三重県情報公開審査会 答申第406号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成25年3月14日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った立体化事業に係る鉄道事業者から提出された出来高確認書類についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成25年4月11日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、立体化事業にかかる平成19年度から平成23年度にかけて鉄道事業者から提出され、実施機関が取得した出来高確認書類である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
補助金交付申請及び実績報告書に添付するべき内訳書、明細書については、公金支出の公正、公開が原則であり、本件事業の交付相手先がJR東海、近鉄という民間法人であるからという理由のみで非開示とすることは、事業の性格、目的からも許されない。
また、両法人とも事業の公共性、公益性から公共機関に準ずるものとして理解されている。本件事業が私企業への財産的利益供与ではないかとの誤解を避けるためにも又、目的物の安全性、施工途中での安全性及び協定(契約)の履行の確保義務からも全面公開として、県民及び専門家からの自由な検証を可能とすべきである。
工事費の積算については、両鉄道事業者の独自の積算基準があったとしても、公共土木工事の積算基準等は、国が定め、県がそれに基づいて適用しており、特段の価格等の差異はなく、また、数量については、同時に公開している設計図から算出することが可能であることから、開示すべきである。
なお、異議申立人は、異議申立書において、出来高確認書類に記載された契約者を除く職名、氏名、印影などの開示も求めていたが、口頭意見陳述において、当該部分についての主張は撤回している。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
公益性の高い鉄道事業者とはいうものの民間法人(株式会社)であり、利益を追求する企業であることには変わりはなく、企業間契約の基となる単価等を開示することは、当該法人の長年の企業活動を通じて積み上げてきた重大かつ貴重な独自の情報が他者に知られることとなり、そのことは当該法人の事業活動に関し、契約に関する交渉をする相手に有利な情報を与え、金銭上の不利益を被り得ることから、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本件対象公文書及び非開示部分について
本件対象公文書は、立体化事業にかかる平成19年度から平成23年度にかけて鉄道事業者から提出され、実施機関が取得した出来高確認書類である。
実施機関が本決定において非開示とした情報のうち、異議申立人が開示を求めている情報は、別表のとおりである。
そこで、当審査会において本件対象公文書を見分した結果を踏まえ、以下、非開示情報該当性を検討する。
(3)条例第7第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
ア 立体化事業における実施機関と鉄道事業者の関係について
実施機関が管理する道路施設と鉄道事業者の管理する鉄道施設が立体交差する場合において、当該鉄道施設に影響を及ぼすおそれのある工事を実施する場合は、鉄道の運転保安上等の理由により、工事の施工主体である道路管理者が鉄道事業者に委託を行い、鉄道事業者が工事を施工しているのが現状である。
今回の事案についても実施機関が各鉄道事業者との間で委託協定を締結し、鉄道事業者が実施機関に代わって工事を発注、施工、監督及び検査を実施している。
そのため、鉄道事業者は、各年度の進捗に応じて実施機関に出来高報告を行い、実施機関が出来高検査を実施し、出来高認定された部分について、鉄道事業者に出来高払いを行っている。
鉄道事業者は、実施機関から支払われた金額のうち、管理費を除いた額を請負業者に支出している状況である。
イ 委託事業における透明性の確保の要請について
上記委託事業については、鉄道事業者に発注から施工、監督及び検査まで委託することから、公共事業に対する透明性の確保が難しく、行政側のチェック機能も不十分であったこと、また、昨今の公共工事に対する透明性確保の要請の高まりなどを受けて、国土交通省から「都市・地域整備局、河川局、道路局所管公共事業において鉄道事業者が工事を行う場合の費用等の透明性の確保について」(平成16年7月1日付国都まち第78号ほか)の通知が出されている(以下「透明性通知」という。)。
この透明性通知は、公共事業において事業の必要性や効果等について説明責任を果たすとともに、コストを厳しく見直し、効率的に事業を実施していくことが求められる中で、鉄道事業者との協定に基づく工事を行う場合は、実施機関は、工事等の内容・費用等について十分協議・把握することとし、公共事業の実施主体として、当該工事の内容及び費用等に関しての透明性を確保することを目的としている。
その後、「公共工事における鉄道委託工事を行う場合の透明性の確保の徹底に関する申し合わせについて」(平成21年1月22日付国都まち第75号ほか)が通知されており、上記透明性通知の趣旨を踏まえ、各段階において、必要かつ十分な協議、調整等を行うための資料の提出を鉄道事業者に対して求めている。
今回の対象公文書は、これらの通知に規定された様式に基づき、各鉄道事業者から実施機関に対して提出された出来高確認書類である。
ウ 公共工事における積算価格の公表について
県が発注する公共工事においては、事業の適正性、透明性の確保の観点から、積算価格については、一定の範囲で定める項目ごとの数量、金額について、契約締結後に公表を実施している。
また、積算価格に対する情報公開請求に対しては、条例第7条各号の非開示項目に該当する場合を除き、契約締結後は全部開示を行っている状況である。
当該委託事業について、積算を実施するのは、実施機関から委託を受けた鉄道事業者であるが、鉄道の運転保安上の理由から鉄道事業者が実施しているにすぎず、公共工事であることには何ら変わりがない。また、委託事業に係る透明性通知等が発出されている状況から考えても、事業の適正性・透明性の確保は必要であると考える。
また、今回の委託先である鉄道事業者は民間事業者であるが、公共交通である鉄道事業を担う事業者であり、その事業内容は公益性が高いことから判断すると、委託工事に係る鉄道事業者の積算内訳については、競争上の地位その他正当な利益を害するとまではいえず、一定程度の公表はやむを得ないと考える。
