ヒノキ新植地において下刈りを省略しやすい植生タイプとは?
林業研究所 島田博匡
◆はじめに
新植地におけるヒノキの初期成長は雑草木による被圧、品種などのほか、地形や傾斜、気象などの立地条件に影響されます。また、新植地に侵入して植栽木と競合する競合植生についても立地条件に影響を受けて様々なタイプが発達します。つまり、立地条件の違いによりヒノキの成長、雑草木の植生タイプが異なり、それらの相互作用も異なることから、事前に立地条件をみて、どのような植生が出現するかを予測すること、あるいは新植地に成立した植生をみることで、下刈りの省略可否を事前に判断できる可能性があります(図1)。
図1.ヒノキの初期成長に影響する要因
そこで、三重県内のヒノキ新植地に出現する植生タイプと各タイプにおける植栽木の初期成長や下刈り省略状況を明らかにすることで、下刈りを省略しやすい植生タイプの解明を試みました。
◆雑草木の植生タイプの分類と規定要因
三重県内の2~10年生ヒノキ植栽地において、さまざまな立地条件、下刈り履歴を有する101地点に5m×5mプロットを設定し、植被率5%以上の維管束植物種の植被率(%)などを調べました。
調査結果から群集解析手法を用いて調査地点の植生をタイプ分けしたところ、図2に示すようにウラジロ、コシダが指標種として出現するウラジロ・コシダ優占タイプ、ススキを指標種とするススキ優占タイプ、その他(植被率5%未満の複数種群)を指標種とするその他優占タイプ、イズセンリョウ、タケニグサなどを指標種とするイズセンリョウ・タケニグサ優占タイプの4つのタイプに分類されました。その他優占タイプは優占種が明瞭でないタイプといえます。
図2.ヒノキ新植地における雑草木の植生タイプの分類
また、各タイプの出現に影響する要因を分析したところ、暖かさの指数(月平均気温5℃以上の月の平均気温-5℃の積算値)と年間降水量など気象要因、曲率(地形の凹凸)と土地の湿潤度など微地形が影響していることがわかりました。しかし、どのような条件でどの植生タイプが出現するかを明確に判断できるまでには至りませんでした。
◆植生タイプ別のヒノキの初期成長と下刈り省略率
植生調査を行った101地点において、プロット内のヒノキ植栽木の毎木調査を行いました。また、森林管理者に対する聞き取りにより、下刈り履歴を調査し、下刈り省略率を算出しました。
下刈り省略率とは、標準的な下刈り実施期間を林齢2~5年生とし、2~5年生の4年間に下刈りを行わなかった年数を4で除した値に100を乗じたものです。5年生未満の場合には下刈りを行わなかった年数を林齢-1で除しています。下刈り省略率が大きいほど省略年数が多く、100%で無下刈り、0%で毎年下刈りとなります。下刈りを毎年行った後、5年生未満で終了した場合も省略に含めます。
図3に林齢とヒノキ植栽木の平均樹高の関係を調査地点数が多かった実生苗を植栽した地点のデータについて、下刈り省略履歴の有りと毎年下刈りに分けて示します。ここでは1年でも省略した履歴があれば有りとしています。なお、イズセンリョウ・タケニグサ優占タイプについては、分類された地点数がわずかであったこと、種組成がその他優占グループと近いことから、以後の解析ではその他優占グループに含めて示します。
図3.林齢とヒノキ植栽木の平均樹高の関係(図中の線はネスルンド式による近似線を示す)
林齢と平均樹高の関係には、植生タイプ問、下刈り省略履歴有りと毎年下刈りの問で明確な差異が認められませんでした。多くの地点では森林管理者が雑草木の繁茂状況を確認し、植栽木の成長量が低下しないように下刈り実施の有り、無しの判断を行っていることから、樹高成長に明確な差異が生じなかったと考えられます。
図4には植生タイプ別の下刈り省略率の地点数割合を示します。なお、試験的に下刈りを省略した地点は除いて割合を算出しています。
図4.植生タイプ別の下刈り省略率の地点数割合
ウラジロ・コシダ優占タイプで下刈り省略を行った地点数の割合が高い傾向がみられました。植生タイプ間、下刈り省略履歴有無間で成長に明確な差異が出ないように下刈りが実施されてきたなかで、下刈りを省略した地点数割合が高かったことから、ウラジロ・コシダ優占タイプは下刈りを省略しやすいタイプであると考えられます。下刈りを省略しやすい理由として、ウラジロやコシダの優占度が高いほど木本種の更新が妨げられることが明らかになっていますが、これによりヒノキの成長を妨げる雑木類が少なくなること、また、ウラジ口、コシダの高さは最大でも1.5m程度であり、ヒノキが雑草木の高さを越えやすいことが関係していると考えられます。
◆おわりに
ヒノキ新植地の植生タイプは、4つのタイプに分類され、そのなかでウラジロ・コシダ優占タイプは下刈りを省略しやすいタイプであることがわかりました(図5)。下刈りを実施するか否かの判断は、毎年、現場で植栽木と雑草木の競合やツル植物の侵入の状況などをみて判断する必要がありますが、下刈りを省略しやすい植生タイプをあらかじめ認識してから現場確認を行うことで、判断をより容易に行うことができると考えられます。
図5.結果のまとめ