吉野熊野国立公園(三重県側)のあらまし
黒潮あらう熊野灘から近畿の屋根・大台ケ原まで
指定日
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昭和11年2月1日
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面積
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17,065ヘクタール(令和5年3月31日現在)
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市町
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尾鷲市、熊野市、大台町、御浜町、紀宝町、紀北町、大紀町
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自然美
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瀞峡、大杉谷、七里御浜、大台ケ原、獅子岩、鬼ヶ城、楯ヶ崎
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動植物
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ツキノワグマ、オオダイガハラサンショウウオ
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歴史的
建造物 |
熊野古道
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近畿の主峰、大台ヶ原とここに源をもつ宮川の上流域から、大峰山系(奈良県)と北山川(熊野川)流域を含む山岳地帯と、熊野川河口から尾鷲湾にかけての熊野灘沿岸の海岸地帯とをあわせた広い区域です。山岳、河川、渓谷、海岸と、雄大で異なった景観がこの公園を特色づけていますが、年間4千ミリメートルにも達する多雨がこの地方の自然と風土を育んでいます。
日出ヶ岳(1,695メートル)のある大台ヶ原は、かつて大平と呼ばれ、隆起準平原の名残りをとどめる平担地がみられます。また、宮川の源流部は深いV字峡をなし、堂倉滝、七ッ釜滝、千尋滝など幾多の滝と、岩を蝕みながらとうとうと流れる急流がつくる美しい渓谷美で知られる大杉谷で、その流れは宮川ダム湖に注ぎます。
かつて御杣山として神宮用材を搬出していたこの山地は、標高800メートル付近までが、シイ・カシなどの常緑広葉樹林、それ以上1,600メートル付近までがブナ・ミズナラなど落葉広葉樹林、1,600メートル付近以上の大台ヶ原にトウヒ・ウラジロモミなど亜高山性針葉樹林がみられ、大杉谷から大台ヶ原にかけては九州から北海道までの、日本の森林の縮図となっています。生きた化石といわれるコウヤマキやトガサワラも群落をつくって生育し、渓谷ではサツキツツジ、ウチョウラン、アサマリンドウなどが渓谷美に彩りを添えています。この多様な森林に育まれて、ツキノワグマ、ニホンカモシカ、シカなど大型野生動物が多く生息し、渓流にはオオダイガハラサンショウウオが潜んでいます。大台ヶ原の針葉樹林はコマドリ、ルリビタキ、メボソムシクイなど亜高山性鳥類の繁殖地で、初夏から夏、美しいさえずりが森に響きます。
大台ヶ原から南へ流れる北山川流域は浸食作用による深い峡谷で、三重・奈良・和歌山にまたがる瀞峡(国の特別史跡)は代表的な自然景観をおりなし、屏風のような断崖が渓畔の常緑広葉樹林とともに自然の妙をみせています。この地域は熊野路として古事記や万葉集にも登場し、中世には「蟻の熊野詣」といわれた程に栄えたところで、平成16年8月にはこれらの参詣道が「熊野古道」として世界遺産にも登録されました。また、かつては大きな鉱山がありましたが、その跡は現在、湯ノ口温泉となっています。
熊野灘沿岸は、北部は岬と入江の交錯するリアス海岸で、楯ヶ崎(県の名勝・天然記念物)をはじめ、九木崎、三木崎など熊野酸性岩の見事な柱状節理の断崖が雄大な景観をつくっています。また、熊野酸性岩が海蝕されて、いくつもの海蝕洞が約1キロメートルにわたって連続する奇勝鬼ヶ城と、熊野灘にむかって咆哮する巨大なシシの姿に似た獅子岩(いずれも国の名勝・天然記念物)は、長い時が刻んだ自然の造形物です。南部の鬼ヶ城から熊野川河口までの約20キロメートルは、滑らかな砂礫海岸がつづく七里御浜があり、背後にあるクロマツの防風・防潮林とともに、遠く紀伊の山々を望む雄大な景観です。尾鷲湾の佐波留島、九木島、九木神社(国の天然記念物)などのシイ、タイミンタチバナ、バクチノキなどの常緑広葉樹の自然林、須賀利大池のハマナツメ群落などは注目すべき植物景観で、温暖多雨に恵まれて、ビロードムラサキ、クサマルハチ、ツゲモチなど暖地性植物も生育しています。また、佐波留島のアオサギ集団繁殖地(県の天然記念物)の沿岸には冬、セグロカモメ、ウミネコなどカモメ類が多数渡来します。生簀に止まったり、漁船につく海鳥の姿は熊野灘の風物詩です。古来、熊野の海は好漁場で、九鬼の大敷(定置網漁)は多くの水揚げを誇っています。