研究報告第21号
1.水田転換畑ダイズに対するサブソイラ深層施肥の効果
青久・吉川重彦
温暖平坦地の水田転換畑ダイズに対するサブソイラ深層施肥の増収効果を検討した。結果の概要は以下のとおりである。
- 深層施肥方法としては、ダイズを播種(不耕起)する直前に、サブソイラ深層施肥機により、窒素・燐酸・加里人り緩効性肥料を、探さ30~35cmの下軌に施肥を行う方法を用いた。
- 深層施肥位置における土壌溶液中の硝酸態窒素濃度は、開花期から幼莢期に最高となり、根の伸長に伴い幼莢期から急激に吸収され、植物体の窒素濃度を高めた。
- 施肥位置が深くなるはど、根域が深くなり、増収する傾向が認められた。
- 深層施肥窒素量が10kg/10a以内では、根粒薗の窒素固定能への影響は少なく、収量は深層施肥窒素量10kg/10aで最大となった。
- 深層施肥した場合の子実収量は350~400kg/10aと追肥法に比べて、平均で20~30%の増収した。
- サブソイラ深層施肥の効果は、ダイズ後作の小麦にも持続することが確認された。
- 以上のことから、深層施肥法は根粒菌活性を損なわず、生育後期の窒素供給を可能とする優れた施肥方法であると考えられた。その場合の深層施肥窒素の適量は、10kg/10aと推察きれた。
2.Crotalariaspectabilisを対抗植物としたサツマイモネコブセンチュウの防除技術
北上達・大久保憲秀・山本敏夫
サツマイモネコプセンチュウを防除するために、対抗植物であるCrotalaria spectabilisの栽培期間及び栽植密度を決定した。栽培期間はポット試験の結果、少なくとも2カ月必要であった。栽植密度は圃場試験の結果畦幅60cmで3カ月栽培した場合、株間30cmで高い防除効果が得られた。しかし、場内温室で上記栽培条件で試験した場合には、十分な防除効果が得られなかった。これは、スペクタビリス栽培前のホウセンカ検定によるサツマイモネコプセンチュウ密度が、圃場試験では15以下であったのに対し、場内室温の試験では70以上と高かったことによると考えられる。
3.松阪赤菜の栽培及び加工適性に関する研究
藤原孝之・本庄達之助・広瀬和久
松阪赤菜の形質の良い系統を選抜し育成するとともに、栽培並びに漬物加工方法を検討し、以下の結果を得た。
- 優良系統の選抜
従来の種子は非常にばらつきが大きかったため、3年間良い系統の選抜を重ねた結果、形状及び色彩の揃いが良くなり、形状については根が肥大部の細長いもので葉はカブ様のもの、色彩については葉柄及び根が鮮やかな赤紫色のものにほぼ統一することができた。残された問題として、根毛が多いという欠点がある。 - 栽培時期及び収穫時期の検討
播種時期及び生育日数による栽培適性並びに品質の違いを検討したところ、松阪赤菜の播種期は、比較的栽培が容易で、肉質が軟らかい9月~10月上旬が適当と考えられた。また、かなり生育日数を経ても根に「す」が入りにくいため、収穫期が長く、用途に合わせ色々な大きさの収穫物を得ることが可能と考えられた。 - 加工適性の検討
松阪赤菜を浅漬(葉部の塩漬、葉部及び根部の甘酢潰)並びに糠漬(葉部及び根部)に加工したところ、根部及び葉柄部が大変鮮やかな赤色を呈し、特徴のある漬物となった。食味も良好で、根部はやや硬いが歯切れが良かった。以上より、松阪赤菜は漬物加工適性が高いものと考えられた。
4.ヤマノイモ属栽培種「イセイモ」における効率的増殖方法に関する研究 バイオテクノロジーの実用化を目的とした低コスト化技術について-
森利樹・庄下正昭・西口郁夫
バイオテクノロジーを利用した増殖体制を整えることを目的として、コストの低減と生産される種いもの高価値化に寄与しうる技術について検討を行った。
- 大量増殖を実施する場合には、年数をかけて大きく育成してから分割して種いもとするよりも、小さな段階で無分割の種いもを利用するほうが適すると考えられる。そのための種いもとして必要な大きさは40g以上で、これによって商品化可能な200g以上のいもが充分に収穫可能であると考えられた。
- 培養後のイセイモ幼植物においては、茎葉の黄化枯死に対して低温の影響はみられたが、日長はほとんど影響しなかった。
- 培養後のイセイモ幼植物においては、秋冬期の茎葉の黄化枯死に対して、しょ糖の灌注は促進させる効果があり、液肥の施用は遅延させる効果があった。その結果液肥を施用した区では無処理区よりも大きないもが得られた。
- 頂芽を切除したいもから多数発生する不定芽由来の新生植物体のうち、2g以上のいもを定植した場合、40g以上のいもが収穫でき、これを利用したex uitroの大量増殖が可能であることが示さきれた。
5.組織培養によるイセイモ及びワイルドライスの種苗増殖に関する研究(第1報)イセイモ多芽体及びワイルドライス胚様体の作出
平野三男、立松伸夫、服部英樹、橋爪不二夫、河野満
- 組織培養法を利用したイセイモ及びワイルドライスの種苗の大量増殖法を確立するため、苗条原基、胚様体の作出を試みた。その結果、イセイモでは腋芽培養によって多芽体が得られワイルドライスでは、種子胚から得たカルスに胚様体が形成された。
- 両植物の茎頂組織を、液体培地で照明下において回転培養したが、両植物とも苗条原基は得られなかった。
- イセイモ液芽を高濃度でサイトカイエン(5mg/リットルBA)を含む固体培地で培養すると、10~15の芽を含む多芽体が形成された。これらの多芽体をホルモンフリー培地で培養したところ幼植物を得た。
- イセイモ、ワイルドライスの外植体を固体培地で培養したところ、イセイモでは茎頂及び茎片から白色あるいは淡褐色のカルスを、ワイルドライスでは完熟胚からコンパクトな白色粒状のカルスを誘導した。イセイモのカルスからは、胚様体を誘導することはできなかったが、ワイルドライスのカルスを高濃度2.4-D(4mg/リットル)を含む液体培地で培養し、さらにこのカルスを低濃度2.4-D(0.02mg/リットル)を含む固体培地で培養したところ、胚様体が形成された。
6.無臭化微生物による家畜排泄物の処理に関する試験(第2報)実用規模における腐熟促進効果
原正之・石川裕一
豚ぷんの無臭堆肥化処理における悪臭軽減効果および腐熟促進効果に対する処理規模拡大の影響について検討した。
- 生ふん量100kgに対し無臭化堆積肥を10%(W/W)添加し、堆肥化処理を行ったところ、堆積肥を添加しない対照区に比べ5日程度脱臭効果が認められた。しかし、前報の10kgの処理時に比べ効果はかなり低下した。これは堆肥の不均一性の増大と嫌気発酵部分の発生によるものと考えられ、日照通気条件の限界と強制通気の必要性が示唆された。
- 無臭化処理により堆肥中の易分解性有機物の減少速度およびコマツナに対する生育阻害の回復は対照区に比べ7日程度早く、腐熟促進効果が確認された。なお無臭化処理を行った場合、約3週間の堆積期間で完熟化された。
7.混合飼料給与による和牛肉低コスト生産技術の開発
山田陽稔・榊原秀夫・加藤元信
黒毛和種去勢牛を用いて、給与する混合飼料の形態(ウェットタイプとドライタイプ)と乾物当たりの蛋白質水準(CP15%と9%)により4種類の混合飼料を作成し、給与混合飼料により、WH区、DL区、DH区、WL区の4区を設定し、群飼育で飽食給与による肥育試験を実施した。
その結果
- 増体成績はWH区がDG0.74kgで最も良く、WL区0.64kg、DL区0.61kg、DH区0.61kgの順で、ウェットタイプ混合飼料給与区が優れていた。
- 一日当たり飼料乾物摂取量はWH区が7.51kgで最も多く、以下DL区7.16kg、WL区68.4kg、DH区6.73kgとなった。
- TDN要求率は増体の良かったWH区が7.92kgで最も優れ、以下WL区8.06kg、DH区8.27kg、DL区8.76kgとなった。
- 第6~7肋骨断面口一ス芯の脂肪分はDL区が18.2%と最も少なく、他は22~23%であった。
- 枝肉価格と素牛価格、飼料価格から求めた差益は、増体が良く、飼料単価の低かったWH区が152,154円で最も多かった。
8.肥育豚に対する生豆腐粕の飼料利用性について
伊藤均・安芸博・今西禎堆
- 生豆腐粕を市販飼料に20%配合しても発育、枝肉および肉質成績には影響は認められなかった。しかし、20%配合区では軟脂になるような個体がみられた。
- 飼料コストは、豆腐粕配合により1割前後節減された。
- 20%配合時において、カポック粕添加により脂肪の改善傾向を示し、特に冬期では肥育前期(35~105kg)に1%、肥育後期(70~105kg)に2%添加した場合、脂肪の改善効果が認められた。
9.カルシウム粒度と飲水方式力が卵質に及ぼす影響
出口裕二・佐々木健二・西口茂
産卵期における飼料中の石灰石の粒度(大:2~3mm、小:<0.2mm)と飲水方式(ニップルドリンカ、流水)の違いが卵質に及ぼす影響を検討した。
- Ca粒度、飲水方式の違いによって、産卵成績に差は見られず、ドリンカ区は夏期の産卵率の低下はみられなかった。
- 小粒Ca区の飼料摂取畳、体重は大粒区より少なく、また、飼料費求率も優れていた。
- ドリンカ区の飼料摂取量、体重は流水区より少なく、また、飼料要求率も優れていた。
- Ca粒度の違いによって、卵殻強度、卵殻厚に差はみられなかった。
- ドリンカ区のハウユニットは、52週以降、流水区より優れていた。
10.卵用鶏の成鶏ケージ収容方法に関する試験(第1報)
佐々木健二・出口裕ニ・西口茂・水野隆夫
鶏の体重に応じた適正なケージ収容方法を検討するため、間口24cmのケージに単飼および複飼方式で飼養した場合の生産性に対する影響を鶏の品種、体重別に調査した。
産卵率および飼料要求率は、銘柄Aでは単飼より複飼が優れる傾向がみられたが、銘柄Bでは逆に単飼のほうが優れる傾向がみられた。また、生存率については銘柄Bでは、単飼に比べ複飼のほうが低くなった。また、他の調査項目では一定の傾向が認められなかった。
以上のことから、銘柄Aでは間口24cmのケージへの複飼は問題ないと思われるが、銘柄Bでは複飼により生産性が低下したので、間口24cm、複飼方式ではやや問題があった。
また、単飼と複飼を比較する場合、体重、体幅の大きさが鶏の生産性に及ぼす影響はほとんどなく、むしろ鶏種や系統の違いが大きく関与しているものと推察する。
11.稲・麦用カッティングロールペーラの開発
浦川修司・水野隆夫
排水不良田でのホールクロップサイレージ用稲の生産体系を確立するため、自脱型コンバインを利用した稲麦ホールクロップサイレージ用カッティングロールペーラを開発した。
- 開発したロールベーラは白脱型コンバインの刈取部、走行部を利用して脱穀部の替わりにロールペーラのロールチャンバを搭載したものである。
- 本カッティングロールベーラの切断機構はロールチャンバ前部に装着したディスク型カッタにより材料草を切断する。
- ディスク型カッタの切断刃間隔14cm(平均切断長:15.4cm)と7cm(平均切断長:8.6cm)に設定した結果、切断刃間隔は7cmでもロール成形は可能であった。
- 材料草の切断にともなうロール成形ロスは、切断刃間隔14cmでは4.3%であり、7cmの場合は6.2%であった。
- 収穫機の汎用利用を目的にロールチャンバと自脱型コンバインの脱穀部との相互積み替えを可能とした。
- 本機の処理能力は1ロール当たり4分23秒、10アール当たり61分であった。
- ロール内の材料稲の均一化を目的にディスク型カッタの下部にビ一夕を装着したが、十分な効果は得られなかった。