研究報告第10号
1.除草剤「ベンチオカープ」による水稲矮化症に関する2・3の知見
生杉佳弘・石川裕ー・片岡一男
- 阿山町馬田地区における「除草剤ベンチオカーブによる矮化症状」発生田の分布状況を、3か年間にわたって訝査した。
当地域の主たる除草剤使用体系は、ベンチオカープ・シメトリン粒剤の移植後10~15日単用散布であった。3か年間の発生田分布変遷からみて、矮化症発生田の拡大には、地縁的関係および用水の移動との関連性は認められなかった。 - 県下における矮化症発生田の実態について耕種的側面から調査した。
矮化症の発生は、ベンチオカーブ剤施用後30日目頃に線状又は坪状に局所的に発生する事例が多かった。矮化発生田は乾田又は半湿田が大部分を占め、ほとんどの圃場で稲わらを施用していたが、有機物を全く施用していない水田での発生も数例みられた。湿田での発生事例は少なかった。また、耕起時期との関連性は明瞭でなかった。 - 矮化発生の前歴のある現地圃場において、稲わら施用量、ベンチオカーブ処理量、耕起時期を異にして矮化症発生に及ばす影響を検討した。
稲わら施用・高薬量条件で矮化症が顕著に発生し、土壌中からは2~3ppmの脱塩素ベンチオカーブが検出された。稲わら無施用条件では、ベンチオカープ薬量が増加しても矮化症の発生は少なかった。また、春耕起に比べて冬耕起で矮化症が強くなる傾向が認められた。
矮化症は強還元条件下でなくても発生したことから、土壌の酸化還元程度は本症状発生の主たる要因ではないと考えられた。
2.イチゴの隔離育苗、特にポット育苗が早期収量に及ぼす影響について
東上剛・伊藤重雄・庄下正昭・福永勉
イチゴの隔離育苗(主にポット育苗)により、早期収穫と全収量の増収をはかるため、培地の種類、施肥量、施肥切り上げ時期、ポットの大きさ等について検討した結果、次のような成績を得た。
- ポット育苗による定値苗は、地床育苗に比べて、地上部の生育が劣ったが、根重、茎経ではまさり、T・R率の小さい苗となった。
- ポット育苗では、地床育苗、平床育苗より出蕾、開花が早く、その影響で早期収量が多く、また全収量も多かった。
- 培地の種類では、モミガラ堆肥を利用すれば、窒素の溶脱も早く、早期収穫につながる。
- 施肥量は、ポット当り窒素0.3gまでで良い。0.2gでは、より早期収量があがるが、全収量では若干減収する。また、施肥切り上げは早い方が、施肥方法では、元肥のみの方が早期収量があがる。
- ポットの大きさでは、5号ポットは若干の増収や大黒率の向上につながるが、資材、労力等を考えると、4号ポットで充分と思われる。
3.デンドロビューム・フォーミディプルの生育および開花条件に関する研究 第2報環境条件が生育開花に及ぼす影響
山口省吾・中野直
デンドロビューム・フォーミディブルの生育、開花に及ばす環境条件のうち、温度および光条件について検討を行った。
- 一般管理下における生育・開花習性を知るため、リードの発生時期と生育開花について検討したところ、春および秋に発生が多く、その他の時期には発生が著しく少なかった。また春発生のリードは夏期の高温により十分生育しバルブも充実するため開花率が高いが、その他の時期に発生したリードは生育期間が短いため生育が十分行われず開花に至らない。なお、春発生のリードは発生時期が早い程開花率が高くなったが、開花時期も早くなるので、開花抑制のためにはやや遅く発生したリードを残し、発生時期を揃えることが必要であると認められた。
- 温度、日長と生育開花については、生育完了後の花芽分化期における影響について検討したが、日長よりも温度の影響が大きく、最低15℃以上の高温で開花率が高くなることが認められた。しかし出蕾後も高温で経過すると開花期が早くなるので、開花抑制のためには出蕾期以降低温で管理することが必要である。
- 日照条件と生育、開花については、遮光方法を変えて検討したが、日照には比較的鈍感で、生育期間中30~60%遮光の範囲内で適しており、低日照条件に耐える植物であると云える。
