第22号 平成12年1月 関町 親遊池
農業用水路を活用して、小学校に”自然観察池”誕生
昨年7月14日、三重県鈴鹿郡関町立関小学校で池開きが行われた。関係者、学校職員、そして子どもたちが集まりテープカットののち、メダカを放流。校舎横の小さな池だが、子供たちの心を潤す親水・観察池として大きな期待を担っている。
(地域整備のため分野を越えて協力)
今回のニューウェーブの舞台となるのは、三重県鈴鹿郡関町の関小学校。関町は県の北部(北勢)、緑豊かな鈴鹿国定公園の山すそに位置し、人口は約7,600人。古代日本三関の一つ「鈴鹿の関」が置かれ、東海道47番目の宿場「関宿」としても栄えた。旧街道沿いには東西約2kmにわたって当時の面影をとどめる建物、町並みが残る。現在も国道1号、名阪国道などが走り、東西交通の要となっている。
関小学校(全校13学級・児童数363人)は、水田と住宅が混在する農村地帯にあり、近隣には里山、ため池(新池)、農業用水路などがある。
話の発端は、小学校裏の里山(丸山)を関町が単独で整備しようとしたことにはじまる。荒れていた里山を、昔のように子どもたちが元気に遊べる自然公園にしたい。そこで開かれた事業の地元説明会において、住民から「どうせなら一緒に、農業用水路を活用して小学校に観察池をつくったらどうか」との声があがった。里山と小学校の境目に用水路が通っていることからのアイデアだ。
一般の住民からすれば区別がなくてあたり前だが、行政にとって里山を自然公園として整備することと、農業用水路を利用して小学校の敷地内に観察池をつくることはまるで事柄がちがい、費用の面でもその捻出は容易なことではない。しかし、地元住民の要望に応えるため、農業(基盤整備)、学校・教育などに関係する部署、さらには県が知恵を絞り、用水路の受益農家の理解を得たうえで、公園整備とは別に『ふるさと水と土ふれあい事業※』の導入をはかり、平成9年度の採択となった。
より良い地域づくりのため、行政部署と分野を超えた横断的な連携、協力が実を結んだ結果といえるだろう。
※ふるさと水と土ふれあい事業/多面的な機能をもつ用水路、ため池などの今日的な利・活用を通じて、土地改良施設を守っていくことを基本に、地域の住民活動や地域外住民の参加を含んだ共同活動の活性化のため設けられている国の補助事業。
(水に接し、自然と親しむ「親遊池」)
築造工事は平成10年9月末からはじまり、農業用水路の改修とともに、構内を通る部分のうち約20mが観察池として整備された。幅は最大で約3mほど。
池は自然界の多様さを少しでも反映できるように、ショウブなど湿地を好む植物を植える部分、子どもたちが入れる浅瀬、タニシやメダカなどの水生動植物を育てる深みにわけられ、水田に水を引かない時期や渇水期には水質の悪化を防ぐため、循環用ポンプが作動、水を浄化している。また、景観への配慮から石積みが施された。
待望の池開きは平成11年7月14日。関係者、学校職員、児童らが参加し、三重メダカを育てる会会員による講演ののち、児童らによってテープカットが行われ、約300匹のメダカが真新しい池に放流された。
ちなみに「メダカ」についているラテン語の学名〈Oryzias〉にはイネ〈米〉という意味が含まれ、まさに田んぼの魚といってもいいだろう。小学校では5年生でメダカについて習う。近年その数が減少し、環境庁レッドデータブックに絶滅危惧種Ⅱ類として登録され、生態系危機の象徴としてマスコミの話題にのぼったことは記憶に新しい。
関小学校では、池の整備にあわせて自然観察クラブを新たに発足させ、農村地域でも珍しくなった生態系を身近に観察しようと取り組んでいる。取材当日は、5・6年生からなる環境委員会が課外活動として池の清掃を行っていた。暖かいとはいえ12月初旬のこと、校舎の影が伸びると肌寒さはあったが、子どもたちは元気いっぱい、長靴をはいて池に入り、冷たい水に手を突っ込みゴミや落ち葉を集めていた。
また、全校から募集した池の名前が決まり、先生たちとともに看板の取りつけが行われた。名づけて「親遊池(しんゆういけ)」。周囲にはフェンスがなく、自由に出入りし遊べることから、読んで字のごとく親しく遊ぶ池、さらには親友にも語呂をあわせたネーミングだ。安全面に配慮を払いつつ、子どもたちが水や生態系とじかに親しめるよう、自由さを確保した池のつくりからは、関係者の知恵と努力、子どもたちへかける願いがうかがわれる。
(地域のなかで育つ子ども)
池が完成して約5ヶ月。関小学校では、環境委員会の課外活動、自然観察クラブの活動のほか、授業での活用も考えているという。
「せっかく良い池をつくっていただきましたので、課外活動だけではなく、学年に応じて、農業やその歴史、地域などを学ぶ社会科、あるいは生物との関係から理科など、授業のなかでも子どもたちに十分かかわらせていきたい」と校長は話す。
しかし、この小学校は農村地域にあり、山や川など豊かな自然もたくさん残されている。子どもたちは小さな池をきっかけに農業や自然を学んだりするのだろうか。「周囲に田んぼがあるといっても、子どもたちはどこから水(農業用水)がくるのか知りません。自然もそうです。近くに山や川があっても、そこで遊んだ経験はほとんどない。危ない!といわれ、近づかないのが現実でしょう。ですから、昔とちがって日常生活のなかで農業や自然とかかわる機会はめったにないし、そこに目を向けることすら少なくなっています。家と学校の往復、あとは塾ぐらいが子どもたちの生活範囲でしょうか。その意味で親遊池には、子どもたちと自然の橋渡しの場として、同時にいろいろなことを学ぶ絶好の出発点として期待しています」(校長)。
また、住民の発案、各分野の連携といった地域の協力で池ができあがったという点も、教育の今後の方向を考えたとき注目される。学校外の専門知識や知恵の活用、地域住民と学校の連携など、地域とのつながりを重視した開かれた学校づくりは、教育の重要課題といえるだろう。そして何よりも「関町の子どもが関町の子どもとして地域のなかで育っていく」(校長)ことの意味は大きい。
一方、『ふるさと水と土ふれあい事業』と学校の教育現場が直接連携したことも三重県下でははじめてであり、全国的に見ても数少ない意義深い事例だろう。土地改良施設を中心とした住民活動はもちろん、農業、地域の将来を担うのは紛れもなくこの子どもたちである。