表面欠点「切れ・割れ」の防止法
現在、文献に記載されている「切れ・割れ」の欠点防止法を左欄に示します。右欄には、当研究会で検討した結果として、その意味(科学的理由)を示します。
切れ・割れ:素地に割れ目が入ったもの
欠点防止法 | その意味(科学的理由) | |
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a.焼成の最高温度に達するまでの切れ、割れ | ||
1 | 素地中の可塑性原料の増加、あるいは減少 | 素地中の可塑性原料である粘土は、適量であれば素地の強度を高め、切れ・割れを防止するが、多すぎると、 乾燥・焼成収縮が大きくなるので、切れ・割れを生じやすい。 |
2 | 素地粒度の細粒化、あるいは粗粒化 | 素地の粒度が粗すぎる場合は、可塑性や乾燥強度が低下するため、切れ・割れを生じやすい。 また、素地の粒度が細かすぎる場合は、乾燥、焼成収縮が大きいため、切れ・割れを生じやすい。 |
3 | 成形時水分の減、あるいは増加 | 成形時の水分が多すぎる場合は、乾燥収縮が大きく、素地の密度も低いので、切れ・割れを生じやすい。 水分が少なすぎる場合は、成形きずができやすく、切れ・割れを生じやすい |
4 | 成形、仕上げ時の取扱い注意 | 成形、仕上げ時は素地の強度が低く、衝撃を加えやすいので、取り扱いに注意を要する。 |
5 | 成形品に対しての防風 | 風が当たると乾燥収縮が急速に進んだり、部分的に乾燥収縮が進むため、切れ・割れを生じやすい。 |
6 | 形状の変更 | 形状が複雑な場合、厚みが不均一な場合、鋭角な部分がある場合は乾燥、焼成収縮にずれが生じ、切れ・割れの原因となる。 |
7 | 均一乾燥化 | 乾燥を均一に行うことで、乾燥収縮も均一に起こり、切れ・割れを防止できる。 |
8 | 焼成の温度上昇の低速化 | 焼成の温度上昇を低速化することで、焼成収縮がゆっくりと進み、切れ・割れが生じにくくなる。 |
9 | さや鉢中の空間の増加 | さや鉢の中の空間を増やすことで、焼成の際に均一な温度上昇ができ、焼成収縮が均一になることで、切れ・割れが生じにくく なる。 |
10 | 器物の均一上昇(温度) | 焼成の際、器物の均一な温度上昇を行うことで、焼成収縮も均一になり、切れ・割れを防止できる。 |
b.冷却中の切れ・割れ | ||
1 | 素地の(特にケイ酸塩原料の)粗粒化、あるいは細粒化 | 素地中の石英が細かいとクリストバライトを生成しやすく、冷め割れを起こす原因となるので、石英を粗粒にして防止する。 また、石英が粗すぎると、石英粒の周りにマイクロクラックを生じ、焼成体の強度が低下して割れやすいので、適度に細かくする。 |
2 | 素地中のケイ酸分の減少 | 素地中のケイ酸分である石英はそれ自身、熱膨張が大きく、石英から転移したクリストバライトはさらに大きいので、 冷め割れを生じやすい。ケイ酸分を少なくすることでこれを防止できる。 |
3 | 焼成火度の低下、あるいは上昇 | クリストバライトが多く生成するとともに、焼き締まりが進んでいる場合は焼成火度を低下させて、クリストバライトの生成など
を抑え、冷め割れを防ぐ。 また、低火度の素地では、焼成火度を上げて、強度を大きくしたり、石英の溶解を進め、熱膨張を低下させて、 冷め割れを防ぐ。 |
4 | 釉の膨張係数の増加 | 釉の熱膨張係数が素地よりも大幅に低く、焼成体に大きな圧縮応力が加わって、冷め割れを起こす場合は、釉シリカ分を 減少させるなどして、釉の熱膨張係数を大きくし圧縮応力を低下させる。 |
5 | ケイ酸の変態点の温度降下の低速化 | ケイ酸の変態点(石英は573℃、クリストバライトは約220℃)付近でこれらの鉱物は急激に熱膨張係数が変化するため、 この温度付近をゆっくりと冷却して冷め割れを防ぐ。 |
6 | 形状の変更 | 冷却速度の不均一が生じにくく、応力がかかりにくい形状に変更して、冷め割れを防ぐ。 |
7 | 製品の取り扱い改善 | 製品の過度な重ねによる冷却速度の不均一や、窯出しなどで製品を急冷したりするなどの取り扱い上の改善をする。 |