三重県情報公開審査会 答申第421号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成26年6月26日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「桑名東員線排水ポンプ設置に係る性能・能力を決定した内容のわかる文書」及び「冠水時における活動(ポンプ)のわかる文書(平成23年7月25日ほか4日分など)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成26年7月8日付けで行った公文書開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は以下のとおりである。「冠水時における活動(ポンプ)のわかる文書(平成23年7月25日ほか4日分など)」については、異議申立人が指定した日の水防待機日誌を本件対象公文書として特定した。また、「桑名東員線排水ポンプ設置に係る性能・能力を決定した内容のわかる文書」については、請求時点で存在しなかったため、不存在である旨を決定通知書備考欄に記載している。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
桑名東員線の東方及び登別の2立体交差の排水ポンプの性能決定と冠水時の稼働状況の記録文書の公開を請求したが特定された文書は水防待機日誌であって正鵠を失している。
決定通知書備考欄の記載については、平成18年より足掛け9年間教示を要請してきたが、当該関係書類が見当たらないことと、また、平成26年5月14日、同年6月16日付けの提示された2つの雨水排水対策には、明確に計画降雨は何れも114.4mm/時間と記述されている故、これまでの9年間の経緯と提示された2つの添付書類の計画降雨数値から備考内容について整合性は絶無である。
浸水により通行止めがなされるということは、本県道の計画や設計に遺漏が内在する証拠の現れと考え、平成18年より9年間、折衝を行ってきたが、「これに関わる計画や設計の資料は見当たらない」の一語に終始された。公文書管理規程において、特に必要と認められる公文書はその保存期間を延長しなければならないと規定しているにもかかわらず、保存期間を経過したため廃棄したという実施機関の説明は公文書管理規程に違反している。また、協働を申し出てきたが、対応は極めて鈍く、昨年度末までには何ひとつ納得のできるものは示されなかった。
5 実施機関の説明要旨
県道桑名東員線には鉄道と立体交差をする箇所が2箇所あり、一方は概ね平成5年度、もう一方は概ね平成10年度にポンプ設置工事が完了している。平成5年度に工事が完了した箇所については概ね1年に1回以上は冠水し、通行止めせざるを得ない状況となっている。
「排水ポンプ設置に係る性能・能力を決定した内容のわかる文書」については、三重県公文書管理規程で規定する「保存期間10年の公文書(9) 補助金、交付金等に関する重要な文書」に該当し、請求時点で保存期間を経過しており、廃棄済みであることが確認されたため、不存在である旨を通知した。
「冠水時における活動(ポンプ)のわかる文書(平成23年7月25日ほか4日分など)」については、異議申立人が指定した5日間においてはいずれも水防待機を行っており、水防待機日誌において道路の通行止めをいつ開始したかなどを記録しているため、本件対象公文書として特定した。なお、ポンプについては、一定量の水が溜まると自動的に作動し、また、一定量を下回ると自動的に止まるシステムとなっており、その活動状況を記録する機能は付いていない。
「決定通知書備考欄の記載については、平成18年より今日迄足かけ9年間にわたって内容の開示を懇願したが呈示は何ひとつ一度もなかった」と主張しているが、主張されている件について公文書開示請求をされたのは、今回が初めてである。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 開示決定について
実施機関から聴取したところ、「排水ポンプ設置に係る性能・能力を決定した内容のわかる文書」について、概ね平成10年度までにポンプ設置工事が完了しており、請求時点では10年間の保存期間を経過し、廃棄され、存在していないという実施機関の説明に特段不合理な点は認められず、不存在としたことは妥当である。
次に、「冠水時における活動(ポンプ)のわかる文書(平成23年7月25日ほか4日分など)」について、ポンプにはその活動状況を記録する機能は付いておらず、水防待機日誌を対象公文書として特定した実施機関の説明に特段不合理な点は認められず、開示決定をしたことは妥当である。
以上のことから、本決定は妥当であると認められる。
(3) 異議申立人のその他主張について
異議申立人は「排水ポンプ設置に係る性能・能力を決定した内容のわかる文書」を保存期間満了に伴い廃棄した実施機関の判断は誤っていると主張するが、当審査会は、本決定時に行った判断の妥当性を調査、審議するものであり、公文書管理規程の運用について調査、審議するものではない。したがって、異議申立人の主張は受け入れることができない。
また、異議申立人はその他種々主張するが、いずれも審査会の判断を左右するものではない。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、審査会として次のとおり意見を述べる。
本件事案において、異議申立人は9年間にわたってアンダーパスの冠水する原因について実施機関へ相談を行っているにもかかわらず、その間、実施機関から情報公開制度の案内は一度もなかったと主張している。今回の場合は、異議申立人も上記制度を知っていながら請求を行わなかったと述べているが、県民が一般的に本制度を知っているとは限らない。今後、実施機関としては、県民に対して説明責任を果たすとともに、必要に応じて本制度の案内をするよう努められたい。
また、上記のとおり、当県道はたびたび一定量の降雨によって冠水しており、県民がその状況に対して疑問を抱くことは自然なことである。公文書の保存について、県民への説明責任を果たすためにその公文書が必要であると考えられるものについては、保存期間を延長するといった柔軟な対応をお願いしたい。
なお、本件事案は、公文書の特定にあたって、異議申立人と実施機関の意思疎通が十分図られなかったことが一因であると推測される。文書の特定について、実施機関側には、公文書の特定に必要な情報を請求者に対して提供する努力義務があり、請求者側には条例第6条第2項に規定されているように「実施機関が公文書の特定を容易にできるよう必要な協力をしなければならない」とされている。今後は公文書の特定が適切に行えるよう、双方が協力するよう努められたい。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
26. 9. 3 |
・諮問書の受理 |
26. 9. 8 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
26. 9.25 | ・理由説明書の受理 |
26. 9.26 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
26.10.20 | ・意見書の受理 |
26.11.11 |
・書面審理 (平成26年度第4回A部会) |
26.12. 2 | ・審議
(平成26年度第5回A部会) |
27. 1.20 | ・審議 ・答申 (平成26年度第6回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学経済学部准教授 |
※会長職務代理者 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
※委員 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。