集材機械の効率的な集材距離と地形による制約
~ 搬出間伐における最適な集材機械の選択に関する研究より ~
林業研究所 野村久子
◆はじめに
国産材自給率50%を目標とした「森林・林業再生プラン」が平成21年12月に策定され、搬出間伐などの木材生産を効率的に行うための高密路網整備と高性能林業機械化が推進されてきました。しかし、地形が急峻で多雨地域である三重県では、高密路網をすべての箇所でつけることは難しく、現在行われている主な車両系作業システムでは施業できない地域が発生しています。今後は地形や路網の状況から、新たな機械を導入するのか、路網整備を進めるのか、選択が難しい施業地が増加すると考えられます。そのため、林業研究所では平成26年度から地形条件等から最適な集材機械を選択するための研究を行っています。今回は、機械選択において重要な集材距離に関する文献調査とGISを使った集材可能領域の解析結果についてご紹介します。
◆集材機械の作業性能調査
現在、集材機械として広く使用されている、タワーヤーダ、スイングヤーダ、グラップル等に装着する単胴ウインチについて作業性能を把握するため、国内で製造・販売されている各メーカーの機種、ベース機械、最大木寄せ距離(ウインチ巻込み容量)、牽引力、牽引速度等をカタログと聞き取りによって調査しました。また、タワーヤーダについては県内に導入されている機種についてすべて調査しました。
図-1 県内に導入されているタワーヤーダ
タワーヤーダについて、現在国内で製造されているものは2メーカーの2機種確認できました(平成27年3月現在)。県内ではその2機種が導入されているほか、現在は製造されていませんが過去に製造された国産機種が2機種、外国製機種が3機種導入されています。県内に導入されている7機種の最大集材距離は200~800m、タワー高7.2~12.2m、最大直引力は約11.8~38.0kN、索速度は3.7~6.5m/secでした。
スイングヤーダは15機種が確認できました(平成27年3月現在)。最大集材距離は50~200m、最大直引力は12.3~58.0kNと、タワーヤーダをしのぐ機種もありました。索速度は0.7~2.7m/secでした。
図-2 スイングヤーダによる集材作業状況
グラップル等に装着する単胴ウインチについては、国内メーカー4社が製造販売しており、16機種が確認できました(平成27年3月現在)。ウインチの巻込容量は使用するロープの径にもよりますが、50~95m、直引力は11.2~50.0kN 、索速度は0.3~1.3 m/secでした。
◆効率的な作業と作業条件
このように様々な最大集材距離と直引力、索速度を備えた機種がありますが、過去の調査研究からスイングヤーダや単胴ウインチにはそれぞれ効率が良いとされる集材距離があります。
スイングヤーダの効率の良い集材距離は50~80ⅿと言われています。先柱を設置するため、短距離ではかえって効率が悪く、タワーヤーダほど索速度が速くないため、距離が遠すぎても生産性が落ちます。また、定性間伐のように集材ライン上に間伐木があまり多くない場合、スイングヤーダ等の索を張る集材方式より単胴ウインチによる地曳き集材の方がむしろ良い生産性を示すという報告がありました。しかし反面、荷掛手の生理的負担を考慮すると単胴ウインチによる地曳き集材は30mまでが効率的であるとの報告もあり、集材距離30mまでの定性間伐の現場においては単胴ウインチによる集材の効率が良いと言えます。集材距離を左右する路網密度はもちろんですが、間伐方法(定性、列状)や間伐率などを総合的にみて機械選択することが、効率的な作業につながることが分かります。
◆機械の集材距離と集材可能領域
集材機械の効率的な集材距離を、単胴ウインチで30m、スイングヤーダ70m、タワーヤーダで200m、300m、400mの3種類に設定し、モデル集約化団地(面積64.6 ha、路網密度84.0m/ha、路網密度修正係数3.22)において道からの距離による集材可能範囲の解析を行いました(ArcGIS10.2.2の解析ツールのバッファ機能を使用)。その結果、この団地においては単胴ウインチで36%、スイングヤーダで52%、タワーヤーダ200mで84%、タワーヤーダ300mで96%、タワーヤーダ400mでほぼ100%が集材可能領域に入りました。
しかし、実際には、尾根や谷といった起伏があり搬出できない場所が発生すると考えられます。そこで単純に、地形により見通せない場所では架線が張れないと仮定し、GISを使用して作業道からの不可視領域抽出を行いました(図-3)。
図-3 集材可能領域と不可視領域
その結果、起伏により作業道から見通せない不可視領域の割合は、作業道からの距離(集材距離)が長くなるほど増加しました(表-1)。集材距離が長くなるほど地形の制約を受け、機械の設置場所に苦慮する状況が考えられます。
表-1 集材距離ごとの集材可能面積と不可視領域の割合
◆おわりに
作業道が作設困難な場所では新たな作業システムの選択が必要となるかもしれません。しかし、集材距離が延びるほど地形の制約を受けることを念頭におき、より綿密な施業地の事前調査を行う必要があります。今後も林業研究所では、地形条件などから収穫コストを予測し、集材機械の選択を行う技術について研究を進めていく予定です。