第5回
前回までに、期首貸借対照表を作成し、勘定科目を設定しました。ここまでで、「ずいぶん面倒なことをしなければ・・・」と思われたかたも多いでしょう。でも安心してください。ここまで来れば、複式簿記の「峠」は越えたも同然です。
なぜかというと、
「期首貸借対照表を作成した」 =「記帳を始めるときの経営の財政状態を整理し把握出来た。」
「勘定科目を設定した」 =「経営の財政状態を変化させる出来事をどんな項目で記録していくかを決めた。」
ということです。後は、日々の経営の財政状態を変化させる出来事、これを「簿記上の取引」といいますが、これを「勘定科目に分けて記録し、集計する」という単純作業の繰り返しが「記帳する」ことになる訳です。
簿記上の取引とは
日常生活でも「取引」という言葉は使いますが、「簿記上の取引」つまり、帳簿に記録をしなければならない取引と「世間一般でいう取引」とは、違う場合もありますので、少し説明します。
「簿記上の取引」とは財産、資本に変化を与えるすべての出来事をいいます。すなわち、資産、負債・資本の増減変化です。費用、収益の発生も資本を変化させることになるので、当然「簿記上の取引」になります。
資産・負債・資本・費用・収益のどれかが変化したら「簿記上の取引」と覚えればよいでしょう。
ほとんど同じだが、違う場合もあるので注意
例えば、
例1 農業機械を購入するのに売買契約書に印鑑を押した。
世間一般でいえば、契約が成立し「取引」を行ったことになります。しかし、簿記の世界では、印鑑を押した段階では、「農業機械」も手元に届いていませんし、「請求書」も届いていません。当然現金や預金で支払いもしていません。つまり、農業経営に関係する資産(この場合は機械器具、現金、預金等)に何も変化がありませんので、「簿記上の取引」にはなりません。従って、簿記上は記録する必要がありません。実際に農機が届いた、請求書が届いた、という段階になって初めて簿記上の取引となります。
例2 火災によって倉庫・機械等が燃えてしまった。現金を盗まれた、落とした。
世間一般でこれを取引とは絶対呼びませんが、簿記上では、倉庫や機械、現金という資産が減ることになるので、立派な「簿記上の取引」となります。
今回は「簿記上の取引」について説明しました。この日々発生する「簿記上の取引」を一定のルールに従って記録していくのが、普段の記帳作業ということになります。 次回は、このルールである「仕訳」について説明します。
コラム:レベルアップ
実際記帳する際には、あまり関係ないですが、簿記の教科書では、「簿記上の取引」を次のように分類しています。
取引の種類
(1)交換取引
貸借対照表に属する資産、負債・資本のそれぞれ又は相互間で増減する取引をいいます。例えば預金を現金で引き出したという取引は預金という資産が減少し、現金という資産が増加 することになります。損益が発生しない単なる交換取引です。
(2)損益取引
損益計算書に属する費用、収益のいずれかが発生する取引をいいます。例えば米を売り上げ、代金を預金するという取引では預金という資産が増加し、米売上高という収益が発生することになります。これは文字どおり、損益が発生する取引です。
(3)混合取引
交換取引と損益取引が同時に発生する取引をいいます。例えば機械をその時の帳簿価額より高く売った場合、現金という資産の増加、機械器具という資産の減少、固定資産売却益という収益の発生となります。
現金 (資産の増加) | 機械器具(資産の減少) 固定資産売却益(収益の発生) |
この場合、現金と機械器具は交換取引、現金と売却益は損益取引となります。