三重県情報公開審査会 答申第417号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成26年4月8日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った、「特定法人へ送付した文書の根拠となる公文書等」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成26年4月21日付けで行った存否を明らかにしない決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 異議申立ての理由
異議申立書及び意見書における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
公文書開示請求をした日から平成26年4月21日まで一切連絡がなく公文書の存否を明らかにしない決定がされた。三重県情報公開条例第1条・第6条第2項及び第3項及び三重県情報公開条例の解釈及び運用に基づき、開示する公文書を特定しなければならない訳であるが、その連絡等もなく公文書開示請求書の記入方式を変更すれば開示ができたと思われるのに、実施機関からは一切連絡がなかった。実施機関が補正を指示すれば開示決定ができたので、決定の内容自体が間違っている。
また、実施機関は、特定の法人が特定の土地について調査をしていることが明らかになってしまい、その結果当該法人の競争上の地位を害する結果となると主張するが、本件請求はその特定の法人の社員が特定の法人の名前で行っているので、当該法人の競争上の地位を害するとはいえない。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
公文書開示請求の記載内容及び請求書の添付資料から、開示請求に対する公文書の存否を答えることそれ自体により、特定の法人が、特定の土地について調査をしていることが明らかとなってしまい、その結果当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害する結果となる。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)の意義について
公文書の開示請求があった場合、条例は、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならないが、条例第11条は、開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該公文書の存否を示さないで、当該公文書の開示をしないことができるとしている。そして、「当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるとき」とは、開示請求に係る公文書の存否自体の情報が条例第7条各号の規定により保護すべき情報に当たる場合をいう。この考え方に基づき、本請求の対象文書が存在するか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することになるか否かを、以下検討する。
(3) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性について
本請求は、特定法人へ実施機関が送付した文書の根拠となる公文書等を求めて行った開示請求である。
実施機関は、この請求に対して公文書の存否を明らかにすることは、特定の法人が特定の土地について調査していることが明らかとなり、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとして、条例第7条第3号に掲げる非開示情報を開示してしまうと主張している。
そこで、本請求について、公文書の存否を答えるだけで、特定の法人が競争上の地位その他正当な利益を害する可能性があるか否かを検討する。
本請求については、実施機関が許認可業務を担当しているため、公文書の存否を答えるだけで、当該法人が当該土地で何らかの事業活動を進めていることが推測できることになる。当該情報を開示すると、同業他社が当該情報を利用することにより、当該法人が不利益を被る可能性について否定し得ない。よって、当該情報は条例第7条第3号に定める法人情報に該当し、同条同号ただし書のいずれにも該当しないことから、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害する情報といえる。
なお、異議申立人は本件請求が特定の法人の社員がその特定の法人の名前で行っているので、当該法人の競争上の地位を害するとはいえない旨の主張をしている。しかし、条例に定める開示請求権は、何人に対しても等しく権利を認めるものであり、開示請求者に対し、開示請求の理由や利用の目的等の個別的事情を問うものではなく、開示請求者が誰であるか、又は開示請求者が開示請求に係る公文書に記録されている情報について利害関係を有しているかどうかなどの個別的事情によって、当該公文書の開示決定等の結論に影響を及ぼすものではない。よって、上記異議申立人の主張は認められない。
以上のことから、本件対象公文書の存否を明らかにしないこととした本決定は妥当であると認められる。
(4) 異議申立人のその他主張について
異議申立人は、実施機関が補正を指示すれば開示決定ができたので、決定の内容自体が間違っていると主張する。
しかし、「補正」とは、開示請求書の形式上の不備を補うための補充、訂正をいい、本件請求書については形式上の不備はなかった。また、実施機関は開示請求時点で公文書を特定することが困難である場合に補正を求めることができるが、本件請求については、開示請求時点の請求内容で公文書の特定が可能であったため、実施機関の対応に特段の不備があったとまではいえない。
なお、異議申立人はその他種々主張するが、いずれも審査会の判断を左右するものではない。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、本件事案について、審査会として次のとおり意見を述べる。
本件事案では、開示請求された時点で、情報提供により異議申立人が求める資料を提供できないかなど他の方法も検討し、異議申立人に対してより適切な方法を示すことで、対応可能ではなかったかと推認できる。それにもかかわらず実施機関は異議申立人に連絡を取ることなく一方的に本決定を行っており、あまりにも形式的に判断・処理しており、柔軟性を欠いた対応であったといわざるを得ない。
このような事務処理は、県民の知る権利を尊重し、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的とする条例の趣旨を損なうものである。今後、実施機関は同様のことがないよう、開示請求に対し真摯かつ丁寧に対応するよう努められたい。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
26 5.26 |
・諮問書の受理 |
26. 5.27 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
26. 6.13 | ・理由説明書の受理 |
26 6.16 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
26. 7.14 | ・意見書の受理 |
26. 7.18 |
・書面審理 (平成26年度第3回B部会) |
26. 8. 8 | ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (平成26年度第4回B部会) |
26. 9.19 |
・審議 (平成26年度第5回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学経済学部准教授 |
会長職務代理者 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
委員 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
委員 | 髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。