表面欠点「貫入」の防止法
現在、文献に記載されている「貫入」の欠点防止法を左欄に示します。右欄には、当研究会で検討した結果として、その意味(科学的理由)を示します。
貫入:釉に入った割れ
欠点防止法 | その意味(科学的理由) | |
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a.陶器質の場合 | ||
1 | 素地中のケイ酸分を増加する | 素地中のケイ酸分である石英量を増加させることで、素地の熱膨張係数を釉より大きくし、貫入を防止する。 |
2 | 素地粒度を細かくする | 長石分の少ない素地では、石英粒が細かくなることでクリストバライトの生成が多くなり、素地の熱膨張係数を増加させて、
貫入を防ぐ。 逆に長石分の多い素地では、石英粒が細かくなることで溶解が進み、素地の熱膨張係数を低下させて、貫入が入りやすくなる。 |
3 | 締焼温度を高くする | 硬質陶器の場合、締焼温度を高くすることで、クリストバライトの生成が多くなったり、熱膨張を緩和していた素地中の 気孔が減少し、素地の熱膨張係数が増大するため、貫入が防止される。(素地中の石英の溶解が大きく進まないことが条件になる。) |
4 | 釉の熱膨張係数を小さくする | 釉中のシリカ、アルミナ分を増やしたり、塩基組成でイオン半径の小さいもの(マグネシウム、リチウムなど)を用いること により、釉の熱膨張係数を小さくする。 |
5 | 施釉量を減ずる | 施釉量を少なくして、釉にかかる応力を小さくすることにより、貫入を防止する。 |
6 | 釉焼、または本焼温度を高くする | 釉と素地との反応が進み、釉と素地との中間層が増大するとともに、釉と素地との熱膨張の差が小さくなり、 貫入が防止される。 |
7 | 釉の固化温度700℃ぐらいまでを急冷する | 急冷することで釉に圧縮応力がかかり、貫入が防止される。 |
8 | 水和膨張の少ない素地にする | 石灰分の添加などで素地中に灰長石を生成することで溶解(ガラス化)するのを阻止し、水和膨張を少なくし、 経年貫入を防止する。 |
9 | 素地中の長石分を減ずる | 素地中の長石分は、石英やクリストバライトを溶解して素地の熱膨張を低下させるため、長石分を少なくして 石英の溶解を少なくし、素地の熱膨張を高くする。 |
b.磁器質の場合 | ||
1 | 素地中ケイ酸分を増加する | 素地中のケイ酸分である石英量を増加させることで、素地の熱膨張係数を釉より大きくし、貫入を防止する。 |
2 | 素地粒度を粗くする | 素地粒度を粗くすることで石英の溶解量を少なくし、素地の熱膨張係数を高くして貫入を防止する。 |
3 | 釉の膨張係数を小さくする | 釉のシリカ、アルミナ分を増やしたり、塩基組成でイオン半径の小さいもの(マグネシウム、リチウムなど)を用いること により、釉の熱膨張係数を小さくする。 |
4 | 本焼温度を高くする | 釉と素地との反応が進み、釉と素地との中間層が増大するとともに、釉と素地との熱膨張の差が小さくなる。 ただし、素地中の石英分が溶融することで、熱膨張係数が低くなり、貫入が進むことがある。 |
5 | 700℃ぐらいまでを急冷する | 釉のガラス転移点付近まで急冷することで釉に圧縮応力がかかり、貫入が防止される。 |
6 | 施釉量を減ずる | 施釉量を少なくして、釉にかかる応力を小さくすることにより、貫入を防止する。 |
その他 | 上絵付焼成時に釉がクリストバライトに再結晶化し、貫入が生じることがある |