- 以上のことから、デンドロビューム・フォーミディプルの開花率を向上させるためには、春発生したリードを残し、夏期30~60%程度の遮光条件で管理し、秋期生育完了期以降は15℃以上の高温条件が適しており、また開花抑制のためには春やや遅く発生したリードを残し、出蕾期以降は低温条件で管理することが必要であると認められた。
4.化学繊維資材の直がけ被覆による茶葉色の変化について
橘尚明・吉田元丈・川瀬春樹
- 中級茶生産地帯である平坦地においても、化学繊維の直がけ被覆を行なうことにより、山間地の高級煎茶に近い品質の茶葉生産が可能かどうかを明らかにする目的で、葉色を中心に被覆時の遮光率、時期および期間などの影響を調べ、あわせて直がけ被覆茶の特性についても検討した。
- 茶葉の色は、被覆開始後5~6日日頃までに緑色程度が急速に増したが、その後はほぼ一定となった。また、葉緑素含量は、遮光率が大きいほど多かった。
- 摘採時期を同一日とした場合、被覆期間7日および10日間では、ほぼ同程度の緑色となるが、被覆期間5日間では緑色程度が低く被覆日数の不足が明らかであった。
- 葉色に対する被覆の効果は、茶葉の熟度によって異なり、直がけ被覆による効果を期待するためには、出開度70~80%程度で摘採するように被覆時期を設定することが望ましい。
- 茶葉の収量、茶品質およびそれらに関与する諸成分は、遮光の程度、被覆期間により著しく影響され、遮光率が高く、被覆期間が長いほど収量は減少し、他方茶の品質は向上した。しかし、収量、品質およびかぶせ香などを考慮すると、直がけにより高級煎茶生産のための被覆期間は、7日程度が適当と考えられた。
- 茶葉の色相と全窒素含量との間には相関関係が認められなかったが、荒茶の色相絶対値と全窒素含量との間には高い負の相関(r=-0.805)が認められ、被覆茶は全般に色相の絶対値が小さく、全窒素含量が多かった。
5.三重県の農耕地土壌に関する研究(第1報)・土壌の種類と理化学性について
米野泰滋・安田典夫・戸田鉱一・大森螢一
三重県の農耕地土壌の実態と、改善対策を明らかにするため調査を実施し、土壌の種類、分布理化学性等について検討した。
- 農耕地土壌も土壌統設定基準によって分類すると、12土壌群、33土壌統群、68土壌統に区分される。このうち、水田は5土壌群、18土壌統群、畑は11土壌群、20土壌統群であり、畑は面積は少ないが、土壌の種類は多様である。
- 土壌の種類別分布状況は、全農耕地のうち、灰色低地土39%、黄色土23%、グライ土21%、以下、黒ボク土、多湿黒ボク土の順である。水田は灰色低地土50%、グライ土27%、黄色土、多湿黒ボク土の順であり、畑は赤黄色土50%、黒ボク土27%、褐色低地土、その他は僅かづつである。
- 土壌の理化学性について、水田土壌では、粒径組成は、黒ボク土はシルト、赤黄色土は粘土含量が高く、低地土は平均して砂質である。pH置換酸度はおおむね良好で、置換性塩基、有効態燐酸なども下層まで高い。
畑土壌も、粒径組成は水田と同じ傾向を示すが、pH、その他の養分状態は、水田と異なり、第1層はほぼ適正な状態であるが、第2層は不良である。三相分布は、黒ボク土は固相が小さく、軽しょう、多湿、赤黄色土は固相が大きく、ち密、低地土は固相、気相ともに大で、水分含量は少なかった。 - 理化学性の相互関係については、水田、畑両土壌を通じ、シルト、粘土、腐植は、塩基置換容量、燐酸吸収係数と高い相関が認められた。また、畑土壌では土壌水分、孔隙率が、腐植、シルト、粘土と高い相関があり、土壌の生産力を表わす、自然肥沃度、養分状態が、粘土、腐植と極めて関係の大きいことが明らかとなった。
6.梱包サイレージの二次発酵に関する研究 ニ次発酵要因と添加剤の効果について
坂本登・辻久郎
イタリアンライグラスとローズグラスをロータリーモアで刈落し、目標水分になるまで予乾し、へイベーラによる梱包とバラで収穫した。
