三重県情報公開審査会 答申第404号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成25年1月24日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った職員の懲戒処分等に関する書類についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成25年3月15日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、鳥羽港改修工事に係る不適正な事務処理を行った職員の懲戒処分に関する一連の文書である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
懲戒処分は法に基づく処分であり、人事管理、行政執行の公正さを明確に示す為に「当該職員」の氏名については、公開が原則である。
県は行政執行における違法行為について、県民に対してその事実関係と職員の関与の度合と責任及び組織的な責任と事後の改善措置について全てを公開しなければならない。
部分非開示決定は、職員個人の保護法益が行政庁及び行政執行上の公益より重いとする道理の無いもので、直ちに取り消されなければならない。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
被処分者の氏名は、それを公開することにより特定の個人が完全に識別されるものである。本件処分に関する情報は職務に関する情報ではあるが、被処分者の氏名を公にすることで、社会における個人の評価の低下につながり、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3)本件条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
(a)公務員の職務情報の原則開示
本号は、「公務員の職務に関する情報」を個人情報から除外し、原則開示することとしている。これは、公務員の職務に関する情報は、そもそも公務員の職務の性格上公益性が強いことから「個人に関する情報」には含まないこととし、当該情報を原則開示することとしたものであると解される。
(b)公務員の職務情報の中の例外的非開示
しかし、公務員の職務に関する情報であっても、例外的に「公にすることにより、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」については非開示とすることができるとされている。
これは、公務員の職務に関する情報であっても、同時に公務員の私事に関する情報の側面もあり、同側面の方が、明らかに大きいような場合(特定公務員の「給与額」「勤務成績」「処分歴」等)がこれに該当すると解される。
(c)本件対象公文書は「公務員の職務に関する情報」か
本件対象公文書は、鳥羽港改修工事に係る不適正な事務処理を行った職員の懲戒処分に関する一連の書類が対象であり、職務行為として行われた当該事務の内容と当該不適正事務に対する懲戒処分の内容についての記述で構成されており、当該情報は、「公務員の職務に関する情報」であると認められる。
(d)開示により私生活上の権利利益を害するおそれがあるか
実施機関が非開示とした「聴取り内容に記述された職員の氏名」は、具体的な職務行為を行った公務員の氏名であり、職務行為と一体となった上記(a)の「公務員の職務に関する情報」に該当し、開示すべきである。
しかしながら、職員が懲戒処分を受けたことは、職務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず、個人としての評価をも低下させる性質を有する情報であり、私事に関する情報の面を含むものと考えられる。したがって、懲戒処分の原因行為が職務に関することとはいえ、懲戒処分された職員の氏名については、個人情報としての側面が強く、公にすることにより、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあると考えられる。
すなわち、職務行為を行った公務員の氏名は、仮に職務行為が不適切で懲戒処分を受けることになったとしても、職務行為と一体として開示すべきであるが、職務行為に関して懲戒処分を受けた公務員の氏名は、処分を受けた職員の個人情報としての側面が強く、非開示とするのが相当である。
以上の点から、「懲戒処分を受けた職員の氏名等」の情報についての実施機関の判断は妥当であるが、実施機関が非開示とした「聴取書の聴取り内容に記述された職員の氏名(懲戒処分の対象者である聴取対象者の氏名を除く)」については開示するのが相当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
25. 4. 30 |
・諮問書の受理 |
25. 5. 2 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
25. 6. 18 | ・理由説明書の受理 |
25. 6. 18 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
25. 7. 9 |
・書面審理 (平成25年度第4回A部会) |
25. 8. 6 |
・審議 (平成25年度第5回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学学長 |
※委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
※委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
委員 |
藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |