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平成21年01月27日

研究報告第25号

1.不耕起直播水稲の根域の拡大過程と根系の特徴

北野順一・山中聡子・生杉佳弘

土壌表面を削耕(浅耕)しながら播種溝を切り、播種し覆土する方式で播種された不耕起直播水稲の根域の拡大過程を内視鏡(OLYMPUS MARKII INDUSTRIAL BORESCOPE)を用いて観察調査し、さらに不耕起直播水稲の根系を耕起移植のそれと比較しその特徴を明らかにした。
不耕起直播水稲の生育初期における根域の拡大速度は非常に遅く、播種条からの距離が5cmの位置で初めて根が観察されたのは播種後20日、3.5葉期であった。入水により根の伸長が促進され、最高分げつ期の直前から幼穂形成期にかけて急速に拡大した。出穂期に観察された根の到達範囲は、播種条からの距離が5cm及び10cmでは深さ32.5cm、15cm及び20cmでは深さ15cm、そして25cmでは深さ10cmであった。
成熟期の根系は、不耕起直播では播種条の直下の深さ0~10cm層に総根長の60%が集中し、耕起移植の比べ播種条の直下と上層に多く分布していた。根長密度(根長/土壌容積)は、深さ0~10cmの上層では不耕起直播の方が耕起移植より大きく、深さ10~30cmの中層では逆に耕起移植の方が大きかった。
大型容器(縦54cm×横42cm×深さ33cm)で栽培した湛水直播水稲と削耕方式ならびにV溝方式で播種した不耕起直播水稲のそれぞれの根系を8.5葉期に掘取り調査した。根重密度は湛水直播が最も大きく、次いで削耕方式の不耕起直播、V溝方式の不耕起直播の順であった。また削耕方式の不耕起直播ではV溝方式のそれに比べ10~20cm層の根量が多くなった。

2.水田輪換畑における高品質小麦安定生産のための窒素施肥法と生育診断

北野順一・本庄達之助

水田輪換畑の小麦農林61号を対象に、窒素追肥時期の違いが収量、品質に及ぼす影響ならびに高品質小麦安定生産のための窒素施肥方法と生育診断基準について検討し、以下の結果を得た。
2月上旬~3月上旬の窒素追肥は収量を高める効果が大きく、幼穂形成始期(葉齢6葉頃)が最も効果的であった。
原粒粗蛋白質含量は窒素追肥時期が遅いほど高まる傾向を示したが、出穂期前10日以降の追肥は外観品質を低下させた。60%粉の明るさは止葉出葉始期(出穂前15日頃、葉齢8葉)の追肥で最も良好になった。
収量および品質の向上には、幼穂形成始期と止葉出穂始期の2回追肥が有効であった。収量42kg/a、原粒粗蛋白含量8.5%以上を生産目標とした場合における生育時期別の適正窒素保有量は、幼穂形成始期が4.0g/m2、止葉出葉始期が5.0g/m2であった。また倒伏限界窒素保有量は、幼穂形成始期が6.0g/m2 、止葉出葉始期が7.0g/m2であった。
草丈×茎数×葉色値と窒素保有量は相関が高く、次式によって窒素保有量が推定可能であった。
Y=ー0.091+4.838×10-6X
Y:窒素保有量(g/m2
X:草丈×m2当たり茎数×葉色値(cm・本・SPAD/m2
幼穂形成始期と止葉出穂始期の葉色値、草丈×茎数×葉色値および出穂期の止葉葉身窒素含有率は、生育診断指標として有効であった。

3.イチゴの画像処理による生育解析に関する研究

田中一久・礒崎真英

客観的な生育測定の手法として、最近は画像処理を利用した様々な測定技術が開発されつつある。これらの方法は、植物体の非破壊での経時的な生長量の測定を可能にし、従来の大きさや重さによる評価とは違った生育指標が得られる可能性がある。そこで画像処理を利用して、イチゴの生育条件の異なる株の生育を把握し、生育を客観的に判断するための生育解析法について検討した。

  1. 画像処理による生育指標として、直接光があたる葉の面積に相当する上方投影画像による株面積が適しており、収穫開始期の上方投影面積と第一果房収量との間に有意な相関が見られた。
  2. 画像処理により、長辺短辺比(上方投影画像の外接する最小面積となる長方形の長辺に対する短辺の比)を測定した。その値が1に近いほど株の生育が順調であることを示し、第1果房の収穫開始期に最も高くなった。
  3. 第1果房の収量を高めるには、収穫開始期に上方投影面積×長辺短辺比を最大にすることが必要である。

