三重県情報公開審査会 答申第416号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立てに係る本件部分開示決定において非開示とした部分を取り消し、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成25年10月17日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った特定事業者の産業廃棄物処理業許可申請書に関する書類についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成25年11月27日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書に添付されている配置図(処理施設)、配置図(保管場所)、建設汚泥処理フロー図、保管場所の新旧対照表である。
4 異議申立ての理由
本件については、異議申立人から意見陳述を行わない旨の意思表示があったため、異議申立書に記載された異議申立ての趣旨に基づいて審議を行った。
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、概ね次のとおりである。
施設の配置図及び建設汚泥処理フロー図については、ほぼ同様の文書が三重県リサイクル製品の認定申請書の公文書開示請求にて開示がされているため、本請求において非開示とする理由がない。また、配置図については航空写真においても確認可能である。保管場所の新旧対照表に記載されている施設は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に規定される施設であり、公表されることによって当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
三重県情報公開審査会第17号答申(平成7年8月22日)では、産業廃棄物処理業者が処理施設設置の許可を得るために実施機関に提出した書類のうち、産業廃棄物の平均取扱量、処理施設の処理能力、処理工程フロー図等企業経営に関するものについて、次のとおり判断している。
「実施機関が本号に該当するとして非開示にした情報は、排出事業所の名称等当該事業に係る取引の相手方に関するもの、産業廃棄物の平均取扱量、処理施設の処理能力及び処理工程フロー図等企業経営に関するもの、従業員数等内部管理に関するものであるが、これらのうち処理施設の処理能力を除くその余の情報については、事業者が本来秘匿されるべきことを期待する事業取引内容あるいは事業内部情報であって、それらを開示すると、法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。」
「ただし書に該当する情報というためには、情報それ自体に人の生命、身体及び健康等を保護するため開示する必要性が認められなければならないと解されるが、本件対象公文書に記載されている法人等に関する情報にはその必要性が認められないことから、同号ただし書に該当しないことは明らかである。」
本件対象公文書に記載された建設汚泥処理フロー図、配置図(処理施設)、配置図(保管場所)については、上記答申の事例と同様に法人の生産、技術、営業等に関する情報であり、事業内部情報に該当することから、開示すると法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
ただし書の該当性に関しても、これらの情報は、事業者が産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請のために実施機関に提出したものであり、情報それ自体に人の生命、身体及び健康等を保護するため開示する必要性は認められない。
処理能力に関する情報について上記答申では、「事前協議書、事業計画書、申請書及び届出書の鑑部分の施設の規模又は能力の欄等に記載されている数値は条例第8条第2号に該当せず開示すべきものと判断する」としている。
本件対象公文書に記載された保管能力及び面積並びに積上げ高さ、新旧対照表(保管場所)の数値は、申請書の鑑部分ではなく、添付書類に記載された情報であり、法人の生産、技術、営業等に関する事業内部情報に該当することから、開示すると法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
同様にただし書の該当性に関しても、開示する必要性は認められない。
これらのことから、非開示としたものである。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本件対象公文書及び非開示部分について
本件対象公文書は産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書に添付されている以下の文書であり、実施機関が本決定において非開示とした情報のうち、異議申立人が開示を求めている情報は、次のとおりである
(a)配置図(処理施設)のすべて
(b)配置図(保管場所)のすべて
(c)建設汚泥処理フロー図のすべて
(d)保管場所の新旧対照表における保管能力及び保管高さ
異議申立人が開示すべきとしている、上記非開示部分について、当審査会において本件対象公文書を見分した結果を踏まえ、以下、非開示情報該当性を検討する。
(3)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務付けられることになる。
また、「公にすることが必要であると認められる」とは、当該情報を開示することにより保護される人の生命、健康等の利益と、非開示とすることにより保護される法人等又は事業を営む個人の権利利益とを比較衡量し、前者の利益を保護することの必要性が後者を上回る場合をいうものである。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
ア (a)、(b)の情報について
(a)、(b)の情報は、産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書の添付資料である処理場内の各施設の配置状況が記載された配置図であり、「各施設の名称」、「処理場内の距離等の数値」が記載されている。
これらの情報について、異議申立人は、インターネット上で公開されている航空写真や地図等により、アウトラインの確認が可能であるため非開示情報には該当しないとするが、それらは詳細部分が鮮明であるとは言い難く、また、それぞれの建物が何の施設であるかは判断できない。
しかし、当該配置図で明らかとなる施設の配置状況、事業場の面積、寸法等の情報は、これを開示することにより当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとまでは認めることができない。
したがって、条例第7条第3号には該当しない。
イ (c)の情報について
(c)の情報は、産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書の添付資料である当該法人の建設汚泥の処理フロー図である。
