長期間放置した人工林伐採跡地における更新補助作業を考える
~シカ柵の設置だけで更新は可能か?~
1.はじめに
近年、木材価格の低下、人件費の上昇等により林業採算性が低下し、主伐を行っても再造林への投資が捻出できない状況となっています。また、繰り返し発生するニホンジカ(以下、シカ)による苗木の食害により、成林に至らない場合が多く、再造林する意欲も低下しています。このような状況の中、主伐後に再造林を実施せず、広葉樹等の天然更新を図る事例も一部見受けられますが、シカが出現する植物の実生・稚樹を採食するため、更新の阻害が生じています。
人工林伐採跡地を長期間放置した場合、シカが芽生えてくる実生を継続的に採食するため、天然更新を目的としてシカ柵を設置したとしても、その場所に十分な更新材料が残っているとは限りません。
そこで、林業研究所では、主伐後6年間放置した伐採跡地における天然更新の可能性を検証するとともに、更新完了のためにどのような補助作業が必要であるかを検討しました。
2.小面積柵の設置によるシカ食害防止効果
シカが高密度で生息する松阪市飯高町地内において、平成18年秋から平成19年春にかけて主伐され、その後、6年間放置されていた場所を試験地としました(写真-1)。
平成25年3月に、斜距離10 m×10 mの方形プロットを12基設置し、そのうち8基は表層掻き起こしを実施することなく、シカ柵を設置するプロット(処理区A~F)と設置しないプロット(処理区G及びH)に割り当てました。残り4基のプロットは表層掻き起こしを実施した後、シカ柵を設置するプロット(処理区I及びJ)と設置しないプロット(処理区K及びL)に割り当てました。
図-1にシカ柵設置4年後に各処理区において発生した木本植物(樹高1.5 m以上)の個体数を示します。なお、シカ柵設置後4年間は、イノシシに柵の下部から侵入されることはありましたが、シカに侵入され生育する植物が採食されることはありませんでした。シカ柵を設置した処理区では、設置しない処理区に比べて樹高1.5 m以上に生育した木本植物が多く(ただし、処理区Cを除く)、そのほとんどは低木種(ニガイチゴやムラサキシキブ等)でした。天然更新完了の判断基準となる高木性樹種の個体数密度についてみると、全ての処理区で基準となる3,000本/haに達していませんでした。このことから、シカの生息密度が高い地域において、主伐後、長期間放置した場合、シカ柵を設置したとしても高木性樹種の更新が困難であると考えられます。
3.人工植栽による更新補助
自然発生する木本植物により更新が完了しない場合、どうすれば良いのでしょうか。そこで、処理区A~Hについて、平成25年3月に1成長期を経過した4樹種(イヌシデ、ケヤキ、ナラガシワ、ヤマザクラ)の実生苗を約1,000本/haの密度で植栽しました(イヌシデ、ケヤキ、ナラガシワ、ヤマザクラ=おおよそ、3:3:1:3の割合で植栽)(写真-2)。また、維持管理コストの軽減を念頭に置き、植栽苗周囲の植物体の除去(下刈り)は実施しませんでした。
図-2にイヌシデ、ケヤキ、ヤマザクラの植栽後の生残率を示します。シカ柵内に植栽した実生苗は、活着不良による枯死、豪雨にともなう表土流出による消失が確認されましたが、シカに採食されることはなく、植栽4年後の生残率は約60%(イヌシデ、ヤマザクラ)~80%(ケヤキ)でした。
イヌシデ、ケヤキ、ヤマザクラの生残した個体を対象として、図-3に樹高の変化、図-4に周囲の植物体との競合関係を示します。なお、図-3には、周囲の他の植物体より頂端部が突出した個体だけでなく、樹高が同程度の個体、上方被圧を受けている個体、周囲に他の植物体が存在しない個体を含んでいます。イヌシデとヤマザクラは、ケヤキに比べて成長が良く、周囲に存在する植物体による上方被圧を受ける前に頂端部が突出しやすい樹種でした。
4.おわりに
今回の調査で、主伐後、長期間放置した伐採跡地の天然更新は、シカ柵を設置するだけでは困難であることが分かりました。今後、人工林の主伐後、人工植栽を実施せずに天然更新を図ろうとする場合は、速やかにシカ柵を設置して更新材料の損失を抑えることが必要です。
また、天然更新が不可能な場所では、将来、林冠を形成する高木性樹種を人工植栽し、母樹として早期に育成する必要があります。そのためには、気候条件、土壌条件等に合った樹種を選択するとともに、競合する周囲の植物体の管理(下刈り、除伐等)も必要です。