4.都市空間緑化に対応した緑化植物の生産と利用技術の開発

鎌田正行・内山達也・西田悦造

都市緑化においてビル周辺および屋内、ベランダ、屋上等が残された緑化スペースとなっているが、これらはすべて人工地盤である。そこで、これらの植栽環境に適した樹種検索、生産技術、維持管理技術の検討を行い、緑化植物の利用法を開発した。
人工地盤は、夏期には高温乾燥条件となることから、耐寒性、耐暑性樹種について検討し、環境耐性のある樹種を検索した。
また、人工地盤は、加重制限があるため、根鉢の軽い緑化植物を生育させる技術について検討した結果、根鉢の厚さ12cm程度までの緑化植物生産が可能であると考えられた。
畑地で生産された緑化植物をそのまま屋内緑化に用いると、急激な環境変化によって落葉、枯死株等が発生するため、遮光順化について検討した結果、順化が必要な樹種、順化の必要性が認められない樹種に分類できた。
屋内緑化を植栽する場合、低温に遭遇しないため正常な萌芽、開花しがたいことから、これらの回避法を明らかにした。

5.採卵鶏における産卵後期の短期絶食処理(リフレッシュ休産)が卵質に及ぼす影響

佐々木健二・出口祐二・今西禎雄

採卵鶏の通常の飼養のおいて、50及び60週齢時に短期間(3、5、7日間)の絶食処理を実施し、産卵性及び卵質に及ぼす影響を検討した。この方法により、休産期間は従来の強制換羽処理に比べ、短くなり、また卵殻強度、破卵率及びハウユニットが改善された。中でも50週齢時に5~7日間の絶食処理が産卵性及び卵質改善効果が最も高く、経済性にも有利となった。

6.採卵鶏のウインドウレス鶏舎における間欠照明下低照度の影響

佐々木健二・出口裕二

ウインドウレス鶏舎において間欠照明下における低照度下について検討した。舎内照度は育成期5、3、1ルクス(lux)の3処理、成鶏期10、5、1luxの3処理とした。育成期は性成熟、、飼料摂取量及び育成率について各照度処理間に差は見られず、低照度による影響は受けなかった。成鶏期では、照度処理による影響を受け、産卵前期(21~40週齢)の産卵率、産卵日量及び飼料摂取量は照度が低いほど低下し、その影響で産卵全期間でも同様な傾向を示した。以上のことから、間欠照明下における照度は育成期は1lux成鶏期5~10luxが適当と考えられた。

7.牛の胚移植技術に関する研究(第4報)牛体外受精の発生培養における添加物と培養液の検討

榊原秀夫・西康裕・余田行義

牛体外受精における胚盤胞発生率を上げる目的で、発生培養液への添加物(タウリン、ハイポタウリン)、培養液中のグルコース濃度(1.5mM、0.5mM、0.1mM、0mM)、培養液の種類(TCM199、m-SOF、CR1aa)についての検討を行ったところ、タウリンおよびハイポタウリンの添加試験では、タウリンよりもハイポタウリンの添加で効果がみられ、タウリンとハイポタウリンの同時添加では効果が見られなかった。m-SOFを使った培養液中のグルコース濃度別の試験では、含まれるグルコース濃度が低いほど、2細胞以上への分割率、胚盤胞発生率が高くなった。TCM199、m-SOF、CR1aaの3種の培養液別の試験では、m-SOFの胚盤胞発生率が一番高く、次にCR1aaが高かった。m-SOFとCR1aa由来の胚盤胞および拡張胚盤胞の耐凍性は、m-SOFで6日目、7日目、CR1aaで7日目に発生した胚盤胞、拡張胚盤胞で高かった。

8.牛の過剰排卵処理方法の簡易化

西康裕・榊原秀夫・余田行義

過剰排卵処理における省力化を図る目的で、卵胞刺激ホルモン及びプロスタグランジンF2αの注射数削減について和牛を使用して検討したところ、現行法の7回注射と比べ、3回注射でも平均回収胚数、平均正常胚数、平均Aランク胚数において同等の成績が得られ、処理方法の簡易化が図られた。

9.三重県下の水田がもつ環境保全機能の経済的評価

糀谷斉・坂本登

三重県下の水田がもつ環境保全機能の経済評価を擬制市場法(CVM)を用いて行った。評価にあたり県下の全世帯から1,000世帯をNTTの電話帳より無作為抽出し、郵送法によるアンケート調査を行った。調査内容は、環境保全機能に対する定性評価、階層構造による意志決定法(AHP)を用いた地域別水田の相対的機能の大きさ評価、CVMによる経済評価の3要素からなる。CVMの評価測度は水田の荒廃化を回避するための支払意志額(WTP)を問う事後の効果水準を一定にした等価余剰、支払形態は外国に比べて高い米価及び税金とし、質問方法は二肢選択法とした。
回収率は39.8%で調査結果は以下の通りである。

  1. 環境保全機能に対する定性評価では国土保全機能及びアメニティ機能が重要との意識が高い水準で認められた。
  2. 地域別水田の相対的な機能の重要度評価では、中山間地域水田が平坦地域水田や市街化地域水田に比べ高い重要度となった。
  3. 経済評価は各種の偏向を考慮して推定した結果、325億円/年(最大538億円/年、最小152億円/年)となった。また、地域別に経済価値を推計したところ、中山間地域水田745千円/ha、平坦地域水田559千円/ha、市街化地域水田417千円/haとなった。

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