者が容易に導入できるよう、ササクレヒトヨタケの安定生産に向けて栽培方法を検討しました。
なお、試験には平成27年秋に伊賀市内で採取した野生株を用いました(図-1)
図-1.ササクレヒトヨタケ野生株
2.培地基材の検討
ササクレヒトヨタケの人工栽培に適した培地基材を明らかにするため、以下のとおり菌糸伸長試験を行いました。
スギオガ粉、広葉樹オガ粉、バーク堆肥と米ぬかをそれぞれ容積比で4:1の割合で混合し、含水率を60%前後に調整しました。それぞれの培地を直径32㎜の試験管に50g、高さが約150㎜になるよう均一に詰め、118℃で30分間殺菌しました。一晩放冷した後、ササクレヒトヨタケ菌糸体を接種し、温度24℃、湿度70%の条件下で培養し、接種3日後から21日間の菌糸伸長量を調査しました。
結果は表―1のとおりで、バーク堆肥での伸長量が著しく大きく、ササクレヒトヨタケの菌床栽培にはバーク堆肥を培地基材として用いることが有効であることが分かりました。
3.発生処理方法の検討
850ccのポリプロピレン製のビン1本当たり、バーク堆肥0.7?、米ぬか30g、ビール粕60gの割合で混合し、含水率を62%に調整し詰めました。118℃で90分間殺菌した後ササクレヒトヨタケ種菌を接種し、温度22℃、湿度70%の条件下で50日間培養しました。培養後、菌掻き無し、菌掻き有り、菌掻き後バーク堆肥による覆土の3通りの方法で発生処理行い、温度18℃、湿度95%の条件下で子実体の発生を促したところ、菌掻き覆土を行ったビンでのみ子実体が発生しました(図-2)。
図-2.ビン栽培による発生状況
また、同様の培地組成でササクレヒトヨタケ2.5㎏菌床を作製し、50日間培養したものを用いて、発生試験を行いました。袋の上部をカットした後、菌床表面の掻き取りの有無、バーク堆肥による覆土の有無について検討したところ、菌床表面の掻き取りの有無にかかわらず、バーク堆肥を被覆したものから子実体が発生しました。
このことから、ササクレヒトヨタケの子実体形成には、覆土が必要なことが判明しました。
4.菌床埋め込みによる発生試験
先と同様の条件で50日間培養した2.5㎏菌床を袋から取り出し、市販のプラスチック製容器に菌床4個を並べ、バーク堆肥を用いて埋め込みました。この容器を温度21℃、湿度95%の条件下に置き、子実体の発生を促し発生状況を調査しました。
菌床埋め込み後、17日目に子実体が収穫でき、その後約8カ月間発生が続きました(図-3)。合計の発生量は2,820gとなり、2.5㎏菌床1個当たりに換算すると700g程度の発生量となりました。以上のことから、ササクレヒトヨタケの菌床栽培では、バーク堆肥を培地基材として、作製した菌床を埋め込むことにより子実体の発生が比較的容易であることが示唆されました。
図-3.菌床埋め込みによる発生状況
5.生産者施設を利用した実証試験
ササクレヒトヨタケの栽培条件は、ハタケシメジの栽培条件と類似することから、ハタケシメジ生産施設を利用した実証試験を行いました。
県内のハタケシメジ生産者施設2カ所において、2.5㎏培地の作製を行ったところ、いずれも容易に菌床が作製可能なことが分かりました。そこで、作製した菌床を用いて覆土による上面発生を行ったところハタケシメジの発生室を流用することにより継続した発生が認められました(図-4)。
図-4. ハタケシメジ生産施設における発生状況
現在、松阪市内でアラゲキクラゲ発生室を流用したササクレヒトヨタケの通年栽培を行っており(図-5)、収穫したササクレヒトヨタケは、JAの直売所等を中心に販売され、徐々に販売量も増えてきています。
図-5. ササクレヒトヨタケの通年栽培
6.おわりに
ササクレヒトヨタケは、まだまだ商品としての知名度が低く、一部の需要しかありませんが、一度食べていただくとその評価は高く、PRをしっかり行うことにより販路の拡大が期待できるきのこです。特に、オリーブ油との相性が良く、パスタの具材や、豚肉とニンニクのオリーブ油炒め、アヒージョといった料理に利用できます。
今後は、新規参入者の育成による生産拡大と販路開拓を行うとともに、現在調査中である簡易施設を用いた栽培技術を確立し(図-6)、誰もが容易にササクレヒトヨタケの導入が可能な生産システムを構築する予定です。
図-6. 簡易施設を用いた発生試験