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平成28年12月14日

新植地に設置するシカ柵について考える
 シカ柵の設置はゴールでなくスタートである

林業研究所 福本浩士

1.はじめに
 戦後、拡大造林されたスギ・ヒノキ人工林が収穫期を迎え、県内でも皆伐して再造林を行う事例が増加しています。このため、三重県は低密度植栽等の積極的な導入により再造林を支援する取り組みを行っているところです。一方で、林業採算性の悪化やニホンジカ(以下、シカ)による植栽苗木の食害のため、森林所有者が再造林を行う意欲が低下していることも事実です。
 林業研究所では、シカ食害を回避して再造林を確実なものとするため、県内で使用されている3種類のシカ柵の構造と植栽苗木の被害調査を実施し、金網柵が最も侵入防止効果の高いシカ柵であることを明らかにしてきました。しかしながら、金網柵はポリエチレンネット柵(ダイニーマ入、ステンレス入)に比べて施工に要する経費が高いことから、一部の森林所有者・林業事業体でしか使用されていません。
 多くの森林所有者・林業事業体がポリエチレンネット柵を設置していることから、ポリエチレンネット柵の弱点を明確にしておく必要があります。そこで、シカ柵の破損形態とその頻度を調査して柵の構造と関連づけて検討するとともに、ポリエチレンネット柵における改善ポイントを提案しました。

2.シカ柵の構造と植栽苗木の被害状況
 現地調査は平成19年から23年にかけて植栽された松阪市と紀北町の新植地で実施しました(表1)。


 

 調査地A1~A5は亜鉛めっき金網柵(タイプA)、調査地B1~B4はポリエチレンネット(ダイニーマ入)柵(タイプB)、調査地C1~C4はポリエチレンネット(ステンレス入)柵(タイプC)を使用しています(表2)。支間間隔はタイプAとタイプCが2.5 m、タイプBが4.0 mであること、タイプAとタイプBはスカートネットが有り、タイプCはスカートネットが無いことが構造上の大きな相違点です。
 


 

 表3にシカの侵入履歴とヒノキ苗木の本数食害率及び食害程度を示します。金網柵はシカの侵入を防いでいる事例が多いのに対して、ポリエチレンネット柵はほとんどの林分でシカに侵入されていました。とくにタイプBのシカ柵では、苗木の食害程度の値が大きく、成長が抑制されていました。


 

 聞き取り及び現地調査の結果、シカが侵入した原因は、ネットと地面の固定不良、支柱とネットの転倒、ネットの高さ不足、ネットの破損によるものであり(表3)、とくにタイプBのシカ柵では損傷個所が多く確認されました(表4)。金網柵でもネットと地面に隙間がある箇所が確認されましたが、潜り込み防止のために設置したスカートネットによりシカが侵入を試みた痕跡は確認できませんでした。
 



図1 ネットと地面の最大間隙階級別の破損数

  シカは助走無しでも高さ1.7 m程度の柵を飛び越える能力を保持していますが、通常は柵の下部から潜り込むことが多いと考えられています。ヒノキ苗木の食害が激しいタイプBのシカ柵では、地面と押さえロープの最大間隙が30cm以上ある事例が多く確認されました(図1)。シカは30 cmの隙間があれば十分に通り抜けできるとされており、調査林分B1~B4ではネットと地面を固定するアンカーが十分に機能していなかったと考えられます。
 また、タイプBの柵ではネットと支柱が転倒している事例、張ロープが自重により垂下してネットの高さが1.5 m以下となっている事例が多く確認されており(表4)、支柱間隔がタイプAやCのシカ柵に比べて大きいことに起因していると考えられます。
 
3.ポリエチレンネット柵の改善ポイント
 金網柵に比べて強度や耐久性が劣るポリエチレンネット柵を有効活用するため、以下の点に注意を払うことが必要です。
 第一に、支柱の設置間隔を2.5 m程度とすることが重要です。支柱間隔を小さくすることで、倒木、落石、強風、シカのもたれかかり等に対する抵抗力を増大させることができます。また、張りロープの自重による垂下量を小さくすることもできます。現在、三重県では造林事業において補助対象となるシカ柵の支柱間隔を2.5 mとしています。
 第二に、ネットが地面に接する部分をシカが潜り込まないようしっかりと施工することが重要です。金網柵では押さえロープに針金を使用し、針金が地面に埋没するように施工することで金網と地面が接する部分を密着させることができます。一方、ポリエチレン柵では押さえロープにポリエチレン製ロープを使用するため、地面に埋没するように施工することが難しく、ロープが地面に露出してしまいます。そのため、シカがネット下部から潜り込むことが容易となります。シカがシカ柵の周囲を歩きにくくする、ネット下部から潜り込みにくくするため、後付けのスカートネットを設置すると効果的です。
 第三に、設置後の維持管理を考慮して植栽面積を1~2ha程度までとし、シカ柵の周囲長を短くすることが重要です。周囲長が1,000 mを超えるような大面積植栽地では巡視や補修資材の運搬に労力を要するとともに、シカに侵入された場合、大面積で被害を受けることになります。
 第四に、下刈り回数を省略して植栽苗木が被圧されない程度に雑草木を繁茂させることも一つの手法です。シカは雑草木が下腹に接することを嫌がることから、仮にシカ柵内に侵入したとしても被害を最小限に抑えられます。ただし、藪を好むイノシシの生息密度が高い場所では、イノシシに柵を破壊されることがあるので注意が必要です。
 
4.おわりに
 金網柵の設置は初期投資に重点を置き、その後の維持管理経費を小さくする手法です。一方、ポリエチレンネット柵は初期投資を抑えることはできますが、設置後の維持管理に多額の経費が必要となります。とくにポリエチレンネット柵は、維持管理を怠ると手痛いしっぺ返しをくらいます。いずれのタイプのシカ柵でも、柵の設置はゴールではなくスタートであることを肝に銘じてください。
 

本ページに関する問い合わせ先

三重県 林業研究所 企画調整課 〒515-2602 
津市白山町二本木3769-1
電話番号:059-262-0110 
ファクス番号:059-262-0960 
メールアドレス:ringi@pref.mie.lg.jp

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