平成28年度三重県保健環境研究所調査研究評価委員会(衛生分野)
研究課題の目的
事前評価
従来型の塩素系薬剤に阻害要因を有する浴用水の衛生管理方法の最適化
平成14年7月に宮崎県の循環式温泉入浴施設で発生した、国内最大級のレジオネラ集団感染事例(感染者295名、死亡者7名)を例に挙げるまでもなく、レジオネラ症の主要な感染経路に公衆浴場が挙げられる。レジオネラ症は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)に基づく届出数が年々増加し、現在は全国で年間1,500件を超えるまでになっている。レジオネラ肺炎にかかると、悪寒、高熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛、呼吸困難などが現れ、腹痛、意識障害等を伴う場合もあり、特に高齢者等のハイリスクグループでは重症化し、死亡することもある。
厚生労働省は、公衆浴場等の衛生管理について「公衆浴場における衛生等管理要領等の改正について」(厚生労働省健康局長通知 平成15年2月14日付け健発第0214004号)、「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル(以下、レジオネラ症防止対策マニュアル)」(厚生労働省健康局生活衛生課長通知 平成27年3月31日付け健衛発0331第7号)を発出し、注意喚起を図っている。三重県では公衆浴場法に準じた、三重県公衆浴場法施行条例および三重県公衆浴場施行細則、あるいは旅館業法、三重県旅館業法施行条例による規制が行われている。これらの関連法規等では、浴槽水の水質については「レジオネラ属菌は検出されないこと(10CFU/100mL未満)」という基準が設定されている。浴槽水の消毒に当たってはレジオネラ防止対策マニュアル等を受けて、通常従来型の塩素系薬剤を使用し、遊離残留塩素濃度を通常0.2~0.4mg/Lに保ち、最大1.0mg/Lを超えないよう指導されている。
ただし、次亜塩素酸ナトリウムに代表される従来型の塩素系薬剤は、アルカリ性単純温泉等の高アルカリの温泉を原湯とする施設で用いる場合、殺菌力が大きく低下することが知られている(野知, 2006)。三重県の温泉はアルカリ性の温泉が多く、pH8~9が最頻値であることから(冨森ら, 1983)、これらを原湯として利用する公衆浴場では、本来の消毒効果が減弱している可能性がある。
レジオネラ症防止対策マニュアルでは、従来型の塩素系薬剤のほかに、アルカリ性の原湯の使用が可能なモノクロラミン消毒等が例示されている。モノクロラミン消毒は、国立研究機関や静岡県環境衛生科学研究所等による先行的な研究が行われており、その成果を受けて、静岡市が全国に先駆けて、静岡市公衆浴場法施行条例(平成25年4月1日施行)において、モノクロラミン消毒の条例化が行われた。これらの背景から、本研究は、三重県の地域性を考慮して、高アルカリ等の従来型の塩素系薬剤の阻害要因を有する浴用水に対して、最適な衛生管理方法の実験的な検討を試み、それらの情報発信と成果普及を通じて、生活衛生営業施設の自主的な衛生管理の推進と、県民の健康被害の未然防止に資するものである。
中間評価
地域の温泉資源等を活用した心身の健康感の向上に関する研究
温泉資源に代表される地域資源を活用した健康づくり活動に対し、それらの実施主体である市町等と連携し、当該の健康づくり活動の有効性を科学的に評価し、その結果を連携先や県民にフィードバックすることにより、健康意識の高まりや地域の健康づくり活動を促進し、心身の健康感や幸福実感の向上に寄与する。
事後評価
特定健診に基づく三重県の健康状況“見える化ツール”の開発
生活習慣病予防は、三重の健康づくり基本計画の全体目標である「健康寿命の延伸」に直結する重要な課題であり、市町や医療保険者などとの連携により、特定健康診査・保健指導(以下、「特定健診」とする)の受診率の向上と地域の健康増進のための様々な取り組みが進められているところである。本県の平均寿命は男女とも延伸傾向がみられるが、高齢化の進行や運動量の減少、食生活の乱れなどにより、生活習慣病有病者・予備群が今後増加する懸念が指摘されている。健康寿命の延伸には、県民の健康状況を継続監視することにより適切な地域健康課題を把握していくことが不可欠であり、市町が有する特定健診データの集約が必要となる。本研究において、特定健診に基づく生活習慣病関連項目を中心に、健康づくり関連情報のデータベースの充実・分析を図るべく、市町にデータ提供等の協力依頼を行い、データの可視化をサポートする「三重県の健康状況“見える化”ツール」を作成することにより、三重の健康づくり基本計画の進捗管理のみならず、市町や医療保険者等におけるデータ処理の負担軽減に貢献することを目指す。
腸炎ビブリオの定量法と病原因子検出法の評価に関する研究
腸炎ビブリオ感染のリスクを低下させるためには、病原因子(TDH 陽性株およびTRH 陽性株)をもつ腸炎
ビブリオの自然界および生鮮魚介類における分布データの収集が必要と考えられている。そのためには簡便かつ効果的な検査法の確立が不可欠である。今回の研究では、分離培地に改良を加えることにより、簡便に定量が行えないかの検討を行う。また、病原因子遺伝子の検出について、現在行われている方法について比較評価を行うことにより、効果的な病原因子の検出法を確立することをめざす。
飲料水・食品中の有機物質(農薬等)の迅速検査法に関する研究
飲料水・食品中の農薬等の有機物質迅速検査法を確立することにより、健康危機発生時において農薬等の混入の恐れがある場合、膨大な種類の有機物質の中から原因物質を早期に特定し、迅速に検査結果を関係行政機関に提供し、県民の食の安全・安心の確保に貢献することを目的とする。