化学的酸素要求量、窒素含有量及びりん含有量に係る総量削減計画
目次
この総量削減計画は、水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)第4条の3の規定に基づき、水質汚濁防止法施行令(昭和46年政令第188号)別表第2第2号ハに掲げる区域について、令和4年1月24日付け化学的酸素要求量、窒素含有量及びりん含有量に係る総量削減基本方針(伊勢湾)に定められた削減目標量を達成するため、必要な事項を定めるものである。
1 削減の目標
第8次「化学的酸素要求量、窒素含有量及びりん含有量に係る総量削減計画」では、化学的酸素要求量(COD)、窒素含有量及びりん含有量に係る汚濁物質について、平成31年度の発生源別の削減目標量を定め、計画を着実に推進することにより、これらの目標量を達成しました。
しかし、近年では、伊勢湾内の漁獲量の減少に伴い、さらに海域の豊かさの重要性が指摘されるようになりました。これらの状況を踏まえ、現行の指定水域全体を対象とした汚濁負荷の「総量規制」から、海域の状況に応じたよりきめ細やかな「水環境管理」への移行が必要となっています。
ここでいう「きれいで豊かな海」とは、環境基準の達成と生物生産性・ 生物多様性とが調和・両立した海域と定義しました。
本計画においては、令和6年度を目標年度とする第9次水質総量削減の実施にあたり、発生源別の 削減 目標量を表1から表3のとおりとします。
(1) 化学的酸素要求量(COD)について
表1 発生源別の削減後の目標量
平成31年度における削減目標量 |
(参考)平成26年度における量 (トン/日) |
|
---|---|---|
生活排水 | 11 | 11 |
産業排水 | 10 | 10 |
その他 | 3 | 3 |
計 | 24 | 24 |
(2) 窒素含有量について
表2 発生源別の削減後の目標量
平成31年度における削減目標量 |
(参考)平成26年度における量 (トン/日) |
|
---|---|---|
生活排水 | 8 | 7 |
産業排水 | 4 | 4 |
その他 | 10 | 10 |
計 | 2221 |
(3) りん含有量について
表3 発生源別の削減後の目標量
平成31年度における削減目標量 |
(参考)平成26年度における量 (トン/日) |
|
---|---|---|
生活排水 | 0.7 | 0.8 |
産業排水 | 0.6 | 0.6 |
その他 | 0.3 | 0.3 |
計 | 1.6 | 1.7 |
2 削減後の目標量達成のための方途
伊勢湾においては、窒素及びりんの環境基準の達成状況を維持しながら、生物多様性・生物生産性の視点においても望ましい水質を目指しつつ、貧酸素水塊の発生抑制等の観点
から水環境改善を図るため、 「きれいで豊かな海」の実現に向けて、 次の施策を推進するこ
とにより、削減目標量の達成を図る。
(1) 生活排水からの汚濁発生源対策
ア 下水道の整備
下水道の整備については、「生活排水処理アクションプログラム(三重県生活排水処理施設整備計画)」に基づき、効率的・効果的な促進を図る。
また、湾内の栄養塩類の減少と生物生産性の低下の関連性が指摘されているため、特に公的機関が管理する 下水処理場において、排出水中の窒素及びりんの汚濁負荷量を基準の範囲内でできるだけ多くするなど、栄養塩類 管理運転を試行し、その効果について、調査検証を行う。この取組については、環境 部局、水産 部局、下水道部局のそれぞれ役割分担のもと、基準の検討、効果調査と検証、運転管理を実施する。
イ 浄化槽等の生活排水処理施設の整備
浄化槽については、浄化槽法に基づき、市町による浄化槽処理促進区域の指定を進めるとともに、「生活排水処理アクションプログラム(三重県生活排水処理施設整備計画)」に基づき、その区域での合併処理浄化槽の整備及び単独処理浄化槽等からの合併処理浄化槽への転換促進を図る。
併せて、建築基準法、浄化槽法及び三重県浄化槽指導要綱に基づく、適正な浄化槽の設置及び保守点検、清掃等の維持管理の徹底により、放流水質の安定・向上を図る。
農業集落排水処理施設については、農業振興地域において、また、漁業集落排水処理施設については、漁港背後の漁業集落において、それぞれ、「生活排水処理アクションプログラム(三重県生活排水処理施設整備計画)」に基づき、施設の整備等を行うとともに、適正な維持管理により排出水の水質の安定・向上を図る。
コミュニティ・プラントについては、市町の一般廃棄物処理計画に基づき、施設の整備等を行うとともに、 適正な維持管理により 排出水の水質の安定・向上を図る。
ウ 家庭における生活排水対策
一般家庭からの生活排水による汚濁負荷量を削減するため、市町と連携し、生活排水処理施設の適切な使用・管理等や家庭でできる雑排水対策についての普及・啓発を行う。
エ し尿処理施設の整備
し尿処理施設については、市町の一般廃棄物処理計画に基づき、施設の整備等を行うとともに、処理施設の維持管理の徹底により排出水の水質の安定・向上を図る。
(2) 産業排水からの汚濁発生源対策
ア 総量規制基準の設定
総量規制基準が適用される指定地域内事業場については、これまで8次にわたる汚濁負荷量削減のための対策により、かなりの削減が図られてきたことや、原材料等の使用の実態、排水処理技術水準の動向等を勘案し、適切な総量規制基準を定める。
基準値については、環境大臣が定めた
(ア)「化学的酸素要求量についての総量規制基準に係る業種その他の区分及びその区分ごとの範囲」
(平成 18 年環境省告示第 134 号、平成 23 年一部改正、平成28 年一部改正 、令和 3 年一部改正
(イ)「窒素含有量についての総量規制基準に係る業種その他の区分及びその区分ごとの範囲」
(平成 18 年環境省告示第 135 号、平成 23 年一部改正、平成 28 年一部改正)
(ウ)「りん含有量についての総量規制基準に係る業種その他の区分及びその区分ごとの範囲」
(平成 18 年環境省告示第 136 号、平成 23 年一部改正、平成 28 年一部改正)
に基づき 定めることとし、一部の業種については、排水量等により区分し、業種等の実態を考慮して適切に設定する。
また、近年の伊勢湾の 栄養塩類の減少に対して、下水処理場の栄養塩類管理運転による栄養塩類の調整が実施 できるよう、下水道業の窒素及びりんの基準を見直す。ただし、当該基準の変更は、 公的機関が管理する下水処理場 のみで実施し、栄養塩類管理運転による 海域への効果の検証を行う。その検証結果をもと順応的に対応するものとする。
イ 総量規制基準が適用される事業場等に対する対策
指定地域内事業場については、生産工程及び用水の合理化、排水処理施設の維持管理の徹底及び整備等により総量規制基準が遵守されるよう、水質汚濁防止法に基づき立入検査、水質検査等を行うとともに、制度の主旨や内容について周知を徹底する。
ウ 総量規制基準が適用されない事業場等に対する対策
総量規制基準
が 適用されない工場・事業場 については、小規模事業場等排水処理対策指導要領」に基づき、実態に応じた排水処理の指導、助言を行うとともに、適正な排水処理について啓発等を行う 。
(3) その他からの汚濁発生源対策
その他の農用地や畜産業、養殖業等の汚濁発生源については、発生源が多岐にわたることから汚濁負荷の実態に応じて以下の対策を講じることにより、汚濁負荷量の削減を図るものとする。
ア 農地からの負荷削減対策
「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」(令和4年法律第37号)、「環境と調和のとれた農業生産活動規範」(平成17年農林水産省)、「有機農業の推進に関する法律」(平成18年法律第112号)、「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」(平成26年法律第78号)等に基づき、農業環境規範の普及、エコファーマーの認定促進、環境負荷を低減する先進的な営農活動の支援及び施肥量の適正化により、過剰な化学肥料の使用を抑えること等による環境負荷の軽減等に配慮した環境保全型農業を一層推進する。
