3.年間の茶園管理ビジョン
3.土壌管理
茶園における土壌管理はおもに施肥管理が中心となりますが、これまでは窒素施肥に偏った設計が多くみられました。しかし、茶園における年間窒素施肥設計の考え方としては、年間の生葉収穫により茶園外へ持ち出される窒素相当分を毎年補給していく考え方が基本とされています。それによると、茶園における年間窒素吸収量は52~57キログラムといわれ、そのうちの約40%あまりは収穫された新芽、それと同量が整枝や落葉により茶園に還元され、残り10%あまりは茶樹に蓄積されるとしています。
また、年間施用窒素量10アールあたり60キログラムの場合その吸収率は40%前後で約24キログラム、残りの30キログラム程度は前年までの施肥窒素や整枝葉等の有機物から出てくる土壌窒素が吸収されていることが明らかになっています。このことから施用した肥料や整枝・落葉の循環による土壌窒素のウエイトも相当高いことがわかります。環境に配慮した茶栽培を行っていくためには、施肥窒素の吸収率をできるだけ高め、窒素の循環を最大限に活用し、余分な窒素が地下に流れ出す量を最少限にくい止める考え方が重要です。
一方、茶樹による窒素の年間吸収量の推移については、気温の高い夏場に最も多く吸収し、次いで着葉量の多い秋期、そして春期の順で、気温の低い冬期はごく少ないと考えられています。また、一・二番茶の品質を高める上で、春期の窒素施用はその寄与が大きく、重要であるとも言われています。
また、収穫との関連では新芽の摘採直後から次の新芽生産のために窒素吸収が活発になり、その後次の新芽開葉につれて吸収は低下し、次の摘採10日前ではほとんど吸収されないことも明らかにされています。こうしたことから摘採後はなるべく早く窒素が利用できるかたちにしておくことが望ましいとされています。
こうしたことを十分勘案して年間の施肥配分(春、夏、秋)を考えていく必要があります。
図 茶樹が吸収した窒素の行方と一番茶摘採後の窒素吸収量推移(保科1985より編) |
<年間施肥体系の例>
三重県の茶園への施肥基準では年間窒素成分施用量で10アールあたり55キログラム(煎茶:標準収量10アールあたり1600キログラム)となっていますが、この場合吸収率が33月5日%として試算されています。環境への負荷を低くするためには、この吸収率をできるだけ高める工夫が大切です。その究極の発想が液肥による養液土耕的な方法ですが、現在研究が進められている段階ですので、ここでは煎茶の体系を中心にこれまでの施肥法で効率的と考えられる体系について模索してみましょう。
体系例1.分施をこまめに行う体系(一般的な肥料を用いた体系)
これまで明らかにされていることを勘案して、茶樹の吸収が旺盛な時期に応じて窒素を与えていこうとすると、下表のような比較的安価な資材をこまめに施用していく体系が考えられます。
例)年間施用体系の例(煎茶栽培)
体系例1こまめに施用体系
時期 | 肥料の種類 | 成分量 (%) |
10アールあたり施用量 (キログラム) |
施用成分量 (10アールあたりキログラム) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
N | P | K | N | P | K | |||
3月上旬 | 有機配合 | 8 | 5 | 5 | 120 | 9.6 | 6.0 | 6.0 |
3月中旬 | 菜種油粕 | 5 | 2 | 1 | 100 | 5.0 | 2.0 | 1.0 |
4月上旬 (萌芽直前) |
普通化成 | 12 | 5 | 6 | 40 | 4.8 | 2.0 | 2.4 |
5月中旬 (一茶直後) |
硫安 | 21 | 0 | 0 | 40 | 8.4 | 0.0 | 0.0 |
7月上旬 (二茶直後) |
NK化成 | 16 | 0 | 16 | 50 | 8.0 | 0.0 | 8.0 |
8月中旬 | 普通化成 | 12 | 5 | 6 | 40 | 4.8 | 2.0 | 2.4 |
8月下旬 | 菜種油粕 | 5 | 2 | 1 | 100 | 5.0 | 2.0 | 1.0 |
9月中旬 | 有機配合 | 7 | 6 | 5 | 120 | 8.4 | 7.2 | 6.0 |
年間 | 54.0 | 21.2 | 26.8 |
体系例2.肥効調節型肥料を用いた省力型体系(大規模経営向き)
春・秋の有機質肥料とあわせて、降水量の多い夏場に肥料成分の流亡を抑えるため、肥効調節型肥料(被覆尿素)を用い、地温の低い時期は速効性化成肥料で補っていこうとする考え方に立って下表のような体系も考えられます。
例)年間施用体系の例(煎茶栽培)
体系例2省力型(肥効調節型活用)
時期 | 肥料の種類 | 成分量 (%) |
10アールあたり施用量 (キログラム) |
施用成分量 (10アールあたりキログラム) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
窒素 | リン | カリウム | 窒素 | リン | カリウム | |||
3月上旬 | 有機配合 | 7 | 6 | 5 | 120 | 8.4 | 7.2 | 6.0 |
3月中旬 | 被覆尿素(70日) | 41 | 0 | 0 | 40 | 16.4 | 0.0 | 0.0 |
4月上旬 (萌芽直前) |
硝化抑制剤入化成 | 12 | 3 | 5 | 40 | 4.8 | 1.2 | 2.0 |
4月下旬 (一茶直前) |
被覆尿素(100日) | 41 | 0 | 0 | 40 | 16.4 | 0.0 | 0.0 |
7月下旬 | PK化成 | 0 | 15 | 15 | 40 | 0.0 | 6.0 | 6.0 |
8月下旬 | 有機配合 | 7 | 6 | 5 | 120 | 8.4 | 7.2 | 6.0 |
年間 | 54.4 | 21.6 | 20.0 |
図 体系例2の施肥シミュレーションソフトによる期間別推定窒素発現量
その他にも様々な考え方に立っていろんな体系が考えられますが、本冊子では以上のような体系を基軸に記述していきたいと思います。