各作物は無添加と蟻酸、プロピオン酸ソーダ、ホルマリン、蟻酸+ホルマリン、塩酸を添加後バッグサイロに無脱気で詰込み、室内に放置した。添加量は現物当り蟻酸は0.3%、プロピオン酸ソーダは0.3%、ホルマリンは1%、蟻酸+ホルマリンは0.15+0.5%、2規定の塩酸は3%である。これらのサイレージについて、諸形質と二次発酵を調査し、次のような結果を得た。
- 水分含量が少なく、総酸が少なくpHの高い、VFA含量の少ないサイレージはど二次発酵が起りやすかった。
- 蟻酸やホルマリンはサイレージ発酵を抑制し、開封後の二次発酵を起りやすくした。
- プロピオン酸ソーダや塩酸は乳酸発酵を促進してサイレーシ品質を高め、その結果二次発酵が起りやすかった。
- 開封時にホルマリンを添加した場合、二次発酵抑制効果がある。
7.生グルテンフィードの乳牛への給与に関する研究
東原信幸・伊藤雄一・白山勝彦・横山勇
乳牛に対してグルテンフィードを粗飼料代替として、20kgまでの給与、15kgまでの給与、濃厚飼料代潜として17kgまでの給与試験を実施し、次のような結果を得た。
- 嗜好性と飼料摂取状況
嗜好性は概して良く、モイストタイプの飼料として好適である。飼料摂取量ほ採食率からみて、グルテンフィードの採食状態は長かったが、最高20kg給与区で食い止まりがみられた。乾物体重比は粗飼料代替給与において20kg給与区では2%と低下したが、濃厚飼料給与では2.8%以上となった。粗せんい摂取量および粗せんい率は、乾物休重比と同様、グルテンフィード給与により低下し、20kg給与区において2kg以下の摂取および下限とされる13%の粗せんい率となったが、濃厚飼料の代替ではそれぞれ3.0%以上、16%以上維持された。 - グルテンフィードの一般飼料成分は、原物で水分66%前後、粗蛋白質4.2%前後、可溶無窒素物26%前後、粗せんいは4.5%前後と、低蛋白質、低せんいで、可溶無窒素物の比較的高い飼料である、DCP2.7~3.6%、TDN28~32%と推算された。
- 乳量はグルテンフィードを粗飼料として給与した場合、増加の傾向もしくは配合飼料と同様の効果があることが伺えた。
- 乳質においても、粗飼料に代替した20kg給与により、乳脂率が・瘟コする傾向を示したことが確認された。SNF率には変化がなかった。
- 粗効率において各試験の飼料間による差はなく、平均して26~30%の範囲であった。
- 第一胃液の性状を第2回目の15kgまでの試験について検討したところ、VFA組成モル比において、酢酸はグルテンフィード給与区が低下の傾向があり、プロピオン酸は相対的に増加する傾向があった。A/P比も同様な傾向で、その値は各区間とも4.0以上であった。血清蛋白質において大きい変動はなかった。
- 健康状態を観察したところ、20kg給与区における食滞、下痢等以外の異常な症状はみられなかった。血清の膠質反応では異常なものはなかった。
8.糖蜜アルコール蒸留廃液と各種粕類の組合せ飼料による乳牛への給与に関する研究
東原信幸・伊藤雄一・白山勝彦・佐々木敏雄
糖密を原料としたアルコール蒸留廃液(MDCS)28.0~33.5%をグルテンフィード、コーンコブミール、みかんジュース粕等を主体とした各種粕類に吸着させた4種類の飼料を調製した。これらの飼料を分娩時期等の類似したホルスタイン種経産牛に対照の市販配合飼料と共に産乳飼料として給与し、そのし好性、泌乳、乳質および生理機能に及ばす影響を検討した。
- 供試飼料中、アルコール廃液を含有する試験飼料a、b、c、dについての成分分析は次のとおりである。
原物中粗蛋白質は飼料cが16%とやゝ高く、他は13~15%であったが、粗脂肪は約1%以上、可溶無窒素物は46%内外、粗繊椎は飼料aの5.1%を除いて7%以上であった。また水分が21~24%内外であり、セミモイストタイプの流通飼料として適しているものと思われる。その栄養価を算定したところ、乾物中飼料aはDCP16.6%、TDN76.0%、飼料bはDCP10.6%、TDN67.2%であった。また飼料cはDCP14.0%、TDN73.7%、飼料dはDCP13.7%、TDN72.7%であったが、飼料bはDCP、TDNとも低かった。 - 保存性はグルテンフィードに多量吸着させた飼料aは、堆積貯蔵による塊状化がみられたが、他の飼料は配合飼料との混和が容易であり、アルコール含有による防ばい的作用により長期貯蔵が可能であった。