イ 畜産排水対策
畜産排水については、「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(平成11年法律第112号)、「三重県環境保全型畜産確立対策基本方針」等に基づき、畜産農家の現地調査等を実施し、家畜排せつ物処理施設の管理等に関する技術的助言や改善指導を行い汚濁負荷量の削減を図る。
ウ 養殖漁場の環境改善等
養殖漁場の環境改善等を図るため、漁場適正利用協議会において「持続的養殖生産確保法」(平成11年法律第 51号)、「三重県魚類養殖指針」に基づく養殖漁場の環境管理の推進体制を整備し、養殖漁場の適正な利用を図る。なお、地域の実情に応じて、漁場内の水質、底質の改善を図るため、適切な措置を講ずる。
3 その他汚濁負荷量の総量の削減及び水環境の改善に関し必要な事項
これまでの汚濁負荷削減の取組により、陸域からの汚濁負荷量は着実に減少しているものの、環境基準の達成状況や、貧酸素水塊等の発生、「きれいで豊かな海」を目指すうえでの課題等は指定水域内でも場所により異なることから、今後は、よりきめ細かに海域の状況に応じた取組が重要となる。藻場・干潟の保全・再生等を通じた水質浄化及び生物多様性・生物生産性の確保等の重要性に鑑み、地域の実情を踏まえた総合的な取組を確実に推進していくことが必要である。特に、湾奥部における栄養塩類の偏在等の局所的な問題に対しては、地域ごとの特性も考慮した局所的な対策を講ずることが有効であることから、次に掲げる各種対策から実施可能な取組を検討し、関係者の連携のもと複層的に実施することにより、総合的な水環境の改善を図る。
(1) 藻場・干潟の 保全、 再生による 自然浄化能力 と生物生息機能の 増進
藻場・干潟は、水質浄化や生物多様性・生物生産性の維持等の機能を有する場である。特に、海域の栄養塩類を湾内の豊かな高次生産につなげていくため、栄養塩類の管理と藻場・干潟の保全、再生は、両輪で行うことが重要である。
そのため、関係機関の連携のもと、藻場・干潟及び浅場を保全するとともに、再生・創出の推進を図ることにより、伊勢湾が持つ自然浄化機能や多様な生物生息機能の再生を図る。
国等が定期的に実施する藻場・干潟の分布状況に関する調査結果を参考に、「伊勢・三河湾海域干潟ビジョン」に基づき、湾内の計画的な藻場・干潟再生を推進する。また、流域圏で発生する河川堆積土砂を活用した干潟再生等、関係機関が連携した取組を進める。
(2) 水質改善に資する養殖等の取組の推進
環境負荷の少ない持続的な養殖業の確立のため、海水中の 栄養塩 類 や餌を利用して行う藻類養殖、貝類養殖等を推進するとともに、 漁場改善計画に基づく適正養殖可能数量を遵守し、沿岸水域における赤潮監視、漁場清掃等の保全活動による漁場環境の改善を一層推進する。
また、漁船漁業、採貝漁業及び養殖漁業(ノリ等の藻類養殖)では、資源管理や適正な養殖管理による、持続的な発展を通じて生物量並びに生物生産力の増大を図るとともに、特に ノリ 等の藻類養殖における生産性を向上するため、貧栄養・高水温耐性品種の開発や 適切な栄養塩濃度の確保に向けた取組を推進する。
(3) 底質改善対策等の取組の推進
水質改善に資するための浚渫、覆砂等の底質改善対策や窪地の埋め戻し等の対策については、現状や改善効果、周辺環境への影響の把握等に努め、また、新たな護岸等の整備や既存の護岸等の補修・更新時には、地域特性に応じて、生物共生型護岸等の環境配慮型構造物の採用に努める。
(4) 監視体制の充実
公共用水域の水質汚濁及び汚濁負荷量、赤潮や貧酸素水塊の発生状況等を把握し、有効かつ適切な対策を講ずるため、国及び関係する県市等との連携のもと、水質調査、指定地域内事業場に対する立入検査等、効果的な監視体制の充実を図る。
(5) 情報発信、普及・啓発
総合的な水環境の改善をより効果的に推進するには、関係市町、事業者及び県民の理解と協力が必要である。このため、「きれいで豊かな海」の実現に向けた取組 について、自治体のホームページ等により、正しい理解を求め、協力体制の強化を図る。
