平成25年度三重県保健環境研究所調査研究評価委員会(衛生分野)
研究課題の概要
事前評価
特定健診に基づく三重県の健康状況“見える化”ツールの開発
生活習慣病予防は、三重の健康づくり基本計画の全体目標である「健康寿命の延伸」に直結する重要な課題であり、市町や医療保険者などとの連携により、特定健康診査・保健指導(以下、「特定健診」とする)の受診率の向上を始めとする地域の健康増進のための様々な取り組みが進められているところである。本県の平均寿命は男女とも延伸傾向がみられるが、高齢化の進行や運動量の減少、食生活の乱れなどにより、生活習慣病有病者・予備群が今後増加する懸念が指摘されている。健康寿命の延伸には、県民の健康状況を継続監視することにより適切に地域健康課題を把握していくことが不可欠で、このためには市町が有する特定健診データの集約が必要となる。本研究において、特定健診に基づく生活習慣病関連項目を中心に、健康づくり関連情報のデータベースの充実を図るべく、市町にデータ提供等の協力依頼を行い、データの可視化をサポートする「三重県の健康状況“見える化”ツール」を作成することにより、三重の健康づくり基本計画の進捗管理ならびに、市町や医療保険者等におけるデータ分析の負担軽減に貢献することを目指す。
腸炎ビブリオの定量法と病原因子検出法の評価に関する研究
腸炎ビブリオを原因物質とする食中毒は激減しているが、食中毒減少の理由が不明確であること、また、現在の統計では散発性下痢症が計上されにくいため、実際には腸炎ビブリオによる食中毒患者数は大幅に多い可能性が示唆されており、腸炎ビブリオ感染のリスクを低下させるためには、病原因子(tdh 陽性株およびtrh 陽性株)をもつ腸炎ビブリオの自然界および生鮮魚介類における分布データの収集が必要と考えられている。そのためには簡便かつ効果的な検査法の確立が不可欠である。
今回の研究では、分離培地に改良を加えることにより、簡便に定量が行えないかの検討を行う。また、病原因子遺伝子の検出について、現在行われているPCR法と新たなLAMP法について比較評価を行うことにより、効果的な病原因子の検出法を確立することを目指す。
地域の温泉資源等を活用した心身の健康感の向上に関する研究
「三重の健康づくり基本計画」(平成25~34年度)では、「健康寿命の延伸」と「幸福実感を高めるための心身の健康感の向上」の2点を全体目標に掲げている。また、同計画の推進にあたっては、各地域で培われた絆や信頼関係等で構成される「ソーシャルキャピタル」の活用が重要であり、その上での「健康づくりのための社会環境づくりの推進」が必要であると明記されている。
温泉に代表される地域資源は、伝統的にその地に根差したものであることから、ソーシャルキャピタルの特徴を有する社会組織(高齢者クラブ、自治会等)との親和性が高い。また、温泉を用いた健康づくりは、特に高齢者からのニーズが極めて高く、ストレスの軽減を期待できることから、県内外で数多くの有効活用事例が存在する。
そこで、温泉資源に代表される地域資源を活用した健康づくり活動に対し、それらの活動の実施主体である市町等と連携し、健康関連QOLの包括的尺度を用いた評価や、温泉成分等の理化学的分析により、当該の健康づくり活動の有効性や妥当性を科学的に検証する。その結果を連携先の実施主体や県民にフィードバックすることにより、健康意識の高まりや地域の健康づくり活動を促進し、ひいては、心身の健康感や幸福実感の向上および健康な社会環境づくりの推進の一助となることを、本事業の目的とする。
中間評価
三重県におけるリケッチア感染症に関する研究
日本紅斑熱は、感染症法により4類感染症に指定されているダニ媒介性のリケッチア感染症です。三重県においては県南部に原因となるリケッチア保有ダニの存在が推定されているものの、県下全域における実態はわかっていません。また、日本紅斑熱の市販検査キット等は存在しておらず、検査は当所や国立感染症研究所等に限られるため実態把握が困難となっています。そこで、三重県下において、リケッチア保有ダニの分布調査を実施し、地域における日本紅斑熱発生リスク評価を行い、県民への注意喚起の科学的根拠とします。また、検査診断を容易に実施可能とするため、検査キットの理論構築および開発を目指します。