- し好性については、糖密臭を有するため概して良好である。給与試験に入る前にアルコール廃液のし好性を明らかにするため、一定量を給与して摂取に要した時間を調査したところ、試験飼料c、dは対照飼料に較べそん色なく採食し、有意な差は認められなかった。
- 飼料摂取量を調査したところ、採食率において各試験飼料はDCP、TDNとも各区で変らず、また必要養分量に対する平均摂取率もDCP、TDNともほゞ満たされた。乾物体重比は飼料a給与実験において乾草の採食が悪く、平均2.3%であった以外は3.0%以上であった。また粗繊維摂取量は両試験とも3.0kg以上、粗繊維率は18%以上で維持された。
- 産乳性および乳質
乳用牛延12頭を供与し、4種類の飼料について3×3ラテン方格法により泌乳試験を行った。飼料a、b給与試験において対照の乳牛配合飼料の代替としてそれぞれ1.5kg、3kgを置き換えた結果、その量的給与による乳量FCM量、乳脂率、無脂固形分率、粗効率については差は認められなかった。
飼料c、d給与試験においては、配合飼料を対照飼料とし、飼料c、dを最高3.5kg代替して比較したが、飼料aおよびbと同様乳量、FCM量、乳脂率、無脂固形分率および粗効率について差は認められなかった。 - 健康状態および生理機能
し好性試験および本試験期間中において乳牛の健康状態、特に緩下的症状はみられず、繁殖生理も正常であった。ルーメン生理への影響を調査したところ、VFA産生は正常な範囲で行われており、その組成モル比は飼料a、b給与において酢酸5:プロピオン酸1:酪酸0.9、飼料c、d給与においてそれぞれが4:1:0.7といずれも酢酸濃度が高かった。
これらのように糖蜜アルコール発酵濃縮廃液(MDCS)を乾物換算で0.6kg程度吸着させた飼料は乳牛への悪影響は起らず、産乳飼料として価値あることがうかがえた。
9.肉豚飼料節減のための給餌法に関する研究
久松敬和・杉沢義民・和田健一
肉豚経営の飼料節減を図るため、飼料給与量に制限を加えて検討した。飼料の制限量は日本飼料標準の量を標準区とし、これの10%減量を10%減区、20%減量を20減区とし、対照区(自由摂取)と比較し、その発育、飼料の利用性、消化率、枝肉成績、内臓の重さ等に及ぼす影響について検討した。
- 発育を1日平均増体重で示すと対照区748g、標準区723g、10%減区681g、20%減区627gと飼料給与量の制限度合が高くなるほど発育は遅れ、従って、30kgから100kgまでの平均所要日数は96日、98日、105日、112日と長くなった。
- 飼料要求率は、対照区3.62、標準区3.47、10%滅区3.33、20%減区3.27と飼料給与量の制限度合の高くなるほど、発育とは逆に優れていた。TDN換算においても2.54、2.42、2.31、2.26と同じ順序で優れていた。
- 飼料の消化率は有機物換算で対照区80.31%、標準区81.23%、10%滅区81.65%、20%減区82.2と飼料要求率と同様に飼料給の制限の度合の高くなるほど優れていた。
- 脂肪の厚さは、10%減区までは飼料制限の影響は受けなかったが、20%減区から肩、背、腰とも薄くなった。また、冬期は夏期に比較して脂肪は薄くなった、勿論、雌豚が去勢豚より薄くなった。
- と体長は20%減区のみが他の区と比較して、雌豚・去勢豚とも長くなった。
ロースの断面積は冬期が夏期より太く、雌が去勢豚より太くなった。
ハムの割合も雌豚が去勢豚より多くなった。
枝肉審査得点は雌豚が去勢豚より優れていた。 - 胃の重さは、飼料の制限度合いが高くなるほど重くなった。
心臓の重さは、冬期が夏期より重くなった。 - 飼料の節減については、10%減区の粗利益が最も多く、次いで20%滅区であった。