平成24年度三重県保健環境研究所調査研究評価委員会(環境分野)
研究課題の概要
事前評価
環境修復地内での有害物質分解菌の探索
環境汚染地では様々な有害物質が問題となっている。三重県内にある桑名市五反田地内の環境汚染地は、地下水汚染による周辺住民への健康被害が懸念される中、原因者による修復が不可能であったため、行政による浄化対策が行われている現場である。当現場の有害物質は主に揮発性有機化合物や1,4-ジオキサンであり、揮発性有機化合物については、現在も汚染が残るものの揚水浄化や廃棄物の部分撤去により浄化対策が進んでいるのに対し、平成21年度から新たに地下水の水質汚濁に係る環境基準に加わった1,4-ジオキサンの浄化作業については、既存施設では浄化対策が不可能であったため、平成24年度から地下水揚水を行い、促進酸化法により浄化対策中である。
また、揮発性有機化合物については、当現場及び周辺の地下水から分解菌が見つかっており、微生物分解による浄化作用がわかっているが、1,4-ジオキサン分解菌については、未だ見つかっていない。そのため、1,4-ジオキサンにより汚染されている当現場から分解菌を探索し、単離した菌の分解能力や優良条件を検証することで、新たな知見の集積をはかり、周辺住民の生活環境を改善する現場修復対策への貢献を目的とする。
工場排水の六価クロム測定手法の確立に関する研究(水質経常)
資源循環研究課では、水質汚濁防止法に係る行政検査として工場・事業場排水等の測定をする際、公定法(告示法)により測定を実施している。測定対象項目は、大別して「人の健康に係る項目(有害物質)」と「生活環境に係る項目(一般項目)」があるが、有害物質の中でも、特に六価クロムにおいては、測定方法が妨害物質の影響を受けやすく、排水の性状によっては通常の操作では測定が困難な場合があり、また、告示に詳細な操作の記載がないため、その都度、手順について検討・判断しなければならないのが現状である。そこで本研究では、六価クロムの測定について、詳細な手順の記載がない箇所の操作手順を明確化すること及び測定が困難な場合の分析方法の確立を目的とする。
中間評価
産業廃棄物不法投棄現場の環境修復に関する研究
三重県桑名市の不法投棄によるVOC汚染環境修復サイトでは、平成13年からの行政代執行による鉛直遮水壁の設置、地下水の揚水循環の措置により汚染地下水の拡散防止・浄化が図られてきた。今後、当該地の恒久的な浄化促進対策を行うことが課題となっているが、迅速で安価なVOC残存量調査・評価方法及び短期間で安価に確実に浄化できる技術が必要となっている。
本研究では、①ボーリングによる試料採取・化学分析によらない簡易迅速で安価なVOC残存量調査技術を開発すると共に、汚染残留箇所での確実な浄化技術が必要となることから、②従来にはない、低温加熱によるpH中性領域での処理を特徴としたVOC除去技術の開発を行う。また、VOC等汚染地下水が拡散した周辺地域の安定化を評価するため、微生物叢の解析を行い、地下水水質調査結果と比較検討することで、③細菌叢調査を取り入れた新たな安定化評価手法を確立することを目的とする。
有害化学物質による土壌汚染の自然・人為由来推定に関する研究(水質経常)
○土壌汚染対策行政支援について
県条例により土壌中の有害物質濃度が条例基準(土壌汚染対策法(土対法)指定基準と同じ)を超過していることを発見した場合は、発見者に対し県への届出を義務付けている(平成16年施行)。また、平成22年の土対法改正により、土壌汚染が発見される機会が増加した。平成23年の土対法施行規則の改正により、自然由来による基準不適合の場合、人為由来の場合よりも規制緩和が行われた。一方、基準不適合が自然由来か人為由来かによって、行政やその土地の所有者の事案に対するその後の対応(リスクコミュニケーションを含む)も異なってくる。したがって、基準不適合原因の由来の判断は重要である。行政は由来の判断を適正に行う必要がある。このことから、行政から当研究所へ由来判断の支援要請があった。
(1)既存情報のデータベース化
由来判断の参考となる、容易に利用可能な土壌汚染関連情報が少ないことや、改正土対法で、行政による情報の収集、整理、保存、提供等の努力義務を規定していることから、行政が利用し易いデータベースの仕組みの構築を行い、行政に提供し支援する。
(2)有害物質による土壌汚染の由来推定方法の開発
自然由来による有害物質のバックグランド値が高い土壌では、基準不適合原因の由来を判別することは一般的に多大な労力と時間及び費用を必要とする。また、由来判別の方法も定まったものはない。そこで、由来の判断を科学的かつ、容易に判別する方法を開発する。
事後評価
大気環境中微小粒子状物質(PM2.5)の実態調査研究
大気中微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準が平成21年9月9日に告示され、PM2.5濃度の標準測定法は米国の連邦標準測定法(FRM法)に準じた重量法による一日平均値とされた。
これまで、当研究所では環境大気中の微小粒子について、その発生源の推定に活用できる微量成分濃度を把握するため2週間間隔での調査を実施してきたが、2週間間隔の採取で得られたPM2.5濃度平均値は標準法の一日平均値と単純に比較できないことが知られている。
そこで、本研究では、簡易採取法と標準法による併行採取を行い、標準法で得られる測定値と簡易採取法の平均濃度等との関連を調査する。
調査の結果得られたデータおよび、これまでの実態調査結果を活用し、県内のPM2.5濃度を長期的かつ広域的に把握し、汚染の要因や変遷を解析し、大気環境の保全の推進に寄与することを目的とする。
工場等から排出される揮発性有機化合物(VOC)分析法に関する研究(大気経常)
平成16年5月、大気汚染防止法の改正によりVOCに係る排出規制が導入されたが、既設のVOC排出施設については平成22年3月末まで排出基準の適用が猶予されていた。本研究では、今後増加すると予想される行政ニーズに対応するため、現時点では実施していないVOC測定に関して検査体制を確立する。
また、行政検査を通じて県内の工場・事業場におけるVOC排出実態を把握することにより、一般環境大気汚染への影響評価の基礎資料とする。