平成29年度三重県保健環境研究所調査研究評価委員会(環境分野)
研究課題の目的
事前評価
汚泥肥料の利用における安全性確認に係る基礎的調査・研究
三重県は、資源循環型社会の構築を目指し、産業廃棄物の発生抑制など、3Rの推進を行ってきた。産業廃棄物の中でも下水汚泥は、下水道普及率が年々増加してきていることから、今後、発生量が増えていくことが予想されるもののひとつである。下水汚泥のリサイクル方法としては、燃料化、建材資材、緑農地利用などがあげられる。下水汚泥はリン資源としての有機性廃棄物として注目されていることから、汚泥肥料としての緑農地利用が推進されており、緑農地利用としてのリサイクル率は増加してきている現状である。肥料の品質は肥料取締法によって規定されており、汚泥肥料には、下水処理施設に流入する汚水などに由来する有害成分が含まれている可能性があることから、重金属類の含有量が規制されている。しかし、肥料取締法では、重金属類の含有量は植物にとっての有害成分の許容含有最大量として定められており、土壌環境基準の観点とは異なるものであるため、肥料取締法に適合する汚泥肥料であっても、土壌汚染を招く有害成分を含有している可能性がある。また、有害成分の含有量が微量であっても、連続施用によって、有害成分が農用地土壌に蓄積することが懸念される。
そこで、廃棄物の適正処理及び安全・安心なリサイクルを推進するために、汚泥肥料の有害成分の土壌中における挙動に関する基礎的な調査研究を実施し、汚泥肥料の安全性などを明確にすることを目的とする。
PRTRデータを活用した有害大気汚染物質モニタリング調査の全県域的評価に関する調査研究
平成8年5月に大気汚染防止法が改正され、低濃度ではあるが長期曝露によって人の健康を損なうおそれのある有害大気汚染物質の対策について制度化され、有害性の程度や大気環境の状況等により健康リスクがある程度高いと考えられる22(現在は23)の「優先取組物質」が地方公共団体(都道府県及び大気汚染防止法の政令市)においてモニタリング調査が行われるようになり、当県でも平成9年10月から調査を実施している。
同調査の事務処理要領および有害大気汚染物質モニタリング地点選定ガイドラインでは、人口や汚染物質の排出量の変化等により、地点を見直すことが明記されている。同一地点でモニタリング調査を継続することは、経年変化を確認するために重要であるが、当県では、平成17年に見直しして以降、10年以上、見直しを実施していないため、現在の汚染物質の排出量等の実状に合っていない可能性がある。そこで、有害大気汚染物質の状況を正しく評価するために、各地域における汚染物質の排出量とモニタリング調査結果の比較の検証および県内における有害大気汚染物質の広域的な調査を行い、通常時における状況をデータとして蓄積し、最適な調査地点を決定する。
調査研究課題名:光化学オキシダントの挙動における窒素酸化物の影響に関する研究
全国的にも環境基準達成率が非常に低い光化学オキシダントは、県内では大気汚染常時監視測定局の一般環境測定局24局で測定を行っているが、これまで環境基準を達成している測定局はない。
また、窒素酸化物は自動車排ガスに多く含まれ、光化学オキシダントの生成と消滅に深くかかわっている。しかし、県内の自動車排ガス測定局(自排局)8局では光化学オキシダントの測定を行っておらず、光化学オキシダント濃度と窒素酸化物との詳細な関連性の解明はまだまだ不十分である。
窒素酸化物は光化学オキシダントの挙動において重要な要素であることから、本研究では、窒素酸化物と光化学オキシダントの主成分であるオゾンを同時に測定することで、それらの関連から光化学オキシダントの挙動について明らかにすることを目的とする。
中間評価
廃棄物溶出試験における重金属類測定手法の確立に関する研究
資源循環研究課では、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45 年12 月25日)に基づく行政検査として産業廃棄物(以後「産廃」という。)の溶出試験を行う際、「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法」(昭和48年2月17日「環境庁告示第13号」)により実施している。
産廃とは、事業活動において発生した不要物の総称であるが、一口に産廃といっても、燃え殻、汚泥、廃プラスチック等20品目に渡る種類があり、かつ発生する状況を考慮すれば同一の性状は存在しないと言って良い。また、産廃の中には、有害・無害を問わず様々な物質が高濃度で含まれている場合も多く、産廃の試験をする際は、その都度それぞれの性状に応じた適切な前処理が必要となる。したがって、産廃溶出試験は、前処理や測定装置に関する知識や技術、そして経験を要し、時間や手間がかかる測定法である。そこで本研究では、産廃の重金属等の測定について、できるだけ多様な産廃に適用可能な測定方法を確立することを目的とする。
大気中のオゾンとホルムアルデヒド、アセトアルデヒドの挙動に関する研究
光化学オキシダントの主成分であるオゾンの測定法を確立し、オゾンと同様に光化学反応で2次生成されると考えられるホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドとの挙動について明らかにする。
ジカルボン酸類を利用した微小粒子状物質(PM2.5)の発生源寄与解析に関する研究
近年、大気中の有機化合物であるジカルボン酸類が、燃焼物の指標として注目されつつある。本調査研究では、まず大気中のジカルボン酸類の実態を把握するため、PM2.5等、大気中粒子状物質に含まれるジカルボン酸類の分析法を検討する。また、当所では、これまでに、陰イオン、金属類等を指標として、PM2.5の発生源等の解析を試みてきている。本調査研究では、陰イオン等の項目に、ジカルボン酸類を追加することで、PM2.5の発生源寄与、高濃度予測等の解析精度の向上を目的とする。
事後評価
工場・事業場排水におけるBODの簡便な推定法の開発
三重県では、水質汚濁防止法に基づき、工場・事業場排水の水質監視を行っている。監視項目の中で生物化学的酸素消費量(BOD)は、有機汚濁指標として最も基本的な項目であり、資源循環研究課では年間約150検体の工場・事業場排水の分析を行っている。しかしながら、BODの測定には5日間と時間がかかる上、作業が煩雑で、熟練を要するという問題点がある。
BODの前処理操作において、好気性微生物による5日間の溶存酸素の消費量が、0日目の溶存酸素量の40~70%の範囲となるようにあらかじめ試料を希釈しておくことがJISに明記されている。当課では、当該希釈倍率を、過去の測定結果や化学的酸素消費量(COD)の実測値等を参考にして決定している。BODとCODは相関がある場合もあるが、CODは酸化剤を用いた化学反応による酸素消費量であるのに対し、BODは微生物分解による酸素消費量であるという違いがあるため、試料によってはCODからBODを推測することが困難な場合も多い。適切な希釈倍率の見当がつかない場合は、酸素消費量をJISに規定する適正範囲内となるように多数の希釈倍率の検体を用意しなければならず、労力も時間も掛かっているのが現状である。
そこで、本研究においては、易分解性有機物に着目し、これを簡易に定量する方法を用いてBODとの相関性を調べることによって、BODを簡易かつ精度良く推測する方法を開発することを目的とする。