第16回
前回までで、簿記の一巡の大まかな説明をしたわけですが、いかがだったでしょうか?
複式簿記を記帳するということは、だいたいどんなことをするのか、イメージ出来るようになったでしょうか。「分かったような、分からないような感じ」というのが本当のところかと思います。しっかりと簿記をマスターするには、やっぱり自分で記帳して慣れるのが一番の近道です。まだ、記帳したことのない人は、出来るかどうか考えるより、まずは始めましょう。
コラム:税務申告について
農業所得の税務申告は、他の業種と同様に収支を計算して申告することになっています。零細な経営が非常に多い農業では、かつては特例として売上高や作付け面積から標準的な所得を算出した「農業所得標準」による申告が一部行われてきましたが、この農業所得標準による申告はすでに廃止されました。
栽培品目別の農業所得標準の廃止時期- 施設園芸では平成14年分の所得(15年2から3月申告分)
- 水稲を除く露地作物では平成16年分の所得(17年の2から3月申告分)
- 水稲については平成18年分の所得(19年の2から3月申告分)
また、平成26年1月以降は、白色申告の個人事業者であっても収入金額や必要経費を記載した帳簿を作成し保存することが義務付けられました。つまり、農業を経営する全ての人は、少なくとも単式簿記程度の記帳は行う必要があるということになります。
今回は、複式簿記を理解する感覚について、少し述べてみたいと思います。
「簿記頭」という言葉があるかどうかは知りませんが、普段の農業経営で発生する様々な取引を仕訳をする際の二面性で捉える感覚とか、勘定科目の増減を左右に分けて捉える感覚を身につけてください。
取引の二面性
仕訳のところで説明しましたが、簿記上の取引は必ず二つ以上の勘定科目が変化します。
「現金で肥料を買った。」という取引 → 「現金が減って、肥料費が増えた。」
「トマトの販売代金が預金に振り込まれた。」という取引 → 「預金が増えて、トマト売上高も増えた。」
と捉える感覚を養ってください。
レベルアップ:「費用」「収益」はいつ発生する?
先ほどの例で、「肥料を買った」という取引を「(借方)肥料費 (貸方)現金」と仕訳しますが、厳密に費用がいつ発生するかといえば、それはその肥料を実際に使ったときです。ですから本来は、
借方 | 貸方 | |
肥料を買った日に | 肥料 ○○円 | 現金 ○○円 |
肥料を使った日に | 肥料費 ○○円 | 肥料 ○○円 |
と仕訳するのが、正解です。しかし、実際はこのように仕訳すると、仕訳数が多くなってしまいます。「肥料」勘定の変化を見てみると、買った日に借方(左)に○○円、使った日に貸方(右)○○円となって、左右同額になりますので、左右で相殺されて、結局残高に影響しません。そこで、この二つの仕訳を合わせた形で
借方 | 貸方 | |
肥料を買った日に | 肥料 ○○円 | 現金 ○○円 |
肥料を使った日に | 肥料費 ○○円 | 肥料 ○○円 |
↓
肥料を買った日に | 肥料費 ○○円 | 現金 ○○円 |
という仕訳をするわけです。つまり、肥料を買った日に、「使った」として処理をしています。もし、実際に使っていなかった場合は、決算整理の時に棚卸をして使っていない分が把握できますので、その分を経費から差し引くことになります。(決算整理事項参照)
同様に、収益も農産物の場合は収穫した時に収益が発生したと考えられます。しかし、実際は販売してみないと価額が分からないのが一般的です。
従って、収益の場合も実際に販売代金が入った日に「(借方)現預金(貸方)△△売上高」と仕訳しています。ただし、入金が会計期間の期末をまたぐ場合は、決算整理で処理することになります。
勘定科目の増減
元帳を思い浮かべてください。ぞれぞれの勘定科目毎にその変化を記録する帳簿が元帳ですが、借方・貸方の左右に分けることによって、その増減を捉えやすくしています。この増減を左右に分けて記録する感覚も身につけてください。また、簿記では、ミスをしたら、「消しゴムで消す」ということはしないで、「新たに修正のための仕訳を行って」ミスを修正します。
例えば、肥料費として1000円を計上した後、金額が間違っていて実は800円だったとします。この場合、1000円を消しゴムで消して800円に直すのではなく、次のような仕訳を行います。
最初の仕訳 | 肥料費 1000円 | 現金 1000円 |
修正のための仕訳 | 現金 200円 | 肥料費 200円 |
このように仕訳することによって「現金」「肥料費」のそれぞれの元帳には、
現金の元帳 | 肥料費の元帳 | ||
借方 | 貸方 | 借方 | 貸方 |
1000円 | 1000円 | ||
200円 | 200円 |
と記録され、結果として現金が800円減少し、肥料費が800円増えたことが記録されます。このように、簿記では、修正も含めて、総て仕訳によって処理をする、すなわちそれぞれの増減を左右に分けて処理します。この感覚をマスターしてください。
これらの感覚が自然と身につけば、「簿記が分かった!」ということになると思います。