三重県情報公開審査会 答申第419号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成26年9月2日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った特定地番の保安林指定承諾書についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成26年9月17日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書及び本件非開示部分について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、特定地番の保安林指定承諾書1件である。そして、本件対象公文書において、実施機関が非開示とした情報は、区長以外の承諾者の氏名(以下「本件非開示部分」という。)である。
4 異議申立ての理由
本件については、異議申立人から意見陳述を行わない旨の意思表示があったため、異議申立書に記載された異議申立ての趣旨に基づいて審議を行った。異議申立書及び意見書における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法律」という。)第14条第2項に慣行として開示請求者が知ることができる情報、人の生活又は財産保護する為開示が必要であると認められる情報は開示である。
「法律」に違反する「条例」は無効であるにもかかわらず、条例の個人情報を盾に全て非開示としている。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
保安林については、農林水産大臣又は都道府県知事がその必要性を認めれば指定することができ、法的には森林所有者の承諾は要件になっていないが、私的財産権に制限を加えるものであることから、運用上、承諾を得ることとしているものであり、保安林指定承諾書が広く一般に公開されているものではない。したがって、本件非開示部分は、三重県情報公開条例第7条の個人に関する情報であって特定の個人が識別され得るものに該当すると判断し、承諾者の個人名を非開示とし、部分開示とした。また、本件非開示部分は当時の区長の名前であったという疑いがあったが、本件対象公文書は20年以上前に提出されたものであり、現在実施機関が保有する公文書では確認できなかったため、個人名と判断した。本件非開示部分が登記簿における情報と一致するものであるかどうかについては、保安林指定承諾書は該当する土地及び森林の所有者から承諾を得るとは限らず、入会権等目に見えない権利も存在するため、実際の権利を持つ者から承諾を得る運用をしており、登記簿に記載されている所有者とは必ずしも一致しない
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件非開示部分は、実施機関が保安林を指定するに当たり、運用上得ることとしている保安林指定承諾書の「土地および地上物件に係る権利者」部分に書かれた区長以外の承諾者の氏名である。この情報は、個人に関する情報であって、直接あるいは他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報であり、本号本文に該当することは明らかである。
(4)条例第7条第2号(個人情報)ただし書の該当性について
次に、当該情報が本号ただし書に該当するかどうかを検討する。
異議申立人は、法律第14条第2項に規定する、法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができる情報及び人の生命、健康、生活又は財産を保護するため開示が必要であると認められる情報は開示であると主張する。
異議申立人が主張の根拠とする、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年五月三十日法律第五十八号)は、「行政機関において個人情報の利用が拡大していることにかんがみ、行政機関における個人情報の取扱いに関する基本的事項を定めることにより、行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益を保護すること」を目的に制定された法律である。
仮に法律により、本件非開示部分が開示できる情報であったとしても、請求者にのみ請求者本人に関する情報が開示されたに過ぎず、誰でも入手できる情報の開示がされたわけではない。なお、本件の実施機関は、そもそも法律第2条第1項における「行政機関」に定義されておらず、法律の規定が適用される「行政機関」ではない。よって、当該情報は一般に公にされる情報ではなく、本号ただし書イに該当すると認められない。また、本号ただし書ロに定める「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当する特段の事情も認められない。したがって、法律に基づき開示できるとする異議申立人の主張は認められない。
ところで、本件非開示部分は「土地及び地上物件に係る権利者」と記載された部分の氏名であることから、登記簿に記載されている権利者と一致する可能性も考えられるが、実施機関から聴取したところ、保安林指定承諾書に記載された権利者は登記簿に記載された権利者とは限らず、実際に当該土地に対する権利を持っている者から承諾を得る運用をしているため、承諾書に記載された氏名が登記簿に記載されている権利者の氏名と必ずしも一致するとは限らないという実施機関の説明に特段不自然、不合理な点は見られない。よって、条例第7条ただし書イに規定する公になっている情報とはいえない。
以上から、本件非開示部分を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(5) 異議申立人のその他主張について
異議申立人はその他種々主張するが、いずれも審査会の判断を左右するものではない。
(6)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
26.10. 1 |
・諮問書の受理 |
26.10. 2 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
26.10. 9 | ・理由説明書の受理 |
26.10.14 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
26.11.13 | ・意見書の受理 |
26.11.21 |
・書面審理 (平成26年度第7回B部会) |
26.12.19 |
・審議 (平成26年度第8回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学経済学部准教授 |
会長職務代理者 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
委員 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
委員 | 髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。