青木辰司氏の基調講演の概要
グリーン・ツーリズム -その本質的意義と今後の展開-
GTとは
・ GTとは緑豊かな農村地域で自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動。「人々との交流」がポイント。農村でゆとりをもって楽しむ休暇。
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「観光(sightseeing)」ではなく「観交」。GTを「農村観光」「農家観光」「農業観光」とする捉え方は間違い。「観光」概念では、心から交流するという取組、意味が抜け落ちる危険性がある。
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GTの「グリーン」とは、単に「みどり」という意味ではなく、「生命の尊重、資源の適正利用、全ての生物の相互関連の認識」といった、「環境保全、農山漁村の社会・文化の持続可能の確保」という意味も含む。
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GTの「ツーリズム」とは、「観光」ではなく、「個性的な体験や交流を通して、心身をリフレッシュする活動」を意味する。「tour」は「turn」に由来し、「日常と非日常の交差」という意味。それを理念、思想として定着させることが「tourism」と考えている。農山漁村(非日常)の人々の生活の場(日常)に入っていくこと。上面の観光では非日常は体験できるが、その中の日常に入ることはできない。
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「体験観光」を「GT」とはき違えている人が多い。「体験観光」のほとんどが一過性型、通過型、不特定多数型という傾向になっている。大事なことは通過ではなく「滞在」、観光ではなく「交流」。
GTのポイント、交流によって生まれるもの
・ キーワードは「癒し」「感動」「交流」「極上、真正(本物であること)」「物語性」「自己実現」「予測不可能制」「秘匿性(秘密にしたいと思わせるだけの価値)」「非日常性」
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都市と農村交流のポイントは「決して大きくしない」「地域資源活用」「人的交流」「地域住民の合意による主体的実践」など。大規模リゾート開発の失敗を忘れないこと。
・ 交流することによって、都市側、農山漁村側のお互いが会えて良かったという思いになる。(相乗効果が生まれる。)
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「ツーリズム」では良質、上質のお客と向き合うことができる。「観光」では難しい。「(三重で個性的な体験、交流をしたことで)自分も何か三重に恩返しをしたい」と思う良質、上質のお客をどれだけ確保できるかがポイント。
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そのような思いをもつ人達が現れたら協働(コラボレーション)が可能。農山漁村は地域の人だけでは守れない。お金を使って行政や都市の人を呼ぶのでは地域の思いが伝わらない。地域の人の経験、知恵、技と都市の人が協働することで守ることができる(協発的発展)。
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協働の形態で「ワーキングホリデー」が注目されている。ワーキングホリデーではその地域で労働するかわりに滞在費が無料になる。お金がかからない、長くいられるというメリット。特に学生等の若い人達を対象にするときわめて効果的。GTの重要なものの1つ。
GTで期待される効果
・ 農山漁村側にとって
「最高の生活の質の提案・享受」:
都市との交流を通じて自分たちの生活がレベルの高いものだと気づく。
「偉大な都会の人材の活用」:
都市農山漁村の人達にはない経験、知恵、技をもつ都会の人と交流し、その人達を活かして地域のためのアイデアにつなげる。
この他、宿泊や食、物販等の収益性、持続可能な実践、地域の誇り・価値の再認識、生活・文化ストックの蓄積、青年・熟年層のU・J・Iターン、適正な農村居住人口の定着、確かな交流の契機、などが挙げられる。
・ 都市住民側にとって
何よりも農林漁業への理解が深まることが重要である。
他には、人間性の涵養を通した社会的自己実現、青少年の情操と創造性の涵養・環境教育、新たな「農」あるライフスタイルの構築、本物の食や工芸・自然・文化的体験、癒しやリフレッシュ体験等の新たな旅、「田舎の親戚」関係の創出、などがある。
GTの展開
・ 日本のGTは導入段階から展開段階に入った。・ アジア型、日本型のGTとは何かということが問われ出しているが、ヨーロッパの先駆的事例に学ぶところはまだまだ多い。
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ヨーロッパのGTは安かろう悪かろうではない。しっかりとしたビジネスとして成立している。いつまでも行政支援に頼らず、自立的な経営、ネットワークを形成している。このことは日本にとっても重要。
日本型GTの類型
①農林漁家民宿、農村民泊(社会自己実現型GT)
自分の人生の生き甲斐
②ワーキングホリデー(労働貢献型GT)
③ラーニングバケーション、ツーリズム大学(学習型GT)
④教育体験旅行、修学旅行(教育体験型GT)
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GTには一時滞在(農作業体験、農産物直売等)、二地域居住(滞在型市民農園、週末の田舎暮らし等)のものがあるが、滞在時間が長くなるように展開させていくことが重要。そのためには宿泊施設の整備が必要。最終的には定住につながる。
・ 心(その地域でのGTの理念)、技(その地域にあったGTの形態)、体(実践者の組織と行政が一体となって推進している)の総合力が重要。
GTの展開ための条件
①産業的条件:農林漁業が活発である地域。農林漁業と兼業することで特徴が生まれる。
②自然的・歴史的・文化的条件:景観に優れ、伝統文化が豊かな地域。
③社会的条件:地域住民の合意のもと、住民、行政、民間企業の一体的取組が見られる地域。
④人的条件:ビジネスセンスに長けた人が多い地域。
最も重要なのは人材。
これら4つの条件がバランスよく整っている地域がGTにとって有利な地域。
GT振興上の基本的要点
①小規模な継続的交流を目指す。小規模にすることで環境負荷の低減が図れる。
②「安い」、「小さい」、「古い(伝統)」、「何もない(素朴さ、静寂)」ということが質の高い生活であることを見直す。
③「対等性(都市側に媚びない)」「開放性(心を開く)」「融合性(うまくとけ合う)」「互酬性(お互い様の関係)」の確保
④女性や熟年世代の豊かな自己実現
⑤農林漁業以外の地場産業も含めた共棲型の多面的振興。
⑥農山漁村地域の有する優位な条件への着眼(自然及び景観の保全・再生、静寂、ゆったりスペース、歴史・伝統、人間性及び文化の保全・再生・活用)
多次元にわたる振興方策の展開と具体的規制緩和
・なぜGTが必要かという普及活動が必要。各種交流研修機会の創出。
・農林漁家民宿のネットワーク化。農林漁家民宿は全国で約3600軒。三重県は農林漁家民宿が少なく、規制緩和が遅れている。確かな自主規制による質の向上を図る。
・実践者、関係者のネットワーク化。量的確保とネットワークを結ぶための地域マネジメント。
・条例制定や特区構想など、「規制・監視」から「評価・支援」の発想へ。
確かな情報拠点の整備とネットワーキング
・地域の交流情報の発信拠点の整備が欧州に比べ遅れている→道の駅を活用。道の駅に地域の情報(地域で輝いている人達、その人達のメッセージ、魅力的なもの)を発信する機能をもたせ活用してほしい。
・全国のセンターとのアクセス化。日本GTネットワークセンターへのリンキング。
体験型GTの意義と課題
・GT実践の入り口として実施することは重要だが、将来どこにもっていくかという出口を考えることがさらに重要。最終的には実践する人が誇りや自信をもてるようにすることが必要。
・ポイントは一過性ではなく、継続的な交流。(100万人の1回から1000人の10回へ。この方がはるかに地域への貢献度は高い。)
・短期滞在から長期滞在へ。(100万人の1時間から1000人の20泊へ)
・そういう発想で地域での受け入れ体制を整備する。その際に、1単位のセクターを大きくしない。輝く小規模セクターで棲み分けて連携する。
受動的体験から能動的活動への展開
・将来は人から何かを体験させてもらう受動的体験者から能動的活動者となるための仕組みづくり必要。
①自立的なツーリストの育成と受け入れ体制整備(「案内人・指南役」→「世話人」へ)
②多様な滞在活動のための基盤整備(民家、公民館、公共施設、民宿、ホテル、旅館の棲み分け)
③質感高い滞在への展開(「極上」のバリエーション開発)
④小規模実践者の広域的連携体制の確立(重層的ネットワーク)
品質評価システム、情報発信体制の整備が重要
GTへの取組姿勢、工夫
・ GT成功の秘訣
良質の客の選択(客を選べるようにする)、マイペースの確保(決して無理をしない)、絶えず自己研鑽を積む、自らのツーリズム体験(自らがいろんなところで客の立場になるためのツーリズム体験をする)、極上のツーリズムの追求(お金をかけなくても極上のツーリズムがどのような形でできあがるかを追求する)、多様な連携、多元的なネットワーク。
・ その地域の人々の日常性(暮らしの場)との接点を無理のない形でさりげなく作る。あらゆるセクターがみんなで高め合う。No.1からonly one
、only oneからevery one。サービスではなくホスピタリティ。一見客ではなく常連客。金ではなく人。「身を粉」にではなく「身の丈」。
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地域で景観の良いところ等の魅力ある場所にぜひベンチを置いてもらい、訪れた人がゆったりと地域を感じとれる工夫をしてもらいたい。そのベンチに訪れた人に対するメッセージを付けておくとよい。
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実践者は行政の補助金をあてにせず、自立的な実践を行う。行政は金銭支援だけではなく、人的支援を行う。県職員は国等からの情報を1番早くつかめるのだから、その情報発信を行う。市町村職員は現場に入り、地域実践者とともに取り組むといったように、それぞれの立場の特徴を活かした支援を行う。