伊勢湾は流域面積や水域面積が広く、河川流入量も多い特徴を持つ湾であり、閉鎖性海域(へいさせいかいいき)と呼ばれています。閉鎖性海域とは、湾口部が狭く、内海と外海との海水交換が行われにくい特徴があります。このような地形的な特徴は、環境悪化しやすいという懸念もあります。
陸域から流入する栄養塩類(窒素・りん)は量が多すぎると赤潮(あかしお)や貧酸素水塊(ひんさんそすいかい)等の環境悪化を引き起こしますが、生態系と支える植物プランクトンの栄養となるため、海の生物には不可欠なものとなります。
1.水 環 境
高度経済成長期に陸域から栄養塩類(窒素・りん)が大量に流入し、水質の悪化が進行しました。植物プランクトンが大量に発生する赤潮(あかしお)や大量の植物プランクトンが死んで海底に沈降し、海水中の酸素が少なくなる貧酸素水塊(ひんさんそすいかい)などが発生し、伊勢湾内の豊富な生き物に大きな影響をあたえました。
貧酸素水塊による貝類のへい死 伊勢湾沿岸域に発生した赤潮
伊勢湾の水質悪化を防止するため、水質総量削減制度による排水規制や生活排水処理施設等の整備による水環境改善対策が行われてきました。その結果、環境基準達成率の向上など、近年水質は改善傾向にあります。
河川と海域の環境基準達成率の変化
2. 生 物 生 息 環 境
伊勢湾の生き物の約80%以上は、水深5mより浅い、藻場・干潟・浅場に生息しているといわれています。このような場所は、「海のゆりかご」と呼ばれ、重要な生物の再生産や生息場所となっています。しかし、開発による埋立等により、藻場や干潟は大きく減少しています。また、赤潮は近年減少傾向ですが、貧酸素水塊(ひんさんそすいかい)は拡大・長期化傾向にあります。
水質は改善傾向にありますが、伊勢湾の生物生息環境はまだ改善されていない状況です。
伊勢湾における藻場・干潟の変遷
伊勢湾における貧酸素水塊の最大面積と赤潮発生日数の変化
3. 新たな課題(海域の生物生産性の低下)
海域の栄養塩類(窒素・りん)の減少にともなう、生物生産性の低下が、新たな課題となっています。近年では、伊勢湾における主要産業のひとつであるクロノリ養殖の色落ちや生産量の低下をはじめ、湾内で生息する、アサリやハマグリ等の二枚貝類や、底生魚類の漁獲量が激減しています。海の生物には、栄養塩類と呼ばれる海水中の適正な窒素・りん濃度と、藻場・干潟などの生物生息環境が大切です。
伊勢湾内で生活史をもつ水産資源の漁獲量の変化 全窒素、全りんの平均濃度の変化
クロノリ全生産枚数に対する低品質ノリの割合の変化