県民に対しては、家庭でできる生活排水対策の実践等に努めるよう啓発等を行うとともに、水環境の保全に対する正しい知識が得られるよう、普及・啓発に努める。
(6) 調査研究の推進と科学的知見の集積 ・活用
伊勢湾では、これまでの取組により、水質が改善している一方で、栄養塩類の減少や生物生息場となる藻場干潟の減少等により、ノリの色落ちや水産資源をはじめとする生物生産性と多様性の減少、貧酸素水塊等の問題が 生じたと指摘されている。県関係部局、大学等と連携し、生物生産力の維持・強化に必要な適切な栄養塩濃度の解明、下水処理場の栄養塩類管理運転の検証、貧栄養・高水温耐性品種の開発、貧酸素水塊の発生原因とその対策等に関する調査・研究に取り組む。
従来の汚濁負荷の「削減」から、「水環境管理」への新たな方向性を導入した本計画では、総量規制基準の見直しによって起こりうる、海域環境への影響を詳細に把握する必要がある。特に、下水処理場の栄養塩類管理運転の詳細な効果の検証については、環境部局、水産部局、下水道部局、大学との共同で実施し、その結果をもとに、次期計画へフィードバックを行う。
環境部局と水産部局、大学との共同で実施する「 伊勢湾再生連携研究事業 」で は、良好な水環境と湾内の生物生産と生物多様性を維持するための栄養塩類レベルの把握に関する研究をはじめ、貧酸素水塊発生メカニズムの解明とその対策に関する研究を実施する。
伊勢湾再生推進会議の海域検討会とも連携し、伊勢湾シミュレーターを用いた、下水処理場の栄養塩類管理運転の効果、干潟・浅場再生効果や貧酸素水塊の改善対策の検討を行う。
海域環境の変化や各種施策効果の評価に繋げるため、従来の公共用水域水質常時監視に加えて、底質や底生生物等、底層環境に関するモニタリング調査を追加するとともに、関係機関が導入する新たな水質自動観測システムを活用するなど、モニタリング体制の強化を図る。併せて、水産資源の適切な管理、養殖管理技術の開発や品種改良、疾病の発生状況や防疫対策等に関する情報共有、赤潮による被害軽減対策等の研究に取り組む。
調査研究の成果については、環境部局や水産部局等、関係機関で情報共有を行い、「きれいで豊かな海」の実現に向けた行政施策に展開していく。
(7) 中小企業者に対する金融支援
中小企業者の排水処理施設の設置、改善等に対する金融支援制度(三重県環境・防災対策等促進資金融資等)の活用を図り、水質汚濁防止施設の整備を促進する。
(8) 「きれいで豊かな 海」の実現 に向けた多様な主体との連携
「きれいで豊かな海」の実現に向けて、総合的な「水環境管理」を推進するためには、従来の環境部局による規制行政だけではなく、多様な主体との分野横断的な取組が必要不可欠である。特に、本計画の主な取組となる 「栄養塩類の管理」と「藻場・干潟の保全再生」については、環境部局、水産部局及び下水道部局が目指すべき目標を共有することが重要となり、そのためには、各種施策の進行管理や効果の検証などを行う関係機関による協議の場を設け、より一層の連携強化を進める。
このような取組の実施にあたっては、県民、NPO、漁業者、民間事業者、行政等の多様な主体が有機的に連携して取り組むことも重要であり、伊勢湾を親しめる身近な海として実感しながら、地域の実情に応じた自主的な環境保全活動の拡大と活性化が図られるよう取り組んでいく。
また、伊勢湾の再生に向け、多様な主体と連携し、国の関係省庁と三県一市等で組織する「伊勢湾再生推進会議」で策定した「伊勢湾再生行動計画」を推進していく。
(9) 気候変動や海洋ごみへの対応
藻場・干潟等には温室効果ガスの吸収源、ブルーカーボン海洋生態系による炭素固定)としての役割も期待されることから、伊勢湾内の藻場・干潟等保全再生に加え、CO2の吸収・排出の評価に向けた調査、検討等にも取り組んでいく 。
伊勢湾流域圏における海洋ごみ対策については、愛知県、岐阜県、三重県による広域的な地域計画を新たに策定し、海洋ごみの実態把握や発生抑制等、連携して取り組みを進める。