無承認無許可医薬品等の網羅的試験法の開発
近年、セルフメディケーションの考え方が浸透し、健康や美容に対する関心が高まるとともに、多種多様ないわゆる健康食品がインターネットやドラッグストア等で手軽に購入できるようになった。しかし、これらのいわゆる健康食品の中には衛生管理や安全・品質管理が徹底されていない製品もあり、なかには健康に悪影響を及ぼす危険性のある製品もある。特に医薬品成分やその類似化合物が配合されている製品(無承認無許可医薬品等)の摘発事例が後を絶たず、医薬品に匹敵する薬効や未知の生理活性(副作用)により重篤な健康被害が発生している事例がある。このため、健康被害の未然防止の観点から、無承認無許可医薬品等の健康危害成分と製品に添加されることが考えられる保存料や甘味料等の健康危害成分の測定妨害成分に成りえる添加剤の一斉分析法及び一斉分析法では分析が難しい成分においては個別分析法等で対応する網羅的で迅速な検査体制の整備が求められている。
そこで、本研究事業では当研究所の保有機器に即し、これまで確立した麻黄・エフェドリン、甲状腺末及び強壮薬(化学合成品)の成分を網羅し、さらに検出事例の多い無承認無許可医薬品等の健康危害成分(糖尿病治療薬、局所麻酔薬、消炎鎮痛薬、副腎皮質ホルモン等)と添加剤を対象とした一斉分析法を開発し、検査体制を確立する。それにより違反発見時や健康被害発生時のような緊急事態における迅速な対応、買い上げ調査のような平時における行政検査へ適用することを目指す。
また、健康危害成分の試験法開発事例を増やし、現在流通しているいわゆる健康食品の実態を明らかにする。得られた情報を内外に発信し、いわゆる健康食品に潜む危険性を情報提供及び普及啓発することにより、違反製品販売の抑止、健康被害の未然・拡大防止を図ることができ、医薬品等の安全性の確保に科学的な面から貢献することが可能となる。
新たな性感染症サーベランス確立に向けた先駆的研究
平成19年度から3年間をかけて実施した「性感染症予防推進戦略的サーベイランス研究事業」により、現在の感染症法に基づく性感染症サーベイランスでは、地域の正確な患者発生動向が把握できないことが明らかとなった。サーベイランスは、性感染症の発生・まん延の状況を明らかにするとともに、防止対策に必要となる科学的根拠を提供する手段として重要であり、現在の患者発生状況を考慮すると、特に若年層を中心とした発生動向を正確に把握できる仕組みに改善する必要がある。
上記事業の成果に加え、平成22年度事業「エイズ対策に向けたパートナー検診の推進に関する調査研究」により実施する、県内において性感染症患者を診察する可能性のある医療機関を対象としたアンケートの結果等も踏まえ、全国の取組に先駆けて、現状のシステムより有効に機能する性感染症サーベイランスシステムの構築を目指す。
健康づくり支援のための温泉資源の活用と保全に関する研究
高齢者医療や介護に対する社会的需要が高まる中、地域の健康づくり施策が重要な行政課題として位置付けられている。これらの背景から、温泉資源を有効活用し、これらの健康づくりへの利用に貢献することを目指す。具体的には、本研究事業は温泉資源の「活用」の観点からの健康科学的アプローチによる研究と、温泉資源の「保全」の観点からの資源工学的アプローチによる研究をそれぞれ並行的に進めている。これらの研究により、健康科学的な利用に活用可能な知見や、温泉資源の地域的賦存分布に係る知見を収集することによって、県民の健康づくりや温泉資源の保全の推進を図ることを目的とする。
事後評価
健康危機発生時における化学物質迅速検査マニュアル策定検討調査
化学物質迅速検査マニュアルを策定することにより、健康危機発生時において、提供された情報を基に、膨大な数の化学物質から原因物質を特定し、迅速かつ精確な検査結果を提供するとともに、検査の可能な項目、検査に要するおおよその時間を明確にすることにより、関係公衆衛生行政機関のニーズに的確に応えることを目的とする。