当該法人は実施機関の第三者照会に対して、「弊社独自の技術資料であり、開示請求者がこれによって得た情報を不当に使用することになり、弊社の利益を害するため、開示されると支障がある」と主張しているが、異議申立人が主張するように、今回非開示となった文書とほぼ同様の文書が「三重県リサイクル製品の認定申請書」にも添付されており、公文書開示請求がなされた場合、全部開示をすることに同意をしたうえで提出がなされている。このことから、これらの文書に企業として秘匿すべき情報があるとは考え難く、これらの文書を開示しても、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとまでは認められない。
したがって、条例第7条第3号には該当しない。
ウ (d)の情報について
(d)の情報は産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書の添付資料である保管場所の新旧対照表に記載された、各施設における産業廃棄物の保管能力である。これらの記載内容は、当該事業者の取扱う産業廃棄物の量を類推させるものであり、かかる情報はその事業経営上の内部管理に属する情報である。このような情報は、一般的には、専ら事業者の内部管理情報として保護されるべきものと考えられ、これらの内部管理情報を公にすることについては、当該法人が他の法人等と産業廃棄物処理業に係る競争を行う地位にあることから、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
したがって、条例第7条第3号に該当する。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)ただし書ハの該当性について
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)は、廃棄物の排出の抑制、適正な再生、処分等を行い、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とした法律であるが(同法第1条)、廃棄物のうちでも、産業廃棄物は、排出量が多量で危険物等が含まれる場合があり、その不法投棄事件も発生していたこと等から、同法は排出事業者に、産業廃棄物の最終処理の責任を負わせ(同法第11条第1項)、産業廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合には、知事の許可を受けた事業者に委託する義務を課すとともに(同法第12条第3項)、マニフェスト(産業廃棄物管理票)を交付し、その処理の状況を自ら把握、管理することを義務付ける(同法第12条の3)など、排出事業者等の責任等を厳格に規定している。
また、産業廃棄物の処理について、廃棄物処理法では、これを業とする者(収集運搬事業者、処分業者)に知事の許可を義務付けるとともに(同法第14条第1項及び第6項)、施設の許可基準(同条第5項第1号及び第10項第1号)、事業者の能力面及び不適格事由の有無の検討(同条第5項第1号及び第2号並びに第10項第1号及び第2号)、生活環境の保全を全うするための規定(同条第11項)等を規定している。
これらは、産業廃棄物の処理は社会にとって必要不可欠な事業であるが、何らの規制を加えることなく自由競争に委ねるならば、同事業が適正に行われない場合もあり得るものであり、県民等の健康・生活等へ重大な影響を及ぼすなど、取り返しのつかない事態になるのを避けるため、廃棄物処理法で、排出事業者等の責任等を定め、許可権限等を知事に委ねたものであるということができる。
一方、条例第7条第3号ただし書ハは、法人に関する情報であっても「公益上公にすることが必要であると認められるもの」については公開の対象となる旨規定している。これは、法人に関する情報には、当該法人の利害関係を超えて、県民生活に少なからざる影響を与え、又は与えうるものがあり、公益上公開するのが相当であると考えられるものがあるが、その場合には、公益と一方これを公開されることによる法人の不利益とを比較衡量した結果、なお公益の方が大とされたものを、条例第7条第3号の例外として公開の対象とする旨定めたものである。
確かに、(d)に記載されている産業廃棄物の保管能力及び保管高さは、法人独自の内部管理情報であり、これらが開示されることで競合他社等による対抗的な事業活動が行われる等、当該法人の競争上の地位その他の事業活動に不利益を与えるおそれがあることは十分に理解できる。
しかしながら、産業廃棄物は、排出量が多量で危険物等が含まれることがあり得るため、それらが不適切に処理された場合には、環境自体の汚染のほか、県民等の健康・生活等への影響や財産的価値の毀損等、地域的・時間的に非常に広範で、かつ深刻な悪影響を及ぼす可能性がある。また、このような環境等への悪影響は、すぐに明らかになるとは限らず、相当期間の経過後に発覚することも想定され、一度発生すれば、事後的に原状回復することは困難で、多額の社会的費用等が必要な事態になると認められる。
以上のように、産業廃棄物処理については、廃棄物処理法で各事業者の責任等を厳格に定めてはいるものの、その事業の一般的性質上、各事業者の運営状況等によっては、県民等の健康・生活等や自然環境等に重大な影響を及ぼす危険性があることは否定できない事実であり、同法の趣旨や制定経緯、産業廃棄物処理業に内在する社会的責任、社会情勢等に照らして総合的に勘案すると、非開示により保護されるべき法人の事業活動上の利益よりも、開示されることによる県民等の公益の方が、当該法人の利害関係を超えてなお優先され、公開を認めるのが相当であると判断せざるを得ない。
なお、異議申立人やその取引先企業の事業活動に起因する危害や支障が現実に無く、かつ、将来に亘って発生する可能性が極めて低かったとしても、各事業者個別の活動状況等を考慮し、公益上の観点から開示の是非を判断することは、その具体的な判断基準も存しない中で、かえって競争上不公平な扱いをするおそれがあり相当ではない。
したがって、当該情報は条例第7条第3号ただし書ハに該当し、実施機関が非開示とした情報について、その決定を取り消し、開示すべきである。
(6)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
26. 3.31 |
・諮問書の受理 |
26. 4. 1 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
26. 4.15 | ・理由説明書の受理 ・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
26. 5.16 |
・書面審理 (平成26年度第2回B部会) |
26. 7.18 | ・審議
(平成26年度第3回B部会) |
26. 8. 8 |
・利害関係人の口頭意見陳述 (平成26年度第4回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学経済学部准教授 (平成26年6月1日から) |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 (平成26年5月31日まで) |
会長職務代理者 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 (平成26年6月1日から) |
※会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学学長 (平成26年5月31日まで) |
委員 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
委員 | 髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。