海山裕之氏(コミレスネットこらぼ屋代表)
コミュニティレストラン『こらぼ屋』という、素人さんというか普通の主婦の方が、日替わりでシェフを務めるレストランをやっております。四日市に2つこのシステムのレストランがあり、現在70名ほどの方にシェフ登録していただいております。
(テレビで紹介されたビデオを紹介)
10月の末に近鉄四日市駅の近くにあった空き店舗に移転しました。商売でやっているわけではなく、運営の母体はNPOです。このシステム(ワンデイシェフ)を導入したいというところを支援しています。現在、全国で6店舗ありますが、そこの本部的な機能をやっています。こらぼ屋は直営店で、お店は独立採算です。
商売でなければなにかというと、食は広い範囲にまたがります。農業生産現場もありますし、料理を食べること、健康にもつながっていきます。食というテーマを核にしたコミュニティづくりです。一般に言われている地域コミュニティとはチョット違う、興味とか関心に基づいて出来上がるコミュニティづくりをしようとしています。
今、市場経済とか競争原理がすごく大きくなってきていて、どんどんつながりが切れてきていると感じています。そういう価値観とは違う形、人と人との関係性を作って、コミュニティを作れないかと始めました。
金儲けなら、方向性がまとまりやすいのですが、コミュニティを作るとはどういうことか? 最初から理念を明確に伝えるわけではないのですが、それでは分かりづらいということで、理念を設定してみました。「どういったコミュニティ社会を作りたいのか・・・・」
そこで、『誰もが自分の色で輝ける社会作りをしよう』という理念をかかげました。
仕組みですが、一定のルールを作ることが重要です。既にたくさんのシェフの方が登録されていますし、これからも増えると思います。シェフは本部登録です。全国どのお店でもシェフができるようにしたいと思っています。となると理念に添ったルールが必要ということになります。
・1番目のルールは、登録資格はプロではないこと。現在のところ家庭の主婦が8割以上です。
・2番目のルールは、シェフとして店に入るのは2週間に1回まで。
2週間のローテーションを組んでいますが、その間同一のシェフが担当することはありません。お仕事を持っている人もいるし、専業主婦もいます。素人が店をやるのは簡単ではありません。1回に20食、それ以上作ることは、やる気があっても、たった週1回でも大変なことです。しかし2週間あれば、充分準備ができ、モチベーションを下げることなく高めることもできると考え、2週間に1回としています。
・3番目は、シェフは本部に登録し、年会費を2000円納めていただきます。シェフ登録希望者には、まずお店に来ていただきます。はじめに目的と理念をお伝えし、一度、シェフのお手伝いに入ってもらい、調理場の使い勝手を知ってもらったり、店の運営方法を学んでいただきます。納得できるまで何回でも入っていただきます。自分のやりたい日に、好きなジャンルの料理を、テーブルセッティングを含む店の雰囲気作りから全般をやることが特徴です。
・4番目は、飲食店営業ですから、食品衛生責任者を置いて、保健所の許可を得るということ。
・5番目は、食材はシェフが仕入れてくるということ。
・6番目は、最低20食は用意していただきます。
・7番目は、売り上げの7割をシェフが受け取り、残り3割でお店を運営するということ。
以上7項目は、シェフに場を提供するしくみです。
登録が済むと、入る日を決めて行きます。先着優先で日が決まります。曜日で決めていく方法は、ローテーションを組む側は楽ですが、ばらばらに、やりたい時に入るというのがここのやり方です。ローテーションづくりは、コーディネーターが担当します。
このシステムの特徴は、自発性・自己責任・自由な発想・相互支援による運営です。
自発性とは、自分で決めること。誰でもできるといっても、お客様からお金をいただいてやるのでそれなりの覚悟が必要です。自分の希望する日を指定し、20食以上用意することも自由で自分の裁量で決めます
自由な発想というのは、楽しんで欲しいということです。お店側からは衛生面以外で指導はないということです。自分でメニューを組み立てていただきます。ランチは800円と料金が決まっていますが、夕食料金は自分に設定できます。店のインテリアはシンプルに作ってあるので、花や布などで、料理に併せた雰囲気を創造できます。気の合う仲間とコラボレーションをして、ギターライブ付のディナーをやったりされる方もいます。
自己責任というのは、売れ残った料理は自分で持ち帰っていただきます。ゴミも反省材料も持ち帰ります。
ここは自分がやりたいことを実現してもらう場です。自発的にかかわって、自己責任で終わり、自由に楽しんでもらうというコンセプトです。
相互支援というのは、シェフになる方は、必ず一人お手伝いを連れてきていただくことになっています。1人ではこなせないということで、2人で調理場を担当します。3人・4人でもかまいません。お店のホールの係も、他のシェフがやります。現在4~5人の方がホール係を、進んで引き受け、店は登録シェフたちの相互支援で運営しています。
関係性の再構築というのを説明します。利益を上げることは運営を継続するために大事ですが、それだけが目的ではないんです。楽しさや嬉しさ・やり甲斐、そういう部分でいろんな人を巻き込んでいくための仕掛けです。商店街の中にあって、適度に儲からない仕組みということです。つまり競争に巻き込れないようにしようということです。
もともとあるコミュニティではなく、新しく食を中心に集まって作っていくコミュニティづくり。10年20年とかかるかもしれない。気楽に助け合えるような新たなコミュニティを作っていこうと思っています。今シェフの中心年代は40代です。高齢者となった時に、良い関係性を持った仲間がいれば心強いですよね。将来に対する保険です。お金で保険を賭ける事も大事ですが、お金はある日突然紙切れになることだってあるわけで、リスクは分散して、こういったコミュニティの中で、本当に助け合えるようなそういう関係性を40代のうちから作りましょう。80になってからでは、無理でしょう。多様な関り方を認めれば、いろんな人が集まります、将来お店を持ちたいから練習すると言う気合の入った人もいれば、若い人がちょっとやってみたかったといってやる人もいれば、年配の主婦の方が、腕を振るう場がない、毎回食べてもらうのが生きがいとなっているという方、中学生が一度、インドの小学校を建てる資金を送りたいとランチを作って、売上金を送るなど、いろんな目的、動機で参加される方がいるので、多様な使われ方、関わり方を認め合いましょうということです。収益性を評価の基準にしないというのは、関係性を作っていくのに、競争原理とかではなく、勝ち組負け組みではなく、一人一人が輝くために。
シェフの中には人気があっていつも完売するシェフと、よく売れ残るシェフがいますが、それはお店としては評価の対象とはしていないということです。取り組んだシェフが、楽しかった、もう一回やりたいと思ってもらうことが大事。場で夢を実現したいと思っている方に場を提供している。ワンデイシェフ・システムのお客さんはシェフであると考えてシステムを作っています。
そして、出会いを大切にする、その日は、シェフがすべて仕切りますので、他のシェフとの交流する部分が非常に少ない。定期的に試食会ということで、皆が一品ずつ持ち寄り食べあって、アドバイスをしあう場とか、ケーキバイキングもやりました。
コミュニケーションを強要しない。およそ70名の方が関わって運営していますが、合わない人もいる。そういう時も、うまくやって下さいとか言っていない。運営する中で、適度な距離を保った関係も必要だと分かりました。
こういうお店が、全国で6つできました。市内でも、シェフが100名を超えると、もう1店舗ないと、順番が回ってこない人が出てきそうなので、もう少しシェフが増えたところで、もう1店舗の計画は立てていくと思う。1店舗だけでは、収益は上がらないが、店も増え、それぞれのネットワークがつながってくると、いろいろなことができる。そこがこのシステムの狙いです。
兵庫県の西脇市に昨年6月に1店舗オープンしたワンデイシェフレストラン「梅吉亭」に10数名のシェフとマイクロバスで行き交流を深めました。梅吉亭は大正時代の高級民家である国登録有形文化財「旧来住家住宅」の敷地内にあります。犬山市、名古屋市内の瑞穂区にもあります。関東の群馬県高崎市、伊香保温泉の近くもあります。今年は、名古屋市東区・高山市のほうにもオープンしそうです。シェフもネットワークが広がるし、農村と都市部が交流するための拠点ともできるだろうと思います。
お店のタイプもいろいろで、犬山のシャンティはフェアトレードをやっていますし、西脇市は観光スポットでやっている。高崎市は、田園地帯の民家を使って、普通のお勝手を改装して出している。1日10食を作って、12時になると、シェフも入って皆でテーブルを囲む。いろんな形で取り入れていただくことができるシステムです。いろいろなスタイルでノウハウが積みあがってくる。新しくオープンする店には、そのノウハウも提供していきたいと思います。ネットワーク全体でこのシステムを進化させていきたい。将来的に、全国的なネットワークを構築していきたいと考えています。
1つのお店を中心に、シェフを受け持って、コミュニティができてくる。それが重層的に重なっていくことで、地域が変わっていかないかという期待も込めてやっております。これがワンデイシェフ・システムの取組です。