尾鷲管内の熊野古道沿いなどで見られる樹木百選(第3回)
(森林・林業百景 第20弾)
森林・林業百景の第20弾「尾鷲管内の熊野古道沿いなどで見られる樹木百選」の第3回目は、食用になる実をつける4種類の樹木について紹介します。
皆さんがあまり食したことのない果実から、普段から皆さんが食卓等で口にしているであろう果実まで、今回は、熊野古道散策時に見つけた4種類の樹木についてご覧ください。
こちらは、熊野古道馬越峠の入り口付近で見つけたヤナギイチゴ(柳苺)の実です。
この写真のように、6月頃の梅雨の時期に、鈴なりに橙黄色のたくさんの実をつけます。
熟した果実は、多汁で甘く食用になり、そのまま食べたり、ジュースや果実酒として利用されているそうです。
なお、名前の由来は、葉っぱが、柳の葉のように細長い形状をしていて、キイチゴ類のような甘い実をつけることから、ヤナギイチゴと命名されたそうです。
名前にイチゴとつきますが、バラ科の植物ではなく、イラクサ科の植物です。ヤナギイチゴは、草本類の多いイラクサ科の植物では珍しく、日本では唯一の木本植物になります。
【目】イラクサ目 【科】イラクサ科
【属】ヤナギイチゴ属
【和名】ヤナギイチゴ(柳苺)
「別名:カラスヤマモモ、コゴメイチゴ、メグサリ
とも呼ばれることがあります。」
【学名】Debregeasia edulis
ヤナギイチゴは、漢名(中国名)を水麻(すいま)、水蘇麻(すいそま)といい、ヤナギイチゴの樹皮が強靱なことから、昔、麻の代用にさたことに由来するといわれています。
また、日本でも、中国同様に、昔はヤナギイチゴの樹皮を剥ぎ、水に浸して繊維を採取し、麻の代用として縄等に使われていたそうです。
こちらは、熊野古道始神峠散策の際に、紀北町馬瀬地内の明治道沿いで見つけたウメ(梅)の木の写真です。
ウメの実については、梅干しや甘露梅、のし梅、梅酒、梅酢、梅ジャムなどに加工され、皆さんもよく食べていると思いますので、よくご存じだとは思いますが、梅農家などの方は別として、葉っぱの付いた状態の樹木はあまり見たことはないのではないでしょうか。
なお、熊野古道沿いでも、たまに山野に野生化したウメの木を見ることができます。
こちらは、熊野古道一石峠・平方峠の散策の
帰りに紀北町海野地内で見つけたウメ(梅)
の花の写真です。2月から3月頃の早春の時
期に、この写真のように、白や紅の可憐な花
を咲かせます。
【目】バラ目 【科】バラ科
【属】サクラ属 【和名】ウメ(梅)
【学名】Prunus mume
「別名:好文木(こうぶんぼく)、春告草
(はるつげぐさ)、木の花(このはな)、
初名草(はつなぐさ)、香散見草(かざみ
ぐさ)、風待草(かぜまちぐさ)、匂草
(においぐさ)などと呼ばれています。」
ウメ(梅)は、別名にもなっているように、2月のまだ寒い時期に花を咲かせ、真っ先に春を告げる樹木ですので、メジロ等の野鳥にとっては、餌のあまりとれない寒い時期には、とても貴重な樹木と言っていいのではないでしょうか。
また、ウメの木(木材)はとても硬く、緻密であることから、印材(判子の材料)や拍子木等に使用されたり、節や樹形の面白いものは、欄間(らんま)や床柱に利用されることもあるそうです。
こちらは、熊野古道始神峠散策の際に、紀北
町馬瀬地内の江戸道付近で見つけたクリ(栗)
の木の写真です。
クリの実はこちらの写真のように、木に実っ
ている状態では、「イガ」と呼ばれるトゲの生
えた殻斗(かくと)に包まれています。
【目】ブナ目 【科】ブナ科
【属】クリ属
【和名】クリ(栗)
「別名:山野に自生するものは、シバグリ、
ヤマグリとも呼ばれています。」
【学名】Castanea crenata
なお、日本では、クリの実は、縄文人の主
食であったといわれており、青森県の三内丸
山遺跡から出土したクリの実をDNA鑑定した
結果、縄文時代には既にクリが栽培されてい
たことがわかっています。
また、クリの木(木材)は堅くて腐りにくいため、昔は、木造建築物の柱や土台の材料、鉄道の線路の枕木や家具など、幅広く利用されていたそうです。
また、桃(もも)、栗(くり)三年、柿(かき)八年というように、栗の木は成長が早く、よく燃えるので、昔は薪木等としても使われていたそうです。
先ほど、クリの実の部分でも記載しましたが、縄文時代にはクリが既に栽培されていたため、建築材や燃料材の大半はクリの木であったことが、遺跡の出土品などからわかっているそうです。
こちらは、熊野古道一石峠・平方峠散策の帰り道に
紀北町海野地内で見つけたミツバアケビです。
ミツバアケビの実は、アケビの実とともに古くから
秋の味覚と人々に親しまれてきました。秋に実が熟す
と、果皮が緑色から赤紫色に変色し、やがて果皮が割
れて、中の甘い果肉が見えるようになります。
「アケビ」という名は、実が熟すと果皮がぱっくり
と口を開けることから「開け実」が転じて「アケビ」
という名になったといわれています。
なお、名前に「ミツバ」が付くのは、葉っぱの形状
が三小葉からなる掌状複葉だからで、葉っぱの形状が
五小葉のアケビと区別され、あえてミツバアケビと呼
ばれているそうです。
【目】キンポウゲ目 【科】アケビ科
【属】アケビ属 【学名】Akebia trifoliata
【和名】ミツバアケビ(三葉木通、三葉通草)
なお、漢字名の「木通」や「通草」は、漢方でアケビのツルを利尿剤として用いたことから「小水を通じる木」ということで、この字があてられたとか、ツルを切って、ツルに息を吹きかけると空気を通すことから、この字になったなどといわれています。
また、ミツバアケビの果肉はとても甘く、
生食用としても重宝されますが、果皮も茹で
て水にさらし和え物等にしたり、天ぷらや炒
め物にして食べると結構美味しいそうです。
ミツバアケビは、つる性の木本植物です。
ミツバアケビのツルは弾力があり、とても
丈夫でしなやかなことから、籠編みの材料
としても最高級品とされ、アケビ細工の椅子
や籠などの生活用品にも利用されています。
熊野古道沿いでは、きれいな花や今回紹介
した4種類の樹木以外にもヤマモモやガマズ
ミといった実をつける樹木、また、こちらの
写真のように、たくさんのキノコが生えた朽
ちた切り株など、普段の生活では見られない
ような樹木やキノコ、シダ類などの植物等も
観察することができます。
こちらは、熊野古道荷坂峠を散策した際に
見つけたキノコです。キノコは種類がたくさ
んあり、見分けも付きにくいので、確かでは
ありませんが、こちらはカワラタケ科、もし
くは、サルノコシカケ科のキノコでしょうか。
古道散策時には、峠からの眺望や石畳・お
地蔵様といった史跡等ばかりに目がいきがち
ですが、古道沿いには、面白い形の樹木や様
々な種類の植物なども見ることができますの
で、自然観察等を目的として、一度、古道散
策に訪れてみてはいかがですか。
何度も訪れた古道でも、いつもと違う発見
が貴方を待っているかもしれませんよ。