三重県情報公開審査会 答申第418号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った公文書開示に関する決定は妥当である。
ただし、開示方法について一部不備が認められるので、改めて、一部の不備を是正した開示をすべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成26年4月29日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った、「特定法人へ送付した文書の根拠となる公文書及びその文書を作成する件に関する決裁についての公文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成26年5月9日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 対象公文書について
本件の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は「土地の判断について」という標題の決裁文書であり、以下の3種類の文書が添付されている。
文書(1) 平成24年7月4日付け事務連絡「農用地区域の除外にあたり完了から8年経過が条件となっている
土地改良事業について」
文書(2) 地方自治法第251条の3第5項により準用する同法第250条の14第1項の規定に基づく、自治紛争
処理委員から千葉県知事に対する勧告
文書(3) 国営宮川用水第2期水利事業の目的を判断したパンフレット
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
実施機関から開示された文書は、特定法人へ送付した文書の根拠となる文書ではないため、不存在決定とすべきである。さらに、実施機関が理由説明書に記載している、開示した公文書に添付された3種類の文書のうち、文書(3)は開示がなされていない。
なお、公文書開示請求をした平成26年4月29日から公文書の開示を受けた5月20日までの間に公文書の特定に関して電話・訪問・メール等で確認をしているが、補正の指示はなかった。条例第1条、第6条第2項及び第3項並びに条例の解釈及び運用の第1条第4項(協議)に基づき開示する公文書を特定しなければならない訳であるが、条例第1条、第6条第2項及び第3項並びに条例の解釈及び運用の第1条第4項(協議)に基づいた協議が不足している。このことは条例違反である。
また、このような公文書を開示することは、実施機関の担当者が異議申立人に三重県から貸与されている作業服の着用方法(身だしなみ)が不適切であり、県民として不快感を覚えた為にその場で上司を呼んで注意をされたことに関する報復の部分があると思われる。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
公文書開示請求書の記載内容及び添付資料から、「土地の判断について(伺い)」を本件対象公文書として特定し、条例第7条第2項及び第3項に該当する部分を除き、開示した。本件対象公文書は特定法人へ回答をするにあたって作成した実施機関における決裁文書であり、「決裁文書」に該当する。また、本件対象公文書には3種類の文書が添付されており、それぞれの内容は次のとおりである。文書(1)は、農用地区域の指定の除外に関する条件について説明した文書である。文書(2)は、文書(1)で述べられた条件に当たるかどうかを争った例を示した文書である。文書(3)は、今回、特定法人が調査をしている土地がどのような目的で整備されたかを示すものであり、文書(1)で示されている条件に該当するかどうかを判断する文書である。そして、実施機関はこれらの文書を根拠として特定法人への回答を作成しているため、「根拠文書」にも該当する。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 本件対象公文書の特定の妥当性について
今回、異議申立人は実施機関が特定法人へ送付した文書の根拠となる「根拠文書」及びその文書を作成する件に関する決裁についての「決裁文書」を請求している。実施機関から聴取したところ、本件対象公文書は特定法人への回答をするにあたって作成した決裁文書であり、「決裁文書」に該当すると考えられる。また、本件対象公文書には3種類の文書が添付されており、これらを根拠に特定法人への回答文書を作成したと実施機関は説明する。
当審査会は、実施機関が「根拠文書」と考えたことについて、その当否を判断するものではなく、実施機関が「根拠文書」と考えた文書であるのか否かを判断し、文書の特定が妥当であるかを審査するものである。
したがって、実施機関の説明から、実施機関が「根拠文書」と考えた文書であるかを判断したところ、上記実施機関の説明に特段、不自然、不合理な点は認められず、実施機関が「根拠文書」とした文書を秘しているとか偽っている等とは解されないことから、実施機関が考えた「根拠文書」に該当すると考えられる。よって本件対象公文書の特定は妥当であると認められる。
(3) 開示時の対応について
公文書開示請求において、開示の方法は2種類あり、1つは閲覧(閲覧後、必要な部分の写しの交付も含む)、もう1つは写しの交付である。写しの交付を希望した場合、実施機関は対象公文書すべての写しを作成し、交付することで開示事務が完了することとなる。
本件において、異議申立人は公文書開示請求書においては写しの交付を希望しており、開示時に口頭にて「閲覧をしたうえで、必要な部分の写しの交付」を希望したため、実施機関は異議申立人から指定された文書のみをコピーするという対処となった。
このような場合、実施機関が対象公文書ごとに請求人に写しの要・不要の確認をする必要があったかどうかが問題となるが、当審査会としては、公文書開示請求書において写しの交付を希望していることを重視し、対象公文書ごとに写しが必要かどうかを実施機関が確認する必要があったと判断する。つまり、開示方法を口頭にて変更することにはなんら問題はないが、実施機関は異議申立人が「必要である」と認めたもののみの写しを交付するのではなく、請求人が「必要でない」と認めたもの以外はすべて写しを交付する必要があったと考える。
異議申立人及び実施機関に確認したところ、開示時、文書(3)についても閲覧できる状態にはあったものの、封筒の中に綴じられていたことから、異議申立人がその存在に気付かず、実施機関も文書(3)の写しの要・不要の確認は行わなかったとのことである。
よって、実施機関は改めて、一部の不備を是正した開示をすべきである。
(4) 異議申立人のその他主張について
異議申立人は、公文書を特定するにあたり、条例に基づく協議が不足していると主張しているが、今回、公文書開示請求書の記載内容及びその添付資料から、実施機関は問題なく対象公文書を特定したと考えられ、公文書を特定するにあたっての対応に不備はなかった。
また、当審査会は情報公開条例に基づき実施機関の行った処分についての不服申立てに関し審査するものであって、実施機関が特定法人へ回答した農用地区域の判断等について関係法令等に照らし合わせ、根拠としての妥当性を審査するものではない。
よって、実施機関が特定した文書は適切でなく、不存在決定とすべきであるという異議申立人の主張は認められない。
なお、異議申立人はその他種々主張するが、いずれも審査会の判断を左右するものではない。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、審査会として次のとおり意見を述べる。
本件において、異議申立人は実施機関が特定法人へ送付した文書の根拠となる公文書を開示請求しており、どのような根拠の元で文書を作成したかを知るために開示請求を行っていると推測される。実施機関は対象公文書を特定し、開示を実施するだけではなく、作成した文書についての説明を十分することにより、県民への説明責任を果たすことが望まれる。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
26. 7.15 |
・諮問書の受理 |
26. 7.16 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
26. 8. 4 |
・理由説明書の受理 |
26. 8. 7 | ・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
26. 9. 9 | ・意見書の受理 |
26. 9.19 |
・書面審理 (平成26年度第5回B部会) |
26.10.17 | ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (平成26年度第6回B部会) |
26.11.21 | ・審議
(平成26年度第7回B部会) |
27.12.19 | ・審議 ・答申 (平成26年度第8回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学経済学部准教授 |
会長職務代理者 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
委員 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
委員 | 髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。