エ 競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれがあるか
実施機関が本号に該当するとして非開示とした情報は、別表の各情報である。本件対象公文書を確認したところ、実施機関が主張する鉄道事業者の法人情報だけではなく、鉄道事業者から工事を受注した請負業者の法人情報に該当する記載もあることから、以下においては、上記ウまでの判断を踏まえたうえで、それぞれの情報ごとに本号への該当性を判断することとする。
(ア) (a),(c)~(f),(n)の情報(工事台帳等に記載された数量及び単価)
当該情報は、「工事台帳」、「請求金額内訳書」、「請書(設計変更内訳書)」、「請求金額内訳書」、「出来形調書」及び「明細書」に記載された数量及び単価である。
本件対象公文書を確認したところ、工事種別ごとに数量及び単価の記載があるが全て工事種別ごとの一式となっており、詳細な単価を表したものではなく、工事種別ごとの合計額にすぎないものであることから、当該情報が開示されたとしても法人の競争上の地位その他正当な利益が害されるとは認められない。
(イ) (b)の情報(工事注文請書に記載された数量及び単価)
当該情報は、「工事注文請書」に記載された数量及び単価であり、鉄道事業者と請負業者との契約で決定された単価である。これらの情報については、開示することにより、請負業者である法人の競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれがあることから、非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(ウ) (g)~(k)、(m)、(p)の情報(請負金額内訳書等に記載された数量及び単価)
当該情報は、「請負金額内訳書」、「工事変更調書」、「請求金額内訳書」、「出来形調書」、「竣工調書」、「明細書」及び「数量計算書等」に記載された数量及び単価である。
本件対象公文書を確認したところ、工事種別ごとだけではなく、細分化された工種ごとに記載がされており、数量についても単位を示して具体的な数値が記載された情報である。
これらの情報については、当該工事の請負業者の詳細な単価が確認できる情報であり、当該情報は、請負業者の競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれがあることから、非開示とした実施機関の判断は妥当である。
なお、当該情報のうち一部数量については、工事種別ごとの一式表示となっており、上記(ア)と同様に開示すべきである。また、鉄道事業者の単価については、上記ウにおいて開示すべきと判断しているが、開示することにより、請負業者の単価を開示することとなる場合については、非開示とする。
(エ) (l),(o),(q)の情報(管理費等の内訳に記載された数量等)
当該情報は、「管理費の内訳」、「明細書」及び「監督員費実績・立会費実績」に記載された数量及び単価であり、当該工事に係る鉄道事業者の事務費及び監督員費の内訳について記載された情報である。
これらの情報については、鉄道事業者の内部管理に関する情報といえるが、委託事業として公共事業を実施していること、また、事業の適正性、透明性の確保の点から考慮すると、鉄道事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとまでは認められないことから、非開示とした実施機関の判断は妥当ではない。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別表
No. | 対象公文書 | 非開示項目 | 該当頁 |
---|---|---|---|
紀勢本線六軒・松阪間34km127m付近で交差する都市計画道路3・5・11号松阪公園大口線大口こ道橋(仮称)新設工事の平成22年度出来高確認書 | |||
a | 工事台帳 | 数量、単価 | 7,8 |
b | 工事注文請書 | 数量、単価 | 16,108 |
c | 請負金額内訳書 | 数量、単価 | 17,18,78 |
d | 請書(設計変更内訳書) | 数量、単価 | 20,24,25,27,29,31,33,36,38,40,42,80 |
e |
請求金額内訳書 |
数量、単価 | 44,49,55,62,69,85,88,91,94,96,100 |
f | 出来形調書 | 数量、単価 | 45~47,50~53,56~60,63~67,70~74,86,89,92,95,98,101 |
g | 請負金額内訳書 | 数量、単価 | 109~112 |
h | 工事変更調書 | 数量、単価 | 115~120,123~124,127~129 |
i | 請求金額内訳書 | 数量、単価 | 131~135,148~152 |
j | 出来形調書 | 数量 | 136~146 |
k | 竣工調書 | 数量 | 153~164 |
l | 管理費の内訳 | 従事者総数 | 165 |
山田線松ヶ崎第13号踏切道と交差する都市計画道路3・5・11号松阪公園大口線大口こ道橋(仮称)新設工事の平成22年度出来高確認書 | |||
m | 明細書 | 数量、単価 | 10~20,23~33, 178~192,214~216,234~241 |
n | 明細書 | 数量、単価 | 168~169 |
o | 明細書 | 数量、単価 | 173~177,248-2~251,258~259 |
p | 数量計算書等 | 数量 | 35~38,52,56~69,171,194~196,218~220 |
q | 監督員費実績・立会費実績 | 数量、単価 | 252~257 |
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
25. 5.27 |
・諮問書の受理 |
25. 5.28 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
25. 6.18 | ・理由説明書の受理 |
25. 6.18 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
25. 8. 6 |
・書面審理 |
25. 9.10 |
・審議 |
25.10. 8 |
・審議 |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学学長 |
※委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
※委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
委員 |
藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |