三重県情報公開審査会 答申第424号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、「課題」の部分については開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成26年10月30日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の工事にかかる契約及び内容について分かる全ての文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成26年11月12日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書及び本件非開示部分について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定工事にかかる仮建設工事請負契約書における技術提案書である。そして、本件対象公文書において、実施機関が非開示とした情報は、技術提案書における「課題」および「対策(対策内容、具体的な検証方法及び補足説明のための図・表・写真等)」(以下「本件非開示部分」という。)である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
公契約に関しては、原則公開であり、防疫調達品等、外交上、国防上の秘密に係る部分は、特定秘密保護法に相当すると政府が決めた事項以外は公開されなければならない。「技術提案」の内容の如何に関わらず一律に非開示とすることは公開の原則と説明責任に違背し、容認できない。つまり、特許技術等には知的財産としての価値があるが、ほんの少しだけ創意工夫がなされた提案についても非開示とすることは許されない。
また、公共工事の品質確保の促進に関する法律において、技術提案がなされた工法によってどれだけの効果があったかを検証しなくてはならず、それを明らかにするためにも今回の非公開は不当である。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
「公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針の一部変更について」(平成26年9月30日閣議決定)第2の4(1)ロ「発注者は、民間の技術提案自体が提案者の知的財産であることにかんがみ、提案内容に関する事項が他者に知られることのないようにすること、提案者の了承を得ることなく提案の一部のみを採用することのないようにすること等取扱いに留意するものとする。」とされていることから、総合評価方式における技術提案資料の内容全てが知的財産であり、三重県情報公開条例第7条第3号(法人情報)に該当し当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるので、部分開示としている。
また、落札者の技術提案については、請負契約書に添付されているため三重県情報公開条例第17条(第三者に対する意見書提出の機会の付与等)にもとづき、公開することへの意思確認を行ったところ、開示に反対の意見を示されたことから、部分開示と決定した。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
当審査会において本件対象公文書を見分したところ、本件非開示部分には、県が示した「安全対策」と「施工上留意すべき課題と対策」に関するそれぞれ3つの提案項目に対して、どのような点に留意して取り組むかを記載した「課題」、「課題」に対してどのような対策を講じるかを記載した「対策」の2点が含まれている。
「対策」の部分については、当該落札事業者(以下、「落札者」という。)が設定した「課題」に対して、いかなる方法で充足し、結果を証明するための資料として何を提出するのか、工事現場においてどのような配慮をすべきか等の落札者の応札技術、具体的な技術提案が記載されており、当該部分の対策内容は、落札者の施工経験、施工実績等に基づく独自のノウハウに当たるものということができる。したがって、当該部分を開示すると、他の同種工事の入札において、競合他社等が当該部分の記載内容を模倣した技術提案書を作成・提出することが可能となり、競合他社等による対抗的な事業活動が行われる等、落札者の競争上の地位その他正当な利益を害するものと認められる。
しかしながら、「課題」の部分については、一定程度、落札者の施工経験等が反映されているとはいえ、その内容は落札者が有している独自のノウハウであるとまではいえず、当該内容を公開したとしても、落札者の競争上の地位その他正当な利益を害するとまではいえないと考える。
以上のことから、「対策」については、本号本文に該当し、同号ただし書イ、ロ又はハの情報には該当するとは認められないことから、非開示とすることが妥当であるが、「課題」については、開示すべきである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
27. 1. 9 |
・諮問書の受理 |
27. 1.26 | ・理由説明書の受理 |
27. 1.27 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
27. 3.10 |
・書面審理 (平成26年度第7回A部会) |
27. 4.21 | ・審議 ・答申 (平成27年度第1回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 (平成27年3月31日まで) |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 |
川村 隆子 |
名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※委員 | 髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 村井 美代子 | 三重短期大学教授 (平成27年4月